02話.[それはあるかも]
「んー? やっぱり谷田君が犯人だったのかな?」
「西乃さんか、あれを見てよ」
「あ、八代君と葉子だね」
少し離れた場所でふたりが会話をしていた。
ちなみに僕がここにいる理由は八代君に頼まれたからだ。
でも、正直に言って必要はないぐらいふたりは仲良くできているため、そろそろ帰ろうとしていたところで彼女が話しかけてきたことになる。
「最近、ああしてよく一緒にいるんだよ」
八代君が積極的に近づいているのもあるし、根来さんが拒まずに受け入れているというのがいい方にかどうかは分からないけど影響している。
「私があんまり葉子と話せていないのは八代君のせいかー、なんてね」
「興味を持ったのかもしれないね」
興味を持ったとは許可をされていないから言えなかった。
ぺらぺらと話してしまうような人間にはなりたくない。
「中学のときは三年間同じクラスだったからね、私だけ一年間も葉子と同じクラスになれなかったんだけど」
「はは、吸われたのかもしれないね」
「あ、それはあるかも」
っと、ふたりがこっちにやって来たから挨拶をしておく。
「なんでそんなところにいるんだよ」ととぼけてくれている彼には笑みを浮かべるだけで流した。
「ふむ、やっぱり谷田くんは私に興味があるんだねえ、西香と仲良くするようになったのもそれが目的でしょぉ?」
「たまたまだよ、西乃さんが話しかけてきてくれたんだ」
「別に隠さなくてもいいのにー」
そうか、根来さんと仲良くすることよりも西乃さんと仲良くなってしまう方がいい気がする。
それなら彼に勘違いされることもないし、なにかがあったときに動きやすくなるからだ。
「西乃さん、よければ友達になってほしいんだけど」
それならこっちも動かなければならない。
別に告白をするというわけではないから緊張することではないし、断られたら諦めればいい、一番嫌なのはなんにも動けないで時間だけが経過するということだった。
そんなことになるぐらいだったら動いて散った方がいい。
「私? 別にいいけど」
「ありがとう」
これまでもそうだったけど、こうして話せる相手は基本的にみんな優しいから断られることは少ない。
僕はこれを勝手に日頃の行いがいいからだとかそういうことにしている。
自分で言ってしまったらおしまいだろとツッコミが聞こえてきそうだけど、ネガティブに考えるよりはマシだと片付けていた。
「えー、なんでそこで西香なのー?」
「なんでだろうね?」
まあ、それも言うことはできないからとりあえずみんなで教室に戻った。
教室に戻ってからも一緒に会話をするような仲ではまだないため、自然と彼と話すことになった。
「どうして西乃なんだ?」
「話しやすいからだよ」
「本当にそれだけか? というかそれなら根来もそうだろ」
「根来さんも同じなんだけどね」
はっきり言っておかないとこれからも同じやり取りをすることになりそうだ。
だが、変な遠慮をするなよと言われて分かったと返したのにそれでは矛盾しているということになる。
ただね、友達と争うようなことはしたくないのだ。
「いやまあ自由だからいいんだけどさ、っと、戻るわ」
「うん」
西乃さんと関わっておけば根来さんともまだまだ話せるだろう。
掃除仲間でもある、そのときだけでも関われればそれで十分だ。
しかしあれはただの冗談なのだろうか……って、冗談に決まっている。
今日までまともに話したこともなかったのにいきなり友達になってほしいと求めたから根来さんは気にしているわけで、ただ友達として心配をしているだけなのに勘違いをしてはならない。
