第4話 必要にせまられて魔法少女 その4

 服に触れてみると布地の感触だった。

 ただ、下着はなく、素肌に直接魔法少女・ギアが触れているのがなんとも言い難く、とても着心地が悪い。

 救いはヒラヒラスカートの下にスパッツを履いていた事だ。

 そっとスカートをたくしあげると、秘部の形がハッキリ見えていたので慌てて下ろす


「大丈夫。すぐ慣れるよ」


 A子の表情で悟ったのか、ハカセが補足する。

 A子は最初こそ肌触りに不快な思いをしていたが、本当に魔法少女、少なくとも服装が変わった事に感動していた。

 魔法少女の服装が意外と似合っていたのも大きい。

 アイドルが着ていてもおかしくはない。

 背中に装備されたライフルを除けば、だが。


「ねえ、魔法少女って戦うのよね?」


 変身後の姿、魔法少女の姿も熱心に撮りまくるハカセに尋ねる。


「もちろん」

「この服。防御力まったくなさそうなんだけど」

「そんな事はない。魔法少女の服にはパッシブバリアが標準装備されているんだ」

「パッシブバリア?」

「簡単に言えばダメージを受けそうになるとその箇所にバリアが発生してダメージを無効化するんだ。その発動の誤差をなくすためにはギアと密着させる必要がある。だから仕方なく下着を無くしてるんだ」

「嘘つけ!」


 ハカセの言葉を即否定するA子。


「酷いな。ホントだぞ」

「本当に攻撃を受けても大丈夫なのね?」

「もちろん。ただ、欠点はある」

「それは何ですか?」

「説明してなかったが、魔法少女でいられる時間は約五分だ」

「え!?短っ!って、それで変身シーンが三分っておかしいでしょ!」

「あくまでも目安だ。この時間はパッシブバリアを発生させたり武器を使う回数にも左右される。攻守共に魔法少女ギアのエネルギーを消費するんだ」

「私の質問に答えてよ。変身シーンが長すぎでしょ!」

「要望は後で聞く。テストを続けよう。こうしてる時間もエネルギーは減ってるんだ」

「もう一つ!魔法少女は正体を知られてはいけないんでしょう?変身しても顔見せてたら誰かわかるわよ。魔法少女ものじゃ、髪の色とか変わったりするけど、現実でそれじゃ絶対気づかれるわよ」

「いい質問だ。君の魔法少女のやる気が伝わってきて嬉しいぞ」

「違うわよっそんなものないから!あなたのさっきの説明を論破してるだけよ!」

「そうか。では残念だが対策済みだ」

「え?どこが?」


 鏡を見る限り、素顔に変化はない。


「今回はゲスト登録だからな。設定変更でダミーヘッドが追加される。変身後に別の顔にすることができる」

「そ、そうなんだ」

「何悔しそうな顔してるんだ?」

「べ、別にしてませんけど!」

「そうか?」

「そうよ。それで防御はわかったけど攻撃は?背中の銃?なんか魔法少女ぽくないんだけど?」


 その言葉を聞きハカセは呆れた表情をする。


「何を言っているんだ。最近の魔法少女はなんでもありだぞ。それに昔の魔法少女の方が実現化が難しいんだ。魔法があるからな」

「魔法使えないのに魔法少女っておかしくない?」

「高度に発達した科学技術は魔法と変わらない、て言葉を知らないか?」

「……聞いたことある気がする」

「変身して実感しなかったか?魔法少女への変身は魔法に見えただろ?」

「ま、まあ確かに……」

「安心しろ。俺もいつかは科学技術で実現させたいとは思ってる」

「それなら安心……って全然安心じゃないからっ」


 自分の発言に混乱しているA子を他所にハカセがぼそりと呟く。


「……逆に高度に科学技術が発達した世界なら魔法を使っても科学技術と言って誤魔化せるしな」

「え?今何か言いました?」

「別に」

「そう……それで武器はライフルだけ?」

「それは……せっかくだからアシスタントに聞いてみてくれ」


 A子はなるほど、と頷き、アシスタントに話しかける。


「“ちょっとちょっと!”」


(って、今更だけどなんでこんな呼びかけが初期設定なのよ!)


