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あの言葉が気がかりで、何にもする気にはならなかったヒュウガは、出来る限り少年そばにいて様子を伺っていた。
何をどうすればいいのかは分からずじまいであったが、ぬるくなったタオルを冷たい水に浸して、冷たくさせたタオルを額に乗せる程度のことはした。
そうしてやると、いくらは楽そうな顔をするので、きっとやる意味があるのだろうと。
そんな手探りでしていた一週間。
ようやっと、彼の熱を感じなくなった。
途端、ヒュウガは安堵の息を吐いた。
その後、熱を感じる前の彼に戻ったらしく、ヒュウガの姿を見かけた途端、眉を下げ、怯えた目で見つめていた。
ったく、今まで世話をしてやったのに、急にあんな態度を取りやがって。
心の中で吐いて、相も変わらず喋らない彼をチラリと見やった。
だが、熱を感じる前と変わったことといえば、ベッドの縁に座り、立ち上がろうとすることだった。
しかし、何故か立ち上がることが出来ず、転んでしまうのだが。
そんな場面を何度も見かけるうちに、この少年は歩くことが出来ないのではと思い至る。
ただ立ち上がるだけで転んでしまうのだから、きっとそうなのだろう。
どうして歩こうとしているのかがよく分からないが、今はこの少年が歩けるように練習にとことん付き合おうとした。
「ほら。支えてやるから、手を出せ」
今日もいつものように座ってから、立ち上がろうとしているタイミングを見計らい、目の前に来て、少年に両手を差し出した。
分かっていたことだが、やはりその時も、こちらに素直に差し出すはずがなく、俯いて、身を縮こまらせていた。
もどかしい。
半ば腹立たしく覚えたヒュウガは、膝上に乗せていた両手を無理やり掴んだ。
尋常ではない震え方をしていたが、気にしていては、いつまで経っても始まらないと思い、気づかないふりをした。
「片足ずつ、順番でやってみな」
「···············」
「転ぶことが怖いのか? オレが支えているから、大丈夫だ」
「···············」
顔を俯かせたまま微動だにしない。
「なんだよ、オマエ。自分で立とうとすると、転んでいやがるからこうしてやってんのに、急にやる気が無くなったのか? まあいい、オマエが少しでも歩けようになるまで、しつこくやるからな!」
これ以上何もする気がない彼にいつまでも付き合っている場合ではない。
手を下ろし、去り際、「じゃあな」と背後を振り返りながら言っても、こちらにチラリとも向けない彼の姿を見て、思わず小さくため息を吐いてしまっていたのであった。
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