第7話 魔法少女のカスタマイズ

 顔見せが終わった後、ラックは早速、コオから指導を受ける事になった。

 ちなみにドラは酒を抱えてさっさと帰り、顔色の悪くなったラディは看護師に車椅子を引かれて去った。

 二人は研究所にある訓練場に向かった。


「じゃ、まずボクが変身の手本を見せようじゃないか」

「うん、お願い」

「OK。行くよ……マリー!セットアップ!」


 コオが変身呪文を叫んだ。

 コオの変身ポーズはラックが変身するときの両手両足を広げるポーズではなかった。

 それはかつて見た魔法少女が変身する時の動きに似ている。

 変身中はもちろん全裸だったが、コオは恥ずかしがる素振りをみせず堂々としていた。



「どうだった?ボクの変身シーンは?」


 そう言ったコオは両手を腰に当て、今もポーズをきめていた。完全に魔法少女になりきっている。


「あ、うん、よかったけど」

「けど?」


 コオが少し不安そうな表情をする。


「あ、変身はカッコよかったわ!うん!本当よ!」

「じゃあ、何が不満だったのかな?」

「あー、いえ、不満というか……そんなに息切らして大丈夫?」


 コオは変身シーンほぼ三分激しく踊っており、今も息絶え絶えであった。


「大丈夫大丈夫。十分くらい休めば完全復活してるから」

「……あの、そのとき変身解けてるわよね」

「ああっ、そうだね。ラックの言う通りだよ。時間ある時にジム通ってるんだけど、もっと鍛えないと。三分でこれじゃあ五分バージョンはとても最後までもたないだろうしね」

「いやっ、そのっ」

「ん?まだ何かあるのかい?」

「えっと、どっちかといえばこっちが重要と言うか……」

「はっきり言ってよ。ボク達は同じ魔法少女なんだ。これから一緒にやっていくんだから気を使わずはっきり言ってくれ」

「うん、じゃあ……その、恥ずかしくない?」

「やっぱり変身シーンが気に入らなかったのかぁ。ボクは結構イケてると思ったんだけどなぁ」


 がっくり肩を落とすコオ。

 

「違う違う!そっちじゃなくて……その、裸見られること」


 とラックがいつの間にか訓練場にいたハカセに目を向ける。

 そう、ハカセはコオが変身するところから今もずっとカメラを回している。

 しかし、それを聞いてコオは顔を真っ赤にする、事はなく、ほっとした表情になる。


「なんだ。そんな事」

「そんな事じゃないと思うけど」

「だってそれは魔法少女になると決めた時にわかってた事じゃないか」

「そ、それはそうだけど……」

「別に触られてたり、舐められたり、突っ込まれたりするわけじゃないんだし」

「突っ込むって、何言うのよ!」

「ははは。初心だな」


 そこまで沈黙を保っていたハカセがカメラを停めて口を開いた。

 

「ラック、純情キャラはラディだからキャラ被りはだめだ」

「黙れ!このエロハカセ!」



「じゃ、次、ラックの番だよ」

「う、うん、でも……」


 ラックの視線の先にはカメラを構えたハカセ。

 ハカセがカメラを構えたまま口を開く。

 