「やっほー、谷田君は食堂に行くんだよね?」
「うん」
「それじゃあ一緒に行こう、今日は寝坊して作れなかったんだよ」
ということはいつもはお弁当を作って持ってきているということか。
食堂のご飯は確かに美味しいけどそれなりに値段がするから僕も頑張るべきかもしれない。
「そっか、じゃあ八代君も――」
「いるぞ、早く行こ――」
「私も行くよー」
「ふっ、じゃあ行くか」
意識するまでもなく自然と四人で行動できているのはいいことだった。
近い場所から彼と根来さんが仲良くしているところを見られるのはいい。
また、なにかがあってもふたりのことを知っている彼女がいてくれるというのも大きかった。
「おぉ、混んでいるね」
「いつもこんな感じだぞ、だけど不思議とすぐに座ってゆっくり食べられるんだ」
教室内にいる人数よりも多いから混んでいるように見えるのかもしれない。
「そうなんだ、八代君は食堂マスターだね」
「い、いや、いつも谷田と利用しているというだけだよ」
「よっ、ろーうくんは食堂マスター」
「や、やめろよ……」
話すタイミングがないな。
まあいいか、ここではご飯を食べられればそれでいい。
出しゃばると冷静に観察をすることができなくなるからだ、別にそうやって言い聞かせているわけではない。
だから堂々と存在していようと決めたのだった。
「で、なんで西香なのー?」
「頼みやすかったからかな」
これは事実そうだ、八代君があれを言ってくる前だったらもう少しは変わっていたかもしれないけどそんなことを言っても仕方がない。
「それなら私でもいいでしょー」
「え、えっと、じゃあ友達になってくれるの?」
「なにか損することになるわけでもないんだからなるよー」
最初からこうしておけばよかったのだろうか。
まあでも、長引かせなかったから八代君とのそれを邪魔してしまったというわけではないから気にしなくていいか。
「あ、ありがとう、なんか想像とはちょっと違うかな」
「あ、私がいきなり二点とか言ったからだよね、ごめんごめんー」
「いいよ、じゃあ掃除をしようか」
「そうだねー」
でも、きっとこのままずっと仲良くなんてことはないだろうから気楽だ。
友達と戦われなければならないということにならなければ僕らしくいられる。
優しい子ではあるから仲良くはしたいけどね。
「さて、今日も部活タイムかー」
「教室に戻ってからだけどね」
道具を片付けて教室へ。
その途中で八代君と会えたから後は任せておいた。
長く話せるわけではないものの、少しでも話せた方がいいだろうから。
「じゃ、今度こそ行ってくるよー」
「うん、頑張って」
あまり経過しない内に西乃さんもやって来て同じようなやり取りをした。
正直、いいのかどうかは分からない。
いや、僕だけの話なら間違いなくこれはいいことだと言える、けど……。
「今日は雨も降っていないからどこかに寄っていこうぜ」
「いいよ」
彼がいつも通りでいてくれていることだけが救いか。
だけど仮にこのままだとしても自分の方から離れたくはなかった。
女の子だからとかではなくて他の子とは仲良くやれた方が間違いなくいいからだ。
なんて同じようなことを呟きつつ彼に付いていっていると「ここだな」と言ってから彼は足を止めた。
「ここは……」
外からだと普通の一軒家にしか見えない。
看板とかもあるわけではないから誰かの家なのだろうか――って、興味を持ちすぎて根来さんの家を紹介してきたとか?
