第15話 野外訓練 その4

 標的の熊はすぐに見つかった。

 私達がかけてくる足音が聞こえたのだろう。

 熊は足を止めてこちらを振り返った。

 熊はドラに向かって突進。


「し、シールド展開っ」


 ドラは咄嗟にシールドを樽に変形させて身を守る、っていうか。

 

「きゃ〜!!」


 ドラは熊にタックルされて樽ごと吹き飛ばされる。

 こうしてドラは呆気なく戦線離脱。

 熊が私をジロリと睨む。


「え?ちょ、ちょっと私一人で戦うの!?」


 一番戦力として期待していたコオはまだ姿がみえない。

 ドラは樽の中で気を失ったのか応答はない。

 私は無意識に背中のバスターライフルを手に持った。


「あ、こっちじゃなかっ……って来ないで!!」


 熊が目の前で立ち上がり、前足を振るう。

 私は咄嗟にバスターライフルで受ける。

 

 おっ?おおっ!!受け切ったわっ。

 流石魔法少女ギア!

 

「はははっ、魔法少女ギアの名は伊達ではないのだよ伊達では!」


 なんかハカセが嬉しそうに騒いでると熊がハカセに目を向けた。


「ハカセっ逃げて!」

「はははっ……ん?んん!?」


 ハカセは慌ててその場から逃げ出す。器用にこちらにカメラを向けながら。

 私の中で悪魔の囁きが聞こえる。


 ほっとけほっとけほっとけ……。

 

「って、ダメよ!ハカセがいなくなったら私の借金がどうなるかわからないじゃない!また黒服呼ばれるかもしれないっ」


 私は誘惑を振り切り、熊の後を追う。



 ハカセは追い詰められていた。


「まあ、落ち着け。まず落ち着けって!」


 もちろん、熊に人間の言葉が通じるわけもなく熊がハカセを攻撃。

 

「うわっとっ!」


 ハカセは熊の攻撃を回避。

 しかも、カメラをしっかり回しながら。


 ハカセ、なんか余裕っぽいんだけど……。


「って、ハカセ!カメラ捨てなさいよ!命がかかってるのよ!!」

「できるか!カメラマンとしての誇りが許さん!」

「あなたハカセでしょ!」



 明らかにハカセは魔法少女ギアと同等の何かを装備しているようだ。

 普通の人間があそこまでの動きを出来るわけがない。

 それで私は平常心を取り戻す。

 私が武器をセイバーに持ちかえ、熊へ向かおうとした時だった。



「待たせたなっ」


 そう言ってコオが現れた。

 私は心底ホッとした。


「コオ!本当に待ってたわよ!」

「後は任せなっ」


 そう言って、腰のセイバーをそれぞれの手に持つとぶう〜ん、と光の刃が発生する。

 熊はコオを強敵と察したのかハカセを無視し、コオと退治する。


「熊にしては正しい判断だ。でもねっ」


 熊が突撃し、コオが迎えうつ。


「遅いっ」


 コオは熊の攻撃を踊るように華麗に回避すると左右のセイバーを一閃する。

 それで終わった。

 熊は首と胴体を両断され、地に転がった。


「強いっ」


 私の呟きが聞こえたのだろう、コオが私に笑みを見せる。

 

「それだけじゃないだろ?」

「ええ。カッコよかったわ!コオ!」


 改めてコオの強さを思い知らされた。


「もう魔法少女はコオだけでいいんじゃないの?」


 と口に出かかったけど、借金を思いだし、その重さで口が閉じた。



 熊の死体を見ていたコオが「あっ」と声を上げた。


「この熊、本物じゃない」

「え?」


 確かに切り裂いたところから機械が剥き出しになっていた。


「ハカセ、これって」

「うむ、見ての通りロボットだ。しかし、高性能AIを積んでいたからな、行動パターンは熊そのものだ。ちなみにこの毛皮は本物だぞ。猟友会から手に入れたんだ」


 そう言ったハカセはどこか誇らしげだった。




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