「ラック、キャラ被り……」

「わかったわよ!今から変身するから黙ってて!」


 ラックはやけくそ気味に叫び魔法少女に変身した。



「どう?」

「……」

「コオ?」

「ああ、そうか。ラックは魔法少女になったばかりだったね。うっかりしてたよ」

「うん、ここに来た目的を忘れないで」

「ごめんごめん。いやー、ボクに裸見られるの恥ずかしくないの?って言っておいて、君、堂々と見せつけていたからちょっとビックリしたんだよ」

「み、見せつけていません!仕方なくです!仕方なく!」


 必死の形相で詰め寄るラックをコオが笑いながら手で押さえる。


「わかったわかった。まだ初期設定のままなんだよね」

「そうですっ。決して露出狂じゃないですっ」

「わかったから。魔法少女ギアはある程度自分好みにカスタマイズ出来るのは知ってるよね?」

「ええ。変身呪文や変身ポーズ変えられるっていうのは聞いたわ」

「そう。ちなみにボクはアシスタントの名前を“マリー”、変身呪文を“セットアップ”に変更している。変身中のポーズはまあ、その時の気分次第で変えるけどね」

「え?気分次第ってその都度変更するの?」

「あ、違う違う。変身ポーズはね、呪文を叫ぶときと実際に変身を開始するときだけ設定してるんだ。だからその間はどんなポーズでも構わない」

「そうなのね」

「あと、変身シーンの時間は変更できる」

「え!?そうなの!?」

「うん、最短は0.3秒、最長は五分だったと思う」

「ちょっと待って!最短0.3秒って一瞬じゃない!」

「そうだね。ちなみにこの変身シーンを長く設定すると魔法少女でいられる時間が短くなるから五分はやめたほうはいいね。ボク試してみたんだけど、直ぐに魔法少女を解くことになったから」

「いやいや!長くする事なんてしないわよ!コオのさっきの変身シーンは初期設定のままだったわよね?」

「うん、三分のままだよ」

「それ知っててなんで変身シーン短くしないのよ!私だったらすぐに0.3秒に変更するわ!」

「それは無理だ」


 ハカセが二人の会話に割って入ってきた。


「どうしてよ!」

「三十秒未満は管理者の許可がいる。つまり俺だ」

「なんでダメなのよ!」

「ラック落ち着けって」

「コオはなんでそんなに平気な顔してるの?」 

「だって魔法少女に変身シーンは必須じゃないか」

「な……」

「決め言葉、決め技、そして変身シーンは魔法少女にとってなくてはならないものだよ」

「……」

「流石コオ、わかってるじゃないか」


 コオとハカセが深く頷きあう姿を呆然と見つめるラック。


「変身シーンが省略されるのは尺が足りなくなった場合だけだよ」


 さも当然なことのように話すコオとこれまた同感とばかりに頷くハカセ。

 そこでラックは自己紹介の時のことを思い出した。

 彼女は魔法少女のコスプレをするほど魔法少女が好きなのだ。

 もしかしたらこの変態ハカセと同等くらいに。

 魔法少女を愛する二人には魔法少女のお約束を守ることは羞恥心を上回るのだと悟る。

 

(私、ついていけない。絶対無理!なんとか魔法少女をやめる手立てを考えないと!こうなる前に!手遅れになる前に!)



 魔法少女の説明をするのに魔法少女でいられる時間が五分は短かすぎる。

 そこで変身している時間を伸ばすため、一旦変身を解き、変身シーンを管理者権限の必要がない最短三十秒に設定変更して再度魔法少女になることにになった。

 ハカセがすごく嫌そうな顔をしたのは言うまでもなく、コオも残念そうな表情をしていたので、ホッとした自分がおかしいのかと本気で悩むラックだった。

 ちなみにコオは三十秒の変身シーンのポーズもしっかり用意していた。



「それで今の設定だとどのくらい魔法少女でいられるの?」

「何もせず突っ立ってるだけなら十時間くらいだな」


 不機嫌そうな顔で答えるハカセ。


「は?十時間!?十分じゃなくて!?」

「ああ」

「変身シーン無駄じゃない!」

「無駄じゃない」

「なんでよ!その間全裸なのよ!完全に無防備でしょ!」

「いや、その状態が一番安全なんだ」

「何でよ!?」

「何故だって?」


 ハカセがカッと目を開き吠える。


「魔法少女一番の見せ場だぞ!変身中はあらゆる攻撃を防ぐ絶対バリアを発生させてるに決まってるだろ!何人たりとも変身の邪魔はさせない!」


 そう言い切ったハカセにコオが羨望の目を向ける中、ラックは思いっきり引いていた。



 コオが説明を再開する。


「ラックはその武装のままでいくのかい?それとも変更する?」


 その言葉を聞いてラックは改めてコオの姿を確認する。

 魔法少女の基本的なデザインは同じだ。

 ラックの魔法少女が赤を基調としているのに対してコオは青だ。

 ラックは自分の色が赤であることに嫌がらせ的な悪意を感じたが口に出すのを我慢した。

 肝心の武装だが、ラックがセイバーにバスターライフルと近接戦と遠距離戦両方に対応しているのに対してコオはバスターライフルを装備していなかった。その代わりにセイバーを二本装備していた。