「八代君、ここは?」
「あ、間違えた」
「えぇ」
「はは、まあたまにはこういうこともあるさ」
まだお若いのに不味いよそれじゃあ……。
で、結局そこからそう離れていない場所に目的地があった。
彼は気にせずに扉を空けて中に入っていく。
「いらっしゃ――なんだ緑郎か」
「こんちは」
「こんにちは、ん? あれ、その子は初めて見る子だね」
格好いい感じのお姉さんと仲良さそうに話している八代君。
なんというかこういう人とも関われていて根来さんも狙うなんて贅沢だなと言いたくなった。
「友達の谷田則男だ」
「初めまして、私はここの店を経営している――」
「まあまあ、別にそれを知ったところで意味はないだろ?」
もしかしたら通うようになる可能性もあるから無駄ではないだろうけど。
それとも仲良くしてほしくなくて止めたとか……。
「……まあいい、なにを飲む?」
「じゃあいつものコーヒーふたつで」
「かしこまりました」
他はともかくまとめて注文を済ませてもらえたのはよかった。
いつも食堂などでやり取りをしているから恥ずかしいわけではないものの、こういうお店に行くことは中々ないからだ。
あわあわしていると迷惑をかけることになる。
他のお客さんはどうやら現在はいないみたいだけどなるべく迷惑をかけないようにしたいから。
「仲がいいんだね」
「あーまあ、小さいときから世話になっているんだよ」
「そうなんだ、格好いい人だからなんか羨ましいよ」
男女とか関係なく格好良く振る舞えたらもっと違っていた。
吐いた言葉が相手に届かないまま終わるなんてこともなかったかもしれない。
一応努力を続けているつもりだけど、まだまだ時間はかかりそうだ。
「格好いい? あの人が? ぷっ、はははっ、初めてそんなこと――痛いぞっ!」
「余計なことを言わなくていいの、それより君」
「はい、どうしました?」
声音が低いのも格好いいと感じるところのひとつだった。
僕は少し高いから格好良さも可愛さも出ないのだと思う。
中途半端だ、元気に生まれてこられただけでも幸せと言えば幸せだけど……。
「いや、谷田君にではないな、緑郎に言いたいことがあるんだ」
「俺に?」
「多分、このまま続けても仲良くはなれないよ、友達の友達と仲良くしておく方がいいかもね」
「根来じゃなくて西乃と仲良くしておけって?」
「その子達のことは知らないけど私はいまそう見えたんだよ」
そ、そう見えたらしい。
彼は特に怒ることもなく「
「まあ、根来と関わっていれば自然と西乃とも関われるからな」
「私の勘だからあれだけどね」
「ふーむ、谷田ならどうする?」
「それでも僕は本当に仲良くしたい子と仲良くしたいかな」
それが理想、というか本当に仲良くしたいわけでもないのに誰かに言われて近づくのは失礼だろう。
ただ、最近出会ったばかりの僕の言葉よりもずっと前から一緒にいるこのお姉さんの言葉の方が力になるはずだった。
「あんなことを言っておきながらあれだけど谷田君の言う通りだよね、自分が本当に仲良くしたい子と仲良くしたいよね――っと、コーヒーをすぐに持ってくるからね」
全部彼とその相手の子次第だ。
「でもさ、本当によく当たるんだよなあ」
「二股をかけてるというわけではないし、仲良くするだけならいいんじゃないかな」
「だな、俺も西乃に友達になってもらうわ」
よし、なんとかこの話は終わりにできた。
でも、コーヒーは残念ながら大人の味だった。
「やあ」
「あれ、見間違いかな?」
インターホンが鳴ったから出てみたら何故か根来さんが立っていた。
だけど僕の家は教えていないからこれは夢ということにした。
「ろーうくんに教えてもらったんだよ」
「そうなんだ」
「じゃ、お邪魔しますよー」
「待ったっ、飲食店にでも行かない?」
「それでもいいよー」
よし、それならあそこに向かうことにしよう。
彼女を見せることであの人がどういう反応をするのかが気になる。
この前のあれをやっぱりなしってことにしてくれないだろうか。
「いらっしゃいませ」
「おはようございます」
って、開店していてよかった、開店時間も閉店の時間も知らないから助かった。
「おはよう、って、もしかしてその子が緑郎が言っていた子?」
「はい、根来葉子さんです」
「そっかそっか、あ、とりあえず座ってよ」
この前来たときもそうだったけど静かでいい空間だ。
