第6話 魔法少女集結!
その日、魔法少女の顔見せが行われることになった。
集まった魔法少女は全部で四人。
A子が部屋に案内された時に既に二人いた。
一人は見るからに中学生くらいだった。
今いる中で一番魔法少女が似合いそうな美少女だった。
外見だけ見れば。
彼女の周りには空になったビールの缶が散乱しており、顔も赤く、目が据わっていた。
明らかに酔っ払っている。
未成年の飲酒を放置するとは思えないし、ハカセが年齢にこだわっていたのを考えると未成年ではないのだろう。
もう一人はショートカットでボーイッシュな服装をしていた。
年齢はA子と同じくらいで、中性的な顔立ちで美少年に見えなくもないが、あのハカセの変身シーンへのこだわりから考えても間違いなく女性だろう。
三人は会話を交わす事なく適当な席に座り時間が来るのを待つ。
会話を交わさないのはハカセから許可があるまで魔法少女同士の会話は禁止とされていたからだ。
そして時間ギリギリに現れた少女は車椅子で看護師に付き添われてやって来た。
病気を患っているのか頬が痩せこけており、手足も細い。
元は美少女なのだろうが、今はその面影がなんとなく見える程度だった。
看護師はその少女に声をかけるとA子達にも頭を下げて部屋を出て行った。
そして時間になると部屋にハカセが現れた。
ハカセは一人ではなかった。
もう一人、それは面接官だった人だった。
A子は内心「うえー」と叫んでいた。
心の中で叫んだはずなのにその面接官にA子は睨まれた。
ハカセが口を開く。
「今日は君達、魔法少女の顔見せだが、その前にもう一人紹介する。と言っても面接で会っているので初対面ではないが、彼女が君達を指揮する司令官だ。つまり君達の上司だ」
「私が君達を指揮する事になってしまった。よろしく頼む」
(ん?なってしまった?嫌々ってこと?)
A子は面接の時から司令官にいい印象を持っていない。
嫌々という点だけで言えば親近感が持てるが、それだけだ。
これからも付き合う事になると思うと気が重かった。
「さて、それじゃあ早速始めよう。君達が魔法少女になるいきさつはそれぞれ異なる。その経緯も簡単に踏まえて紹介していく。それと研究所内で君達の事は魔法少女ネームで呼ぶので君達も徹底してほしい」
「あの、」
A子が控えめに手を挙げる。
「なんだ?」
「私、魔法少女ネームって知らないんですけど」
「それは心配ない。これから発表する」
「わかりました」
「では続ける。君達は魔法少女として一緒に行動してもらう事になるが、当分の間は、研究所外での接触は出来る限り避けて欲しい。まだこの組織を発足したばかりで情報漏洩を防ぐ措置でもある。同様に変身ブレスレットおよびイヤホンは研究所を出る際には回収する。ここまでで質問は?……ないな。では自己紹介を始める。一番目に選ばれたのは彼女だ」
ハカセがそう言って、今も酒を飲んでいる少女?を指差す。
「彼女はズバリ、幼児体型の見た目で選んだ。彼女の魔法少女ネームはドランク」
ドランクと呼ばれた少女はハカセを睨む。
「おい、ハカセ、なんだその名前は!喧嘩売ってんのか!あたしのどこが酔っ払いだ!」
「そのままだ」
司令官の冷たい視線を受け沈黙するドランク。
「ほら、ドランク自己紹介。本名とかプライベートなことは言わなくていいから」
ふん、と鼻を鳴らしながら立ち上がった。
とフラついてすぐに席に着く。
「あたしはドランクらしい。路上で酒飲んでるところをスカウトされた。念のため言っとくが、あたしは二十歳過ぎているから酒を飲んでもなんら問題はない!以上だ!ひっく」
いや、今この場で飲んでるのは問題じゃないの?とA子は周りを、というかハカセと司令官を見るが注意する様子はなし。
「という事でドランクは見た目以外、魔法少女とは程遠いし、キャラ被りは避けなけれならない。という事で、次は体型で選ぶのではなく、魔法少女にありがちな設定を重視する事にした。という事で二人目は病弱な薄倖の美少女を選んだ。彼女の魔法少女ネームは薄幸をもじってラディエーション」
「なるほど、ルミナスはもういるもんな」とまだ紹介されていないボーイッシュな少女が呟くのが聞こえた。
指名された車椅子に腰をかけた少女が座ったまま頭を下げる。
「座ったままですみません。ラディエーションです。ラディエーションはちょっと長いのでラディと呼んでくれると嬉しいです。ハカセには余命三ヶ月を告知された日に病院の屋上でスカウトされました」
突然の爆弾発言に部屋の空気が重くなる。
「皆さんとは短い付き合いになるかもしれませんがよろしくお願いします」
流石にこのまま流せなくなり、手を上げるA子。
「すみません、えっとラディ、さん」
「ラディでいいですよ。ええと」
「彼女の番に紹介するけど彼女の魔法少女ネームは金欠」
ハカセがA子の魔法少女ネームを教える。
「なんでしょう金欠さん」
「いやいやっ!何よその魔法少女ネーム!って、それは後で文句言うとして、その、あなた安静にしてなくていいの?」
