第3話 必要にせまられて魔法少女 その3

 A子は再びハカセが予約しているスイートルームを訪れていた。


「動画、ネットとかに上げてないでしょうね」


 A子は開口一番こう口にした。


「してない。なんでそんな事すると思うのか不思議だ」

「本当に個人で楽しむ以外使用しないでよ!他人には絶対見せないでよ」

「それは約束できない」

「そ、」

「前にも言ったと思うが、このデータは魔法少女をより完璧にするためのデータだ。だから開発関係者に見せる事がある」

「……」

「とはいえ、限定はされてるし、見るのは俺以外、全員女性だ。それだけは約束する

「……わかったわ」

「それは良かった。ところで」

「なんです?」

「君、何か悩みがあるのか?」

「あるわよ。撮られた動画処理とか」

「それ以外」

「……」


「あるんだろ。今日はお互い時間はたっぷりあるんだ。話してみな。話せば少しは楽になるかもしれんぞ」

「なんで見ず知らずの人に話さなきゃならないのよ」

「つれないな。お互い秘密を明かした仲じゃないか」

「何が秘密を明かした仲よ。私が一方的に恥ずかしい思いをしただけじゃない」

「対価は払ってる」

「そ、それは」

「それに君はこの世に転送技術がある事を知った」

「あ……」

「裸を見られた事ばかりに気をとられて全然気づかなかったか?」

「……ええ」

「まあそういう事だ。とはいえ、君のいうことも一理ある。君は俺の本名知らないだろ。知らないからこそ、言える事だってある。聞く方も客観的な意見が出来ると思うぞ」


 A子はハカセがA子の本名を知らない、とは言っていないことに気が付かなかった。


「そうね、実は……」

「俺は結構すごいんだ」

「って、あなたが話し始めるのっ!?」

「まあまあ落ち着けって。とりあえず俺の話を聞いてほしい。その後で君の話を聞いてやるから」

「聞いてやる、ですって。なんで上から目線なのよ!」

「で、俺は名前の通り博士なんだ」


 A子は自分勝手なハカセに文句をいうのを諦め話を聞くことにした。

 前回、話を聞かず全裸になって動揺し散々な目にあった事を思い出したからだ。


「俺は物心着く頃からずっと魔法少女に憧れていた。でもある時気づいたんだ。俺は魔法少女になれないんだと。ーー何故だと思う?」

「男だからでしょ」

「何故わかった?」

「馬鹿にしてるんですか?」

「いやいや。うむ、流石俺が見込んだだけのことはある」

「本当に私の事バカにしてるでしょ」

「そんな事はない。それでだ、俺はひどく落ち込んだがある時思ったんだ。魔法少女になれないなら、魔法少女になりたい人の力になろうとな!」

「私はなりたくな……」

「その思いから俺はずっと魔法少女の研究を続け、ついに完成したんだ。魔法少女変身システムの開発に!」

「……それはよかったわね。よくないけど」


 ハカセはA子の最後の言葉を無視し、満足げに頷く。

 

「じゃ、今度は君の番だ」

「私、どうでもよくなってきたんだけど」

「それでいいなら俺は別にかまわんが。後でまた悩んでも知らないぞ」

「……そうですね。じゃあ、話します」


 A子は親は借金を残して蒸発した事を話した。

 妹の事は話さなかった。


「……なるほどな。ひどい親もいたもんだ」

「そうですよね」


 ハカセの言う通り、愚直をこぼしたお陰で少し気が楽になった。


「じゃあ、そろそろ続きを始めようか」

「……ええ」


 A子は乗り気のない返事をしたが、ハカセは全く気にしない。


「あ、その前に服を返しておく。そこに置いてあるから帰りに持って帰ってくれ」


 そう言って部屋の隅に置いてあった紙服を指差す。


「はい。ありがとうございます……」

「なんだ?何か言いたそうだが?」

「へ、変なことしてないでしょうね?」

「変な事?洗濯もしておいたがまずかったか?」

「え?あ、それはどうもありがとう」

「うむ、洗濯した事は変なことではなかったようだな」

「も、もういいわよ!」

「いや、気になる。教えてくれ」


 A子は顔を赤くしながらボソボソと呟くように答えた。


「その、じっくり観察したり、匂いかだりとか」

「してない。舐めてもいないから安心しろ」

「な、変態!」

「してないと言ったはずが」

「そんな考えが浮かぶだけでも十分変態よ!」

「なるほど。俺は想像力豊かな君と同類だと言いたいんだな?」

「ぐっ……」

「じゃ、納得したところでそろそろ始めようか」

「……わかったわよ」



 ハカセがブレスレットとワイヤレスイヤホンをA子に渡す。

 A子は前回と同じようにブレスレットとワイヤレスイヤホンを身に付ける。


「あの、掛け声とその、変身のときのポーズは……」

「ん?前回と一緒だ」

「ですよね」

「さあ」


 ハカセがスマホを向ける。

 

