第39話 王子毒殺未遂事件の裏側で1

 ベネット家では、幾人か王宮使用人の弱みを握っている。ミランダに早速メイドを紹介した。


 数日後、経過はどうなっているのかと王宮へ行くと、王族に近しい者たちや上級官吏がなぜか騒然としていた。

 何があったのかと聞いてみたが、城の使用人達は口が堅く誰も教えてくれない。いくら王妃に可愛がられているといっても新興伯爵家の娘だとバカにされる。



 毒を睡眠薬と勘違いしたミランダを介して、うちの息のかかった使用人がうまくやったはずだ。詳しく聞きたいが彼らが見当たらない。城内はバタバタとしていた。とりあえず王妃に面会を求める。


 待たされていらいらしているとやっと王妃の部屋へ通された。彼女が人払いをする。おそらく内密の話があるのだろう。やっと邪魔者が消えた。


「メリベル大変よ。リュカが毒をもられたわ。いま緘口令かんこうれいがしかれているの」

「は?」


 そんな馬鹿な。王子は試行錯誤して苦労しながら、攻略を進めてきたキャラなのに。逆ハーエンドが台無しじゃない。どうしてくれるのよ。ここにきて子飼いのメイドがしくじったのか。メインヒーローの王子が死んだ。

ゲームはどうなる? 逆ハーエンドはなさそうだ。悔しいが、これで隠しキャラは出てこない。誰エンドにしようか? リュカ以外で、得なのは……第二王子のエルウィンあたりか。



王妃は茶も出さずに、なおも言い募る。


「みな私がリュカを憎んでいるのを知っている。疑いがかかるかもしれないわ。なんとかフェリシエルの仕業で落ち着いてくれないかしら」


 彼女が優秀な第一王子を煙たく思っているのは知っていた。しかし殺したいほど憎んでいたとは思わなかった。この王妃は要注意だ。ゲームにはなかった事項である。


 しかし、意外にいい展開になっているかも。愛する王子を毒殺した罪で、フェリシエルが斬首される。冤罪で裁かれるとはなかなか面白い趣向だ。


 それにしてもミランダもメイドも使えない。王子の隣に寄り添いながら、あいつの処刑を見たかったのに。その件に関しては本当に腹が立つ。そのうえ楽しみにしていた断罪すらない。


 

 なんといってもフェリシエルは悪役令嬢だ。公開処刑だろうから、見に行くか。ランダムで変わる隠しキャラ、今回は誰だったのかが気になる。顔の良さから言えば、シャルル? それともまだ見ぬ他国の王子。いずれにしても、うちの執事はありえない。



 それから早く王宮のメイドを始末しなければ。バクスター商会に引き渡せば、跡形もなく処分してくれるはずだ。それに、万が一、メイドがつかまったとしても、彼女の口から出るのはミランダの名前だけで、メリベルにはつながらない。


(そういえば、これってエンドから巻き戻ってやり直せるのよね?) 


ちやほやされるのは好きだけれど顔もスペックもメインヒーローの王子が一番だ。彼は絶対にはずせない。今回はあきらめるしかなさそうだ。

もう一度ミランダを利用しようかしら。


「まったく、リュカは油断も隙も無いわね。隠れるようにしてあの生意気な小娘と二人きりでお茶を飲むなんて」


「はい?」


(いまこの女、何と言った?) 


「フェリシエルを執務室に呼んで、いまは使われていない古い客間に連れ込んだのよ。いまいましい」


(嘘でしょ。なんで? 私は王子の攻略に失敗していたの? いや、それはない。きっとフェリシエルが強引に王子の執務室に乗り込んだのだ。あれはそういう女だ)


 こうなったらなるべくフェリシエルが残酷に処刑される方法を考えよう。あっさり首をはねられるだけだなんて納得がいかない。



 落胆する王妃にいとまを告げ部屋を出た。だが、そこで信じられないものを目にする。王族居住区の回廊に王子がいた。生きていたのだ。

そしてフェリシエルと仲睦まじく寄り添い、何か話している。


 あれは遅効性の毒、気付いたときには全身にまわっている。解毒剤はない。あの毒を口にして生きていられるわけがない。


(どういう事? なんで生きているの)



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