 そのセイバーはラックのものより柄が長い。


「ボクの武装はセイバーのみ。近接戦特化型だよ」


 コオはセイバーを両手に持つと、柄から長さ一メートルほどの青い刃が発生した。

 それを器用に扱かう姿はなかなか様になっていた。


「上手ですね。武術やってたりしたんですか?」


 ラックの問いにコオが少しはにかんで、


「ちょっとね」


 とだけ言った。

 プライベートには関わらないという規則もあるが、コオはそれ以上聞いてくれるな、という雰囲気を出していた。

 だからラックもそれ以上追求しなかった。

 

「いいなあ。私は完全な素人なのよ。私のにもセイバーついてるけど上手く使えるかなぁ」

「セイバーの扱いなら多少なら教えてあげられるよ」

「ありがとう」

「でも銃はボク、全然だから」

「うん」


 コオが試し斬り用に用意された厚さ十ミリの鉄板をセイバーで易々と斬り裂いた。

 ラックは試し斬りする前にその鉄板に触れており、セイバーがオモチャではない事を改めて知らされた。

 完全に銃刀法違反であるが、

 

「「魔法少女に銃刀法は適用されない」」


 と二人にハモられてラックは言葉を失う。

 それに変身解除時、武装も転送されて消えるので証拠は残らない。

 一通り実演し、ラックにほめられて気分をよくしたコオは、


「このセイバーはこういう使い方も出来るんだ」


 と言ってセイバーのギミックを披露する。

 コオはセイバーの刃が出ていない方を繋いて一本して薙刀のように振るった。

 

「ね、コイツには薙刀モードもあるんだ!カッコいいだろ!……うわっ」

 

 コオは扱かいを誤り、刃が魔法少女ギアと接触した。魔法少女ギアの接触した部分が薄く光った。

 

「コオ!」

「大丈夫大丈夫。魔法少女ギアは伊達じゃない!」

「いや、カッコつけてないで本当に大丈夫!?」

「大丈夫だよ」


 そう言ったのはハカセだ。その顔はどこか誇らしげだ。

 

「言っただろ。バリアを発生して守るって」

「そうだけど」

「でも無限にバリアを張れる訳じゃないから気をつけろ」

「ごめんハカセ。ちょっと調子に乗っちゃったよ」

「これからは気をつけてくれ。しかし、セーフティを考えた方がいいか。魔法少女ギアにある程度近づくと刃を消す、みたいな」

「そうだね。あると便利だけど有無の変更が効くようにしてほしいかな」

「わかった。考えておく」

「ありがとうハカセ」



 ラックがコオにセイバーの扱い方を学んでいると、無言でカメラを回していたハカセがカメラと下ろし、声をかけてきた。


「コオ、そろそろ解除しないと強制解除されるんじゃないか?」

「あ、そうだね」

「え?私はまだまだ大丈夫ですけど」

「ボクはさっき失敗してバリア使ったのが効いたな。エネルギーゴッソリ持っていかれたよ」

「ああ、なるほど」

「他に何か希望があれば聞くよ」

「いえ、今日はもういいわ。ありがとう。あなたも強制解除されたら嫌でしょ」

「それは気にしなくていい。強制解除されても全裸になるだけだから」

「え……?だけ?」

「うん。服の転送先はこの研究所内だから心配しなくてもいいよ」

「そこを問題にしてるんじゃないです!」

「そう?」

「ともかくっ、今日はもう大丈夫ですから!」


 コオはちょっと残念そうな表情で変身を解除した。


(……コオって魔法少女云々じゃなくてただの露出狂なんじゃないの!?)


 ラックはコオに疑惑の目を向けるのだった。



「さて、ラック」

「何ですか?」

「君はまだ初期設定のままだから自分用にカスタムするように」

「そうだね。今のままじゃ個性がないよ」

「アシスタントの呼び方、変身コマンド、変身シーンのポーズは最低三分、三十秒の二つは欲しいな」

「変身時間は0.3……」


 ハカセはラックの言葉をスルーする。


「あと装備の見直しだ」

「……」

「まあ、装備は当分今のままでもいい。他の魔法少女の装備との兼ね合いもあるからな」

「はあ」

「もしまだ練習したいならこの後もここを使用しても構わない。残念ながら俺はこの後用事があるから付き合えないけどな」

「それは嬉しいです。両方とも」

「じゃ、ボクが付き合おうか?」

「ありがとうコオ」


 この後、ラックはコオにカスタムの相談して解散した。

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