『なんでしょう?』

「どんな武器があるの?」

『はい、現在の武装は背中のバスターライフル、腰のライトセイバーの二つです』


 鏡を見ると腰に筒状のものが装備されているのが見えた。


「“ちょっとちょっと”バスターライフルっていうの使える?」


 A子がどうやって背中から武器を取り外すのかといじっていると、


『可能ですが、バスターライフルをここで使用する事はお勧めできません』


 と、アシスタントから返答があった。


「あ、そっか。ホテルからそんなものを使ったら……」


 そこでA子は気づいた。

 これ、銃刀法違反じゃないのか、と。

 

「あの、これって」

「問題ない」

「え?」

「銃刀法違反じゃないか、って思ったんじゃないのか?」

「え、ええ」

「大丈夫だ。本物だとわからないからな。撃たなければモデルガンと言い張れる」

「そんな無茶な……」

「本当だぞ。魔法少女・ギアに使われている技術は公開されてないからな」

「そ、そう……」

「あと、エネルギーが満タンではないから一発撃つだけでエネルギーを使い果たすぞ」


 A子は使い果たす、という言葉に嫌な予感を覚えた。


「……使い果たすとどうなるの?」

「魔法少女ギアが自動解除される」

「……解除された後、どんな格好になってるの?」

「ヴィーナスの誕生?」

「つまりまた全裸って事ね」

「端的いえばそうだ」

「他にどういう言い方があるのよ!。少なくとも私の知る魔法少女は変身が解けたら素っ裸って事はなかったわよ」

「大丈夫だ」

「何がよ?」

「君は十八歳だ」

「年齢の問題じゃないわよ!」


 A子は思わずハカセを思いっきり殴ってしまった。

 しまった、と思った時はもう遅かった。

 だが、

 思いっきり殴ったはずであるが、感触がおかしい。

 実際、殴られた博士は「痛い痛い」と言っているが、言葉とは裏腹に痛そうに見えない。

 その程度のダメージだった。

 ホッとしたのも束の間すぐに疑問が浮かぶ。


「魔法少女ギアのパワーは普通なの?いえ、弱くなってる?そのお陰であなたに大怪我させなくてよかったんだけど」

「いや。ちゃんとパワーアップする」

「え?でも」

「初期設定を0.3倍に落としてるんだ」

「つまり今はパワーダウンしてるってこと?」

「そういう事だ。いや、そうしとけってアドバイスをもらってな。アドバイス聞いといてよかったぜ。もしかして彼女は予知能力があるのかもしれんな」

「普通の感覚持ってたらわかるわっ!」

「そうか?」

「ええ。そのお陰で遠慮なく殴れるわ!」

「残念だが、そろそろ時間だ。変身解除した方がよくないか?」

「え?“ちょっとちょっと“後どれくらい魔法少女でいられるの?」

『はい、およそ一分です。直ちに変身を解除する事をお勧めします』

「ええ?なんで警告出さないよ!“ちょっとちょっと!”変身解除!」

『了解。変身を解除します』


 A子は無事変身が解除されても服をきちんと着ていた事にホッとした。


「うん、これで変身テストは完了だ」

「……」



 A子は帰り際ハカセに声をかけられ、振り返る。


「また改めて連絡する」

「連絡ですか?」

「ああ。今ので実技テストは合格だ。あとは面接を受ければ君は晴れて魔法少女だ。ああ、面接って言っても形だけだ。契約書にサインするだけだ」

「……はあ」


 A子はその場で拒否しなかった自分に驚いていた。

 ハカセのいう魔法少女になったら、毎日のように素っ裸にひん剥かれるのではないか。 そう思うと羞恥心と屈辱感と共に、見られることによる快感をまた味わえる、という認めたくない感情が湧き起こったのだ。


(わ、私は露出狂じゃないから!)


 そう心の中で叫ぶA子だった。

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