牧村さんちにご挨拶

 どこで間違えたんだ?

 髪からつま先まで清潔にびしっと決めてきてもらったし、両親お気に入りの和菓子の手土産も持ってきた。

 ピンポン

 カリャリと空いた実家のドアから出てきた両親は重苦しい雰囲気をまとっていた。

「こんにちは。お付き合いさせてもらっています水巻です」

 にこやかにスマイル。母はニッコリと笑っている。片方は陥落できたようだ。

 問題はもう片方……

 案内されたリビングでお茶を出されると同時に彼は告げた。

「多恵さんをお嫁に下さいっ!!」


 彼が頭を下げると父は冷たい目で見ていた。

「お前のようなどこの馬の骨ともわからぬ奴に娘をやるつもりはない」

「はぁ? お父さんっ! 連絡したよね?紹介したい人がいるって」

 お約束の奴である。

(婿探しのために高校卒業日から一人ぐらしさせてたくせに)

「お願いします」

「こんなの認めない」

(理想は東大卒のイケメンで外資勤めだものなー。母さん何とかしてくれないかな)

 期待を寄せてみる母はキラキラして目で水巻さんを見ている。

(妻が恋する乙女になっているから気に入らないのか。母さん戦力外だったか)

 本当はあてにしていたのに。


 いままで何もなかったからこんなことを言われるなんて思っていなかった。

「というのは冗談で、一度行ってみたかったんだ」

「……」

「認めていただけませんか?」

 親指立ててグーのポーズの父。キラキラアイズの母。

(我が両親ながらちょろい。詐欺に切っかかりそうだ)

 何はともあれ理解は得られたようだった。

 父は水巻さんにお酒を飲ませ、グダグダ絡んでいる。

(父さん、お酒激弱なのに、2缶もあけて大丈夫なのかしら)

 だいぶ父の呂律も怪しくなってきた。

 婿候補を認めたからか、下戸のせいか、父親の威厳というものは30分ほどで消えてしまっている。

「ああ、そうだ。多恵。うちの親せき周りは多いから覚悟しておきなさい。感染症の関係もあるから結婚式は出来なくても写真郵送くらいしなくてはな」

「多恵、ダイエット頑張って。ウエディングドレス着てね」

 家は神棚も設けているゴリゴリの神道だと思っていた。

「うちって神道なんだから白無垢じゃないの?」

 母の結婚写真の時も白無垢だったと記憶しているが。

「あら、日本の神様はおおらかだから大丈夫よ」

(ぜったい母親の趣味だ。拒否権はないのか)

「いいですね。多恵さんのウエディングドレス見てみたいですよ。では式場探し気合入れますね」

 キラキラアイズは二人に増えた。

(まぁ、どっきりのダンスしなければいいか)

 潔くあきらめることにしよう。諦めも肝心。

(次は水巻さんの家にご挨拶ね)

 結婚式のあれこれよりも義理の家族とうまくやれるかどうか今から不安だ。

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