第21話
三層に下り立ったガオウ達は、より気を引き締めた。あらゆる準備を整えて、装備も一新し、備えは万端にしてきた。それでも尚届かない相手かも知れない、その考えが緊張感を高まらせる。ガストンが守り、タッパが伝えた手がかりをもとに三層を進んでいく、不気味な事に今回の冒険では、殆どモンスターに襲われることがなかった。まるで、何者かに誘われているかのように道を進んでいく、異様な雰囲気を感じて、全員の口数が自然と減っていた。
「ここだ」
ガオウが地図を下ろす。三層の奥、あの騎士のガーディアンと戦った場所と同じように開けた場所に、四層へ下りる階段があった。そしてその前を陣取るように、件のガーディアンが仁王立ちで待ち構えていた。それを見たロンが一瞬気が引けたように後ずさった。
「どうしたロン君、大丈夫か?」
上に乗ったアリスがロンの頭を撫でる。ロンは少しだけ首を振って、いつものように戦いに備えた。
「いくぞ皆。変身!」
ガオウは鬼形態へ変身する。剣を手にマントを翻し、構える。エレノアもウォルもアリスもそれぞれの武器を手に取り、戦闘態勢に入る。
謎のガーディアンの見た目は異様としか言えなかった。顔は資料に書かれていたモデル竜の形を主にしているが、それに赤青黒と色が混ざり合っている。体はモデル炎と魔法、そして竜が混ざり合ったような装甲を身に纏っていて、手足には枷のような物がついている。胸の真ん中辺りに黒く鈍い光を放つ宝玉が埋め込まれていて、瘴気を放っている。
混ざり物、アリスが話していたように、様々に混ざり合った出で立ちのように見える。ガオウの号令と共に、混ざり物のガーディアンとの戦闘が始まった。
飛び出したガオウとエレノアを牽制するように、混ざり物のガーディアンは手から炎弾を飛ばした。しかしガオウもエレノアもその程度の攻撃で止まらない、ウォルが大盾を構えて、ガオウ達の前に飛び出し、その炎弾を防ぐ。
「通しません、通しませんぞ!」
次々と放たれる炎弾も、ウォルには通じない、アリスの魔法がかかった大盾を自在に操り、攻撃をすべて防ぐ、ガオウとエレノアはその間に混ざり物のガーディアンに肉薄して切りかかった。
『強き力を!堅き護りを!瞬迅なる速さを!』
エレノアが補助をガオウにかける、ガオウの掛け声と共に連撃が叩き込まれる。しかし混ざり物のガーディアンはそれを受けても傷は少ししかつかなかった。あっという間に回復して、反撃に移る。
「モデル竜の能力か、聞いてた通り硬いうえに回復も早い」
ガオウが頭の中で思考する。モデル竜は頑丈さを突き詰められたデザインをされていて、高い魔法耐性の他に、常に体の傷を治し続ける能力を持っている。その上鋭い爪に尋常ならざる膂力に、どれをとっても驚異的な能力だ。
エレノアとの連携を取りながら攻撃を重ねる、ある程度捌かれてはいるが、攻