第9話 合同訓練 その2
今回はラディが合同訓練に参加した。
ドラ、コオ、ラックの準備で変身を済ませた。
皆の視線がラディに集まる中、ラディは車椅子から立ち上がると、ふらふらしながらも変身呪文を唱えた。
「アズラエル、私を纏って。死を振り撒くために」
ラディの服が消失すると共に体の一部が光に包まれる。細かく言えば、胸と秘部とお尻だ。
ラディは立っているのが辛いのか片膝をつく。
三十秒ほど経ち、ラディを覆う光が消失すると同時に魔法少女に変身を完了した。
ラディの魔法少女ギアは黒を基調としていた。
武器はその背に背負う自身の身長を遥かに超えるロングバスターライフルだ。
ラディは背中にマウントされたロングバスターライフルを外すと、銃口と反対側を地面に接する。
二つに折り畳まれていた銃身が自動でせりあがり、カチッと音を立てて一本になり、三メートルを超えるロングバスターライフルの完成した。
ラディはロングバスターライフルを杖代わりにして立ち上がった。
「お待たせしました」
ハカセが感動の涙を流しながら叫ぶ。
「ついに魔法少女が全員揃った!!」
「ちょっと待ったっー!!」
ハカセは感動しているところを邪魔され、不機嫌さを隠しもせずに声の主を見た。
「なんだ、ラック」
「色々突っ込みたいとこ満載なんですけど!」
ラックも怒りの表情を隠しもせず、ハカセを睨む。
「何度も言わせるな。セックスは禁止だぞ。後の穴も……」
「だっー!そんな事言ってるんじゃないわよ!!」
ラックは顔を真っ赤にしてハカセの言葉を遮る。
「ラディのアレは何よ!?」
「アレ?ああ、あれは超遠距離攻撃用のロングバスターライフル……」
「違うわよ!ワザと言ってるでしょ!ワザと!」
ハカセが困った奴だ、とでも言うように首を横に振る。
「ラック、俺と君は心も身体も繋がった事がないんだ。“アレ”だけで伝わると思われても困るぞ」
「くーっ」
ラックが怒りで地団駄を踏む。
「ハカセ、ラックは変身の時に大事なとこ隠していた光の事を言ってるんじゃないか?」
コオがラックの意図を的確に読んでハカセに質問した。
「そう、それよ!流石コオね!」
「それほどでも」
とコオは満更でもない顔をする。
「それならそうと言ってくれよ」
ハカセがふう、ため息をつく。
「それくらい察しなさいよ」
「しかしっ、よく聞いてくれた!」
ハカセが不機嫌な顔から満面の笑みに変わる。
「変身シーンにはいくつかモードがあるんだ。一つはみんな大好き無修正素っ裸モード」
「私は嫌いですっ」
ラックが即答するがハカセはスルー。
「次に大事なとこだけ隠すモード。今回のラディの変身だな。これはラディが十八歳未満という年齢的問題での処置だ」
「やっぱりそうか」
と納得顔のコオ。
「年齢制限なんかつけずに私もそっちにしてよっ!」
一瞬、ラックと目が合ったハカセだったが、速攻で目を逸らした。
ラックが追求するよりラディの方が早かった。
「すみません。わたしも心苦しいんです。わたしだけ差別されているようで。それに今のわたしの裸は骨と皮だけで見るに耐えない姿です。わたしも皆さんと同じように胸を張って全てをさらけ出せるように早く元気になります」
「いや、全然胸張ってないし!って、そうよ、ラディが一人仲間はずれにされてると思ってるならラディが私達に合わせるんじゃなくて、私達がラディに合わせればいいじゃない!ねえ!コオ!」
「え?いや、それはどうかな」
「え?あれ?じゃ、じゃあドラ、あなたはどう!?私に賛成よね!?ね!?」
「ああん?けっ、何言ってんだ今更。もう散々見られてんだぜ。どうでもいいぜ」
「え?何で……って、なんでお酒飲んでるのよ!訓練中はお酒禁止でしょ!今すぐ変身を解いてもう一度変身して!」
「うっせー!シラフでこんな格好してられるか!」
ハカセは酔っ払っているドラを注意する事なく、説明を続ける。
「で、次は大事なとこだけ隠さないモード」
「私の話はまだ終わ……って、大事なとこだけ隠さない!?そんなモードいつ使うのよ!?」
「さあ?」
「さあって何よ!なんでそんなモード作ったのよ!?」
ハカセは不思議そうな表情でラックを見て言った。
