6

「ただいま·····」


 玄関を入るなりそう呟いて、真っ先にあの少年がある部屋へと赴いた。──が。

 なんと、彼は布団から出て、ベッドの縁に座っていたのだ。

 初めて見る光景にあっけ取られていると、まだヒュウガのことを気づいていないらしい様子の少年は、恐る恐る床に片足ずつつけ、立ち上がろうとしていた。

 何をそんなにも慎重にならなくてもと思っていた最中。

 ぐらり、と少年が倒れかけた。


「·····っ、あっぶねー!」


 咄嗟に駆け寄り、抱えた。


「おい、大丈夫、か·····」


 そう声を掛けようとした時。

 今までと同じように、異常なぐらい身体中を震わせていた。

 またか、と呆れにも似た感情を抱いていた直後、少年の息が荒くなってきたことに気づいた。


「いきなり、どうしたんだよ」


 ベッドの縁に座らせ、少年の顔を覗き込むと、息をするのが辛そうに眉を寄せている上に、ほんのりと頬を赤くしていた。

 そういえば、座るのも辛そうにしているので、肩辺りを掴んで支えて上げているのだが、さっきよりも身体が熱く感じる。

 何なんだ、これは。

 死神の体温は低いはず。それなのに、この少年はそれを上回る体温を持っていた。

 これではまるで、人間のような。

 人間であった記憶も無いし、まだ人間界には行ったことがないので憶測であったが。

 いや、今はそれよりも。

 座ることさえしんどそうで、今にも倒れそうな彼を布団に寝かせてやる。

 息をするのも苦しそうな彼に、一体どうしたらいいんだと頭を抱える。

 半死神であった頃でもこんなことにはならなかった。

 この少年が何がどうして、急にこのような状態になったのか。

 身体が熱かった。ならば、冷たくさせるか?

 そう思い至り、一旦部屋から出、冷たい水を染み込ませたタオルを持って、彼の額に乗せた。

 途端、小さく息を吐いた。

 幾分、楽になったのかもしれない。

 ヒュウガはその様子を見て、「全く、人騒がせな」と苦笑気味で言った。

 この様子だと大丈夫という程ではないが、大人しくしているか。

 急な出来事に少々疲れたヒュウガは、自室で休もうと彼に背を向けた時だった。

 服が何かに引っ張られる感覚。

 思わず後ろを振り返ると、何故か、やっとの思いで掴んでいる手で、ヒュウガの服を必死になって掴んでいたのだ。


「オマエ、どうした·····──」

「··········っ」

「·····は?」


 息も絶え絶えの半開きの口で何かを言おうとしていた。

 しかし、それは音にはなっていなく、口しか動いていない。

 必死に何かを言っている少年の口の動きをじっと見て、それでようやっと分かったのは。


「い·····か、な·····い·····で·····?」


 彼が何を言おうとしたのかは分かったものの、どうしてそのようなことを言っているのかが分からない。

 出会ってから、他人を拒絶するかのような態度しか取らないこの少年が、どうして。

 頭が混乱しているヒュウガはよそに、服を掴んだまま、少年は目を閉じた。

 その際に、一筋の涙を零して。

 言葉を失ったヒュウガは、しばらくの間動けずにいたのであった。



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