十二話
「篠原さん、ご飯一緒に食べよ」
午前の授業が終わり、智絵の元へやって来た吉原深雪が智絵の元へやって来た。
「うん、いいよ〜」
「中庭でいいかな?」
「あたしも混ぜてー!」
智絵の横から、凛花が割り込むようにして仲間に入る。
そしてそれに続けて、
「わたしも……いい、かな」
武嶋佳純が自信のないおどおどとした調子でやって来る。
「もちろんだよ!」
智絵がそう言うと、佳純は花の様な笑顔を咲かせ、嬉しそうに智絵の隣に寄り添う。
「相変わらず、武嶋さんは篠原さんの事が好きだね」
「そうそう。明らかにあたし達とは態度が違うっていうか……知ってる犬猫が自分には懐いてくれないみたいな、もどかしさ的なのがあるよね」
「なに言ってるの二人とも。武嶋さん、そんな近いと流石に歩き難いから、ね?」
「……うん」
しぶしぶと五センチほど離れた所を定位置として、智絵の側からは離れない佳純。
そんな様子に苦笑しつつ、四人は深雪の提案した中庭へ向けて歩く。
四人は入学初日。ちょっとした事をきっかけに、よく行動を共にするようになった。
性格のタイプはそれぞれ違い趣味も違う。
けれど何故か四人がそれぞれ、一緒に居て嫌な感じが全くしないと感じ合うくらい、自然な距離感を既に構築していた。
まるで、もっと昔から友人であるかの様な、そんな感覚を凛花も深雪も佳純も抱いていた。
「中庭でご飯もいいもんだね」
「私もそう思うけど、鷹見さんのお弁当、なにそれ」
「え? のり弁」
「真っ黒じゃん」
「ふっふっふっ。具材も下にあるのさ!」
そう言って箸で海苔を退かせば、下には茶色一色のおかずが確かにあった。
「何で具材まで下に」
「海苔好きだし、全部にのせたらお得じゃん」
「お得って……それにしても、男子高校生の理想のお弁当みたいな感じだね」
「吉原さん的確な事言うね。ちょっと乙女心にダメージが……」
態とらしく泣くふりをして、凛花は自分も好きで茶色一色のお弁当な訳ではないと弁明する。
「うちは兄貴連中の影響が、姉妹にまで影響にちゃってねぇ。おかんが面倒だからって全部同じにしちゃうんだ、昔から」
同情を禁じ得ない話に、智絵が気になった事を凛花に問い掛けた。
「そういえば、鷹見さんって何人兄妹なの?」
「兄が二人と弟二人に、姉が一人と妹三人だから、私を入れて九人兄妹だよ」
「え!?」
「九人!?」
「……大家族、スペシャル」
驚愕する智絵と深雪だが、最後の佳純の呟きに疑問を抱く。
凛花はその反応が面白かったのか、とても楽しそうに笑う。
「はははっ! 確かにスペシャルだよね! まあ、うちはそんな感じ。でも兄妹って言えばさ、篠原さんも居るでしょ、お姉さんが」
――ぎくっ。
と、そんな音がしたかのような反応を示した智絵だったが、三人は気付く事なく質問を投げ掛ける。
「へえ、篠原さんのお姉さん見てみたいなあ。凄い美人そう」
「分かるぅ、あたしも見たーい!」
「……写真とか、ある?」
それだっ!
佳純の言葉に反応した凛花と深雪。
智絵は三人に見せてと、詰め寄られてしまう。
だがそんな事をされても写真などない。
そもそも姉妹というのは嘘だ。
しかし、家出を誤魔化す為に仕方なくやったことで、悪気があった訳ではない。嘘に変わりないのだが。
だというのに、こうも言い寄られてしまうと、悪い事をしてしまったという罪悪感のようなものが智絵の心に芽生える。
「あ――」
後ろ暗い気分で、智絵はこの場を切り抜ける為に更に自分の首を締めてしまう。
「あ――明日! 明日、写真撮って来るから、ね!?」
その台詞に満足した三人は、楽しみだねー! と話す。
智絵は何も楽しくはない。
心白は居候させて貰っている家の、姉でも何でもない、ただの他人だ。
それだというのに姉などと嘘を吐いて巻き込んだ挙句、写真まで要求するなど厚かましいにも程がある。などと、智絵は内心で焦っていた。
(どうしようっ)
智絵は笑顔の下で頭を抱えたのだった。
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