「出来るからだ」
「な……」
「用途なんか後から考えればいいんだ」
「うっかり設定間違えたらどうするのよ?」
「安心しろ。変身モードは管理者しか変更できない」
「全然安心できないわよ!」
「静かに」
いつの間にか訓練場に来ていた司令官に睨まれラックは沈黙する。
司令官は上司というだけでなく、面接以来、苦手意識を持っていた。
「続けるぞ。最後に全身発光モード。これは姿が全く見えないからこれも使い所はないと思うが出来るから作った」
「……無修正よりそっちの方がいい」
司令官が怖いのでこっそり呟くラックだった。
訓練はドラとコオが対戦方式で行い、遠距離攻撃が出来るラックとラディはライフルを用いて飛行する的を狙う訓練を行う事になった。
射撃を行うコーナーへ歩いて移動しているとラディが「ごほっごほっ」と激しい咳をした。
「ちょっと大丈夫……って、血が出てるじゃない!」
ラックが慌てるなか、当のラディは冷静だった。
「心配していただきありがとうございます。でも気にしないでください。いつもの事です」
「気にするわよ!」
「お気遣いありがとうございます。でも本当に大丈夫です。わたしは余命宣告された時にお医者様から『もう何も気にせず自由に生きなさい』と許可をいただいておりますので」
「いや、それ許可っていうか……」
(ラディとの会話、重いんだけど……)
「って、言ったら本気にします?」
ラディが口元を拭きながら笑顔で言った。
「な、なんだやっぱり余命宣告は冗談……」
「だったらいいなあ、って毎朝起きたとき思うんです」
(やめてー!!)
ラディが寂しい笑顔で呟く。
「本当に世の中は不公平です」
「そ、そうね」
「でも今はこの病気になったことを感謝しています。だってハカセさんと出会うことが出来たのですから」
その表情は恋する乙女であった。
ラディは趣味が悪いと思ったが、当然口には出せなかった。
「そ、そう。よかったわね」
「ハカセさんから頂いたこの、ハカセさんのこの、長くて太くて大きい……ああ、早く撃ちたいです……」
そう言ってロングバスターライフルを抱きしめる。
色白であることもあるが、その笑みはすごく妖しく見えた。
「そ、そうね」
ラックは引きつつも相槌をうつ。
「ところでラックさん。わたし、実は性への執着が強いんです」
「……わかるわ」
ラックはラディと生の話題をするのは微秒なので慎重に言葉を選ぶ。
(一度は生きるのを諦めたんですもんね。生への執着は人一倍強いのかもしれないわ。私だって……)
「子供は五人は欲しいと思います」
「……はあ?」
ラックは思わず声を出してしまった。
(ええっ!?生じゃなくて性!?)
ラディがぽっ、と頬を赤らめる。
(……うん、聞かなかった事にしよう。見なかった事にしよう)
「全弾外れだ」
司令官の冷たい声が響く。
流石に実弾を使うことは出来ないのでヴァーチャルシステムを使用しての射撃訓練だ。
先程の会話で心を乱されたからか、元々射撃の才能がないのか、ラックは尽く的を外した。
バスターライフルに自動補正機能はあるが、動く標的では射手の腕も影響する。
ガックリ肩を落としているとラディが交代にやって来た。
「残念でしたね」
「あ、はははは。ラディ頑張って」
「はい」
ラディはよいしょっ、と言いながら、三メートルを超えるロングバスターライフルを構えた。
ラディは体をふらふらさせながらもスコープを覗き込み照準をつけ、トリガーに指が触れると、憂いた表情から凶悪な表情に豹変した。
「ひゃっはー!俺様の一物で逝かせてやるぜ!」
ラディはそう叫びながらトリガーを引いた。
強烈な反動に態勢を崩すが、ロングバスターライフルから放たれたビームは直線を描きながら約三キロメートル先の標的を見事に撃ち抜いた。
「命中だ」
司令官の淡々とした言葉が響き渡る。
「……ラディって銃を持つと豹変するのね」
「うむ。ガンナー・ハイとでもいうのか。ともかく素晴らしい!」
ハカセが絶賛するなか、ラディは続けて標的に命中させた。
卑猥な言葉を叫びながら。
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