「はい。心配して頂いてありがとうございます。でも大丈夫です。これでも今日は調子がいいのです」
「そう?とてもそ……」
「金欠。人のプライベートにズカズカ土足で入り込むな」
「あ、はい、すみません、でも金欠ってのはやめて……」
A子、もとい金欠の言葉を遮り話を進めるハカセ。
「では、続ける。魔法少女を二人勧誘して気づいたんだが、残念ながら二人とも魔法少女に対する愛が少なかった」
ちっ、と舌打ちする音と「すみません」と小さな声が聞こえる。
「あの、気づくの遅くないですか?」
もちろん、金欠のツッコミはスルー。
「そこで三人目は魔法少女愛をもつ者にする事にした。それが彼女だ。魔法少女ネームはコスプレ」
コスプレが立ち上がって挨拶した。
「ボクはコスプレ、ってに事なったらしい。よろしくなっ。ハカセにはとある有名なイベントで魔法少女のコスプレをしていたときにスカウトされたんだ」
ボーイッシュな格好通り、男っぽい口調での挨拶だった。
「欲を言えばコスプレってストレート過ぎるから再考してほしいかな」
「そうだな。まだ時間はあるから考えておく。ところで彼女はキャラ付けのためにボーイッシュな言葉遣いとそれにあった格好をしてもらっている」
「ちょっと……じゃなくて、おいっハカセ!勝手にバラすなよ!」
「プライベートは話すなと言った本人がバラしてどうする」
司令官まで文句を言われハカセはちょっと焦る。
「悪い悪い。気をつける。なお、彼女には魔法少女としての心得をみんなにしてもらう事になっている」
「よろしくな!」
コスプレは演技だとバラされて顔を少し赤くしていたが、キャラが崩れることはなかった。
「で、五人目は初心に戻ることにしたんだ」
金欠は違和感にすぐ気づいた。
「ちょっと待って!五人目?私が五人目って四人目はどうしたのよ?」
「プライベートな件には答えられん。何度も言わせるな」
司令官に睨まれ、金欠は口を閉じる
「初心ってどうゆう事だ?」
コスプレの質問に博士が頷く。
「魔法少女になる定番は突発的な事件に巻き込まれてなし崩しに魔法少女になることが多いだろ」
「ああ、確かにそうだな」
一人納得するコスプレ。
「彼女、金欠は莫大な借金を抱えてたんで、うちでその借金を肩代わりして、どうしても魔法少女にならないといけないように追い込んだ」
「なるほど。魔法少女にありがちだな」
頷くコスプレにA子が即反論する。
「そんなわけないでしょ!魔法少女って子供が見るものでしょ!脅迫されて魔法少女になるなんて設定が許されるわけがないわ!」
「アレンジを加えてみた」
「最悪のアレンジよ!」
「ほら、自己紹介」
「……五人目です。借金返済のために魔法少女になりました。ってさっきからプライベートダダ漏れじゃないですか?」
「金欠、文句が多い」
司令官に睨まれる金欠。それをハカセがフォローする。
「まあまあ、司令官。彼女はツッコミ役を買って出てるんだ。彼女らの中では普通過ぎてキャラが薄過ぎるだろ?」
「なるほど。そうだったんだ。金欠、ボクは自分アピール嫌いじゃないぜ」
コスプレが金欠に微笑む。
「してないから!そんなつもりないから!」
「つまり、やはり文句をグダグダ言ってるだけ、ということか?」
司令官に睨まれ、金欠はキッパリ言い切った。
「いえ!キャラ作りです!」
「「「「……」」」」
「ぷはっー。酒うめえ!」
「以上で魔法少女の顔見せは終了だ」
そこへ控えめに手を上げる金欠。
「なんだ金欠?」
「あの、その魔法少女ネームはやめて下さい。ただでさえモチベーション低いのに、その名で呼ばれると本当にやる気が出ません」
「わかった。検討し……」
「ではラックでどうだ?」
ハカセの言葉に割り込んできた司令官の言葉に金欠は眉をひそめる。
「ラックって幸運ですよね。嫌味ですか?」
「そっちではない」
「え?それじゃ……」
「まあ、それでいいんじゃないか。じゃあ、金欠改めラックと言うことで」
ハカセが理由なんてどうでもいいとでも言うように割り込んで決定する。
「……はあ。じゃあそれで」
金欠も“金欠”よりはマシだと妥協する。
司令官は面倒事は一度に済ませたいとでも言うように他のメンバーのネームの見直しを行う。
「後はそうだな、コスプレはコスプレオタクから“コオ”だ」
「そっちの方がいいね。男っぽいし」
「ついでだ、ドランクは“ドラ”、ラディは希望通り“ラディ”と呼ぶことにする」
「はっ、どうでもいいぜ」
「うれしいです」
他のメンバーも異論なく決定した。
「以上だな。では最後に一言。契約書に書いてあったように魔法少女でいる間はどんな理由があれ、彼氏作りもセックスも禁止だ。君達は体を売る商売ではなく、夢を売る商売だからな!」
ハカセが上手いこと言ったぜ、という表情でみんなの顔を見回した。
皆がハカセの言葉に賛同したわけではなかったが、ハカセは満足げに頷く。
「解散!」
こうして魔法少女の顔見せは終了したのだった。
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