第10話 キャラ付け会議

 魔法少女研究所にある会議室に魔法少女が集合していた。

 ハカセが口を開いた。


「今日はキャラ付けについてみんなで考えてもらいたい」

「またおかしな事言い出したわ」


 ラックの呆れた口調にハカセがジロリと睨む。


「ラック、人事じゃないぞ」

「え?」

「今回の会議は君のために開いたと言っても過言ではない」

「どういう意味ですか?」


 ハカセはふう、と大きなため息をついた。


「わからないのか。ではハッキリ言おう。ラック、君はキャラが弱い」

「キャラが弱い?」

「では説明しよう。まずドラちゃん」

「誰がドラちゃんだコラっ!」

「見ての通り、ドラちゃんはその幼児体型だけでキャラ付けが出来ている」

「誰が幼児体型だ!表に出ろ!」

「しかも、酒乱で、シラフでは気が弱い。もはやパーフェクトと言っていい」

「確かに」


 ハカセの説明に深く同意するコオ。

 

「次にラディ、彼女は病弱」

「病弱ですみません」

「気にすることはない。それがいいんだ」

「あの、ラディは病弱で片付けていいのかしら?」


 ラックのツッコミをみんなスルー。


「これもキャラ付けの定番。言葉遣いはみんなに“さん”付け呼び。更にだ、トリガーに触れると性格が豹変。素晴らしい!」

「ありがとうございます」


 ぽっと頬を染めるラディ。


「確かにな」


 またもハカセの説明に同意するコオ。


「次にコオ」

「おう」

「コウはボク口調でボーイッシュ。キャラ付けのためにショートカットにしたその行動力も素晴らしい!」

「ハ、ハカセ!だからバラさないで……バラすなよ!」

「悪い。ともかく彼女も魔法少女に一人はいる男前キャラだ」


 へへっ、と照れるコオ。


「で、問題は君だラック」

「な、何よ?」

「もう気づいただろ?君は彼女らに比べてキャラ付けが弱い。敷いて上げるなら金に汚い」

「言い方!」

「魔法少女としては完全にマイナスイメージだ」

「ほ、放っておいてよっ」


 ハカセがカッと目を見開く。


「放っておけるか!君はあまりにも普通すぎる!容姿はいい。だが、それは彼女らも同じだ。それだけでは足りない全然足りない!」


 容姿しかいいところがない、と言われているようで内心傷つくラック。


「あたしにいいアイデアがあるぜ!」

「お?ドラちゃん、珍しく積極的だな」

「ドラちゃん言うな!」

「それでドラさんのアイデアはなんですか?」

「合同訓練で気づいたんだがな、ラディはボカシでようわからんかったが、コオとラックはアンダーヘア生やしてるよな」

「ちょ、ちょっといきなり何言い出すのよっ!」


 ラックが顔を真っ赤にしてドラを睨む。

 コオはラックと違い、怒ることなくドラの真意を確認する。


「もしかしてボクにパイパンになれっていうのか?」

「そうだ。んでだ、ラックは野放しボーボー野生味溢れるってのどうだ?ついでに脇毛も伸ばし放題!」


 そう言ってドラがギャハハと笑う。


「絶対嫌!」


 コオは少し考えながら言った。


「……まあ、ボクは際どいコスプレする時に全部剃るから、それしかないならやってもいいけど」

「私は嫌だから!それキャラ付けにしたらいつもモロ見せ確定じゃない!それにムダ毛処理してないなんて不潔だと思われるでしょ!」

「……」


 誰に見せる気なんだ、というツッコミはどこからも来なかった。

 三人が言い争う間、ハカセは俯き腕を組んだまま黙っていた。

 ラックはハカセの沈黙に気づき不安になる。


「ハ、ハカセはそんな事でキャラ付けしようなんて考えてないわよね?ね?」


 ハカセが顔を上げ、

 

「俺も一つの解として考えてはいた」


 そう言った。


「ちょっとっー!私絶対嫌だからね!」

「落ち着けラック。俺の理想の魔法少女は野放しボーボーなど許さないし、脇毛を生やすなど問題外だ」

「ハカセ……」

「むしろ、現状のアンダーヘアこそ禁止にしようかと考えているところだ」

「私はそっちもイヤっー!」


 ラックの悲鳴をハカセは無視する。


「ところで、君達はこの中に定番キャラが欠けているのに気づかないか?」

「欠けている?」


 周りを見て誰も気遣いないのか、とハカセがふっと笑う。


「それは、お色気キャラだ」

「いや、それ全員そうでしょ!」


 即座に突っ込むラック。

 だが、

 

「確かに」

「そうですわね」

「あはははっ酒うめー!」


 と皆はラックと違う意見だった。

 

「あれー?」

「『あれー』じゃない。どこがお色気キャラなんだ?」

「いや、だって変身の時、みんな裸でしょ」

「ラック、変身は別だよ」

「その通りだ」


 コオが否定し、ハカセがコオに同意する。


「いや、でも、って、ツッコミ!私にはツッコミがあるでしょ!ね?」

「よしっ、ラックのキャラ付けはお色気で決まりなっ!じゃ、会議終わりでいいよな!酒切れそうなんだ」

「ちょっと話聞いてよ!ハカセ!」


 ハカセは小さく首を横に振る。


「ラック、見ての通り、君のツッコミは弱い。みんなにシカトされる程度のものだ」

「そ、そんな……」

「ハカセさん、お色気要因って具体的にはどうするのですか?」

「ボク達がうっかりを装ってパンツを下ろすとか」

「最初からパンツのゴム緩めとけばいいぜ!あはははっ」

「やめて!お願いやめて!」

「いっそのことノーパンでいるとか」

「コオまで!絶対嫌だから!」


 コオがラックの肩に手を置く。


「ラック、別に毎日やれとは言わないぜ。たまにでいいんだ。ボクもたまにやるけどスリルがたまらないよ」

「……コ、コオ、もちろんズボン履いてるときよね?スカートじゃないわよね?」


 コオは無言で微妙な笑みを浮かべる。

 いつもの男性的な振る舞いとは違い、女性らしさを感じる。


「ちょっとコオ!そんな変な趣味すぐやめなさい!」

「……ちょっと待て。今の話だとコオがお色気キャラじゃないか」


 ハカセが厳しい顔でコオを見る。

 コオがハッとした顔をする。

 

「……ごめんラック。ボクは君のキャラ付けの邪魔をしてたみたいだ……」

「いや、そこは助かったというか、でもお願いだからスカートにノーパンで外歩くのやめて」


 ハカセが苦渋の表情したのち、


「……やはりキャラ被りはよくない。仕方ないなラック、これは君への宿題だ。他の者と被らないキャラ付けを考えて置くように」

「はいっ、わかりました!ですからお色気キャラは絶対勘弁してください!」

「どうしても見つからなかったらボク、ノーパンやめるよ」

「うん、それはどちらにしてもやめてね!」


 こうして第一回キャラ付け会議は閉会したのだった。


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