第2話 仕事の帰り道

 仕事が終わっても、泣くことも酒におぼれたくなる気分でもない。

(うん。大丈夫。いつも通りの自分だ)

 淡々と日々のルーティンに戻れる自分に安心した。

 仕事の帰り道、書店に寄った。

 すると高校生からの親友、由美に会った。


 その旦那さんも遠くに見える。


「久しぶりだね」


 由美は幸せそうで、笑顔が輝いている。


 身体がふっくらしていると思ったら、近々子供が生まれるそうだ。

「つわりとか大丈夫?」

「うん。もうだいぶましなの。出産の準備の本とブロガーさんの本を見に来たんだ。

 あれがあれば心強いかなって」


 そう話す友人の顔はもう母親の顔をしていた。

「元気な子産んでね」

「ありがとう。いまからもう陣痛怖いよー」

 由美は3冊の出産準備の本を購入し、去っていった。

「また会おうねっ!」

 送ったエールは8割本心、残り2割はモヤモヤとした曇った気持ちだ。

 結局ほしいものを手に取る余裕もなく、本屋を後にした。


 ざっと風呂にはいり、ベッドに横たわる。明日も仕事。

「早く寝ないと」

 呟いてみるものの、眠れない。

 嫉妬なのか、ひとりでいる心細さなのか。

 人知れず友人を見下していた自分の心か。

 きちんと親友を笑顔で送り出せただろうか。それが気がかりだった。自分の複雑な心境を幸せいっぱいの彼女には見せたくなかった。


 私だって相手くらいすぐに見つかるとか


 子育てはむりむりとか、仕事に生きるからいいもんみたいな

 自分に言い訳してみたりもする。何度も寝返りを打った結果ようやく眠気が訪れた。

 時計の針は午前2時は過ぎていた。それでも仕事の朝はやってくる。



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