11
あの一件以来、前よりも酷くなってしまい、ベッドの隅に布団の中に潜り込んで、身を縮こまらせていた。
その姿を見て、無理やり外に連れて行かなければ良かったと深く後悔するのであった。
そんな日々を過ごしていたある日のこと。
いつもの癖で、彼が起きたかどうか見るために部屋を訪れると、静かに寝ている彼の姿があった。
いつもならば、苦しそうに顔を歪めて、もがいているばかりの少年のと比べると、珍しい光景だった。
このまま寝かせておいてもいいかと思っていた、その時。
「··········っ、き·····」
非常に掠れた声であったが、何かを言おうとしている。
非常に驚いた。
ここに来て、全く喋ろうとしなかったあの少年が。
「·····く、·····っ、ろ·····さ·····」
同じ言葉を呟いているようだった。覚えたての言葉を繰り返し言っている小さな子どものようだと思いつつも、何を言っているのか、もっと近くで聞こうと、口元に耳を寄せた。
「く、·····ろ··········さ、·····き」
くろさき。
今にも消えそうな声でやっと聞こえた単語であったが、聞き慣れない言葉だった。
もしや、これが彼の名前なのだろうか。
何故、自身の名前を繰り返し言っているのかは謎であったが、これでやっと彼を名前で呼べる。
歓喜に打ち震えていると、彼がゆっくりと目を開いた。
「おお、起きたか。クロサキ、はよ」
しばらくして、目が覚めてきただろうというタイミングで声を掛けてみた。
が、いつもと同じような、無反応を見せるのみだった。
名前じゃなかったのか。
ヒュウガは首を傾げていた。
しかし、いつまでも彼に構っている場合ではないヒュウガは、「外に出かけてくるから」と言い残して去っていった。
いつまでいても、あの少年がまた外に連れ出すと思いかねないと思い、気を遣った結果であった。
が、今の思えばそんな気を回さなければ良かったと、無理やり外に連れ出した以上に後悔するのは、まだ先の話だった。
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