とはいえ、お喋りをするにはあまり向かない場所かもしれない。
こうしてお姉さんが話しかけてきてくれているときはいいんだけどね。
「どうしようか……」
「コーヒーだけではなくて軽食なんかもあるよ? ほら、色々あるから」
「あ、それならまだ朝ご飯を食べていないのでこれをお願いします、根来さんはどうする?」
「私も同じ物でお願いします」
「かしこまりました」
敬語を使っているとまた印象が変わる。
魅力的な子だから八代君が動きたくなっても仕方がないか。
「ここ、この前八代君が教えてくれたんだ」
「そうなんだ、ろーうくんは食堂マスターというだけじゃなかったんだねー」
「うん、色々知っているんだよ」
さて、どうするか。
連絡先を交換しているからここで八代君を呼ぶのは簡単だ、彼女も自分から近づいていたから一緒に過ごすことが嫌なんてこともない。
でも、なんかするべきではないと止めてくる自分がいるのだ。
決して独り占めしたいとかそういうことではないけど、うん、なんか違う気がして結局連絡はしなかった。
運ばれてきた出来立ての朝ご飯を食べて色々満たされてしまったというのもある。
「それにしても谷田君がまた来てくれるとは思わなかったよ、この前も緑郎に無理やり連れてこられただけのように見えたから」
「八代君は優しいですよ、この前だって誘いを受け入れた結果ですからね」
「そっか」
無理やり連れて行かれたとかそういうことは一度もない。
一緒に行動しているときは自分の意思でいるわけだから問題ない。
傍から見たらそう見えるということならしっかりこうして言っていこう。
「はい、あ、だけどちょっとずるいと思いましたけどね」
「「ずるい?」」
「あ、あなたとも仲良くしておきながら学校では他の女の子と仲良くしているわけですから」
「はははっ、谷田君は面白いことを言うねっ」
え、なにこれ、物凄く恥ずかしい。
なんでも口にする人間性はなんとかした方がいいのかもしれない。
「私は緑郎のお母さんの友達というだけだよ」
「あ、そうなんですか」
そうなんですかって逆にそれ以外だったら怖いか。
さっきから馬鹿な反応ばかりをしてしまっている。
もうこれ以上重ねたらここに来られなくなってしまうから抑えよう。
「うん、それに緑郎からしたらこんなおばさんより若い子の方がいいでしょ」
「お、おばさんかどうかは……ですけど、格好いいですけどね」
お喋り大好き人間め、抑えようとはなんだったのか。
しかもそれに反応するならおばさんではありませんよと断言しろという話だ。
大体、根来さんと来ているのに望さんとばかり話しているのも悪い。
「あれれ、もしかして私は若い子に口説かれてしまっているのかな?」
「い、いえ、声音とかまとっている雰囲気とかが格好いいというだけで……」
「嘘だよ、でも、ありがとう」
望さんは根来さんの方を見て両手を合わせてから奥の方に去った。
「ごめん、連れてきておきながら放置するようなことをして」
「谷田くんはあの女性が好きなの?」
「格好いいと思っているだけだよ」
伸ばさないと早くも違和感を感じるようになってしまった。
あとこれは別に信用してくれているからではない。
気まぐれで伸ばしたり伸ばさなかったりしているだけだ。
「そっか、私は格好良さより優しそうな感じが好きだなー」
「ああいうお姉さんと知り合いだったら困ったときになんとかなりそうだよね」
「私で言えば西香かなー、あの子の存在は本当に大切なんだよー」
それは同じ教室で過ごしているだけで分かる。
僕もいつか八代君と同じぐらい仲良くなりたかった。
「ぐー、お腹空いた」
「え、さっき食べたばかりだよね?」
「いつもいっぱい食べているからこういうことになるんだよー」
「ははは……、それは大変そうだ」
僕の方は先程の量でもお腹がいっぱいであまり動きたくない状態だというのに流石運動部所属少女だ。
いやでも、パンとパンに挟まれていたサクサクとした魚のフライが本当に美味しかったな。
もう出来立てというだけでやっぱり力を貰えるのだ。
「んー?」
「あ、ごめん、これからどうするかと悩んでいたんだよ」
「どうしよー」
うんうん、やっぱり伸びるのが一番いい。
好きな人の前では直してもいいから僕の前ではこのままがよかった。
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