3

「全く、起きやしねー·····」


 ベッドに寝かせた少年を見て、ため息混じりに言った。

 少年を汚していた血は彼自身のではなかったようで、それらしい傷ではなかったことに安堵したのも束の間、汚れた服を脱がした時、驚愕した。

 白い肌が見えなくなるほどに、切り傷や鬱血痕、打撲痕と見るに耐えない傷痕が多く見受けられた。

 それさえも嫌になるぐらいと思ってしまったところに目についたのは、右手全体。

 右手の甲から二の腕にかけて、黒々とした幾何学模様のがさらに目立つほどに刻まれていた。

 見れば見るほどにおぞましく感じるそれに、耐えきれなくなったヒュウガは、それらから目を逸らすかのように、新しい服に着せ替え、寝かせた。

 その間も全く起きないということはどういうことなんだと、ヒュウガは疑問に思った。

 というのは、ある一定の年齢になると、この世界の絶対的権力を持つ屋敷にて、大鎌を授かる儀式を行なったことにより、完全に死神となり、今まで人間のように寝食することが無くなるからだ。

 寝ているように胸が上下しているこの少年は、恐らくヒュウガより年下なのかもしれないと思い至った。


「けど、あの時、コイツのことを見たような気がするんだが·····」


 儀式に向かった屋敷は、ヒュウガが住んでいる少々痛みが入っている家とは比べものにならないぐらいの煌びやかなところだった。

 通された儀式の間ですら、家が何軒分なのかと思うほど広々としていて、天井はかなり高く、思わず見上げてしまったところに、この少年と目が合った。

 上に傍聴席でもあるのだろうか、そんな高いところからこちらを興味ありげに見下ろしているのを見かけたのだ。


「だが、よく見たら髪色が違うような」


 少年の両もみあげ部分は漆黒と思わせる髪色であった。

 自分もそうだが、他の友人も銀髪であるため、このように他の色が混じっている髪色の者は見たことがない。

 首を傾げていた。

 すると、その時、長いまつ毛を震わせ、少しずつ瞼を開かせた。

 瞳の色はヒュウガと同じく、血のように紅い瞳。それが完全に開ききった。


「はよー。やっと目を覚ましたか」

「···············」


 微動だにせず、天井を見つめていた。

 寝起きが悪いっていうやつなのだろうか。自分がそうでなかったため、よく分からない。

 じっと見つめていること、どのくらい経っただろうか、ふいに少年がこちらを見やったかと思った瞬間。

 眉根を寄せ、瞳を潤ませ、今にも泣きそうな顔をしだしたのだ。

 人の顔を見るなり、なんでそんな顔をするのか。


「おい、なんだ──」


 少々怒りが込み上げ、声を掛けた直後、その視線から逃れるように、すっぽりと布団に潜ってしまった。


「は··········? テメェ、何のつもりだよ·····!」


 ついカッとなり、布団を掴んだものの、思い留まり、ため息を吐いて、部屋を後にした。


 しばらくして頭が冷えてきたヒュウガは、再びあの少年がいる部屋を覗いたが、まだ布団に潜っている様子であったため、放っておいて、友人の元へと向かった。

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