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あの時の宣言通り、無理やり手を掴んで、片足ずつ立たせるよう促していた。
すると、やっとヒュウガのしつこさに嫌気が差したのか、恐る恐るながらも地に足を着け、立とうとしていた。
が、力が入らなかったようで、なかなか思うように立つことすら出来ずにいた。
そのようなことを繰り返しやり続けていくと、震えながらも片足、両足とやっとの思いで立ち上がることが出来たのだ。
それだけで大きな一歩だと感じ、「立てるようになったな! 良かったな!」と声を弾ませていると、今度はおずおずと一歩、また一歩と、が何故か同じ足でやろうとするので、「右足、左足でやってみ」と言うと、その言葉通りに踏みしめて歩こうとしていた。
そう言った歩行練習に付き合っていったら、おぼつかないものの、歩けようになった嬉しさもあって、少年に靴を履かせ、本人の意思を聞かずに、手を引っ張って、共に外へと行った。
いつまでも部屋にいてはいけないだろうという、ヒュウガの意向であった。
「"血の湖"って言うんだ」
ヒュウガの家から近い、この世界の大半を占める、名前の通り、血のような湖に顔を向けながら言った。
半ば無理やり外に行かせたものの、これと言って行かせる場所が無く、歩くのがやっとな少年のこともあって、あの湖のことを紹介してみたのだが、その間も俯いて突っ立ったまま、湖の方を見向きもしない。
興味が無いんだなとぐらいしか思わなく、ずっと立っていているのも辛そうに見てたので、ヒュウガが先に座り、座るよう促した。
少しの間の後、迷うような素振りを見せ、膝を抱えて座った。
「もっとラクにしてもいいんだぜ」
「···············」
そのまま微動だにしない。
出来るだけ面積を取らずといったように、身を寄せて、顔を隠すかのように、俯かせたまままであった。
まるで自分の存在を隠すかのような姿勢に、外に行かせるのは良くなかったと思い始めながらも、別の話題を変えた。
「そういえば、オマエはどこから来たんだ?」
「···············」
「あの時の儀式にいたよな? 覚えているか?」
「···············」
「名前は?」
「···············」
「···············」
人がいることに気づいていないのか、はたまた、息をしていないのかと思うぐらいに、単語すら話をしようとしない。
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