「……やっぱり撮るんですか?」

「もちろん」

「前回いっぱい撮ったじゃないですか」

「君、意外に粘るな」

「み、見られるのはもういいです。覚悟しました。でも撮られるのはやめてほし……」

「ダメだ。撮られるのも覚悟してくれ」

「……」

「ほら早く。どうしてもって言うならキャンセルでもいいが、その場合はお金返してもらう事になる」


 A子の頭の中で妹と一緒に焼肉を食べたこと、幼稚園の支払いをはじめとした滞っていた支払いを済ました光景が蘇る。

 

「わかりましたっ!やればいいんでしょ!やれば!……“ちょっとちょっと!”行くわよ!へんっ!しん!とう!」


 A子は両手両足を広げ、やけくそ気味に叫ぶ。

 A子から服が消え、一糸纏わぬ姿になる。

 A子は屈辱に耐えながら、スマホを向けるハカセを睨む。

 しかし、ハカセは怯む事なく、A子の周りを移動してあらゆる角度からA子を撮り続ける。

 

 A子はダメ元でアシスタントを呼び出す。


「“ちょっとちょっと!”変身ポーズを変更!」


 しかし、


『申し訳ありませんが、ゲストは設定変更出来ません。正式登録後に固有のポーズ登録が可能となります』


 と予想通りの回答が返ってきた。


「ハカセ!このポーズいつまでしてればいいのよ!?」

「ん?初期設定だから三分だ」

「三分!?なんで初期設定が三分なのよ!流石に魔法少女の変身シーンに三分も使う事ないでしょう!」

「今、その壁を打ち破ったんだ」

「破るな!」


 それでも変身も二回目だからか、じっと我慢していたA子だったが、スマホを向けているハカセの姿を見ていると怒りが込み上げてきた。

 A子は我慢できす再び文句を言う。

 文句を言ってれば少しでも恥ずかしさを忘れていられるからだ。


「そもそもこの変身ポーズもおかしいわ!全裸もおかしい!私の知ってる魔法少女は変身している時、全裸じゃなかったわ!」

「いい質問だ」


 A子の喚き声を無視していたハカセだが、その言葉に反応した。


「何故、魔法少女は変身するとき、全裸になるのか?」

「私の知ってる魔法少女は大事なとこ隠してたわ!」

「それはな、自分の正体を知られないようにするためだ」

「おいこら、人の話聞け!」

「魔法少女は正体を明かしてならない。全裸になるのはそのための処置なんだ。一部の例外を除き自分の裸を他人に見られるのは恥ずかしいだろ?全裸になるのは人前で変身させないためだ。俺はそう結論づけた」


 そう言ったハカセの顔はどこか自慢げだった。


「知るか!」

「あと、君のいうように大事なところを隠しているものもある。その理由も解明している」

「何くだらない事をカッコいいことのように言ってるのよ!」

「それはな」

「人の話聞きなさいよ!」

「ズバリ年齢だ」

「は?年齢?」

「ああ。魔法少女っていうのは中学生くらいが多いだろ。昔はそうでもなかったようだが、今は世間的に少女が裸をみせるのは問題になる。だが、」


 ハカセはどうだとでも言わんばかりにA子を指差す。


「君は十八!フーちゃんでも働ける歳。つまり丸出しOK!」

「NGよ!NG!」

「いや、成人指定でOK」


 A子とハカセは口論するなか、時間は過ぎていき、


「そろそろじゃないか?変身ポーズが崩れてるぞ。しっかりポーズをとれ」

「後で覚えてなさいよ!」


 ファイティングポーズをとっていたA子が変身ポーズをとる。


「……あれ?これ、もしかして変身直前だけこのポーズとればよかったんじゃないの?」

「よく気づいたな」

「……ぶっ殺す!」

「まあ落ち着け。誰もが通る道だ」

「……」

『変身ポーズ確認。魔法少女・ギアを装着します』


 A子は体は包まれるのを感じた。


『変身完了。異常チェック中……チェック中……問題ありません。変身は正常に完了しました』

「おお!!」


 ハカセの喜ぶ姿を冷めた目で見ながらA子も自分の姿を見る。確かにそれっぽいがよくわからない。

 

「ほら、鏡で自分の姿を見てみろよ」


 ハカセに言われ、全身鏡の前に立つ。

 本当に魔法少女の服装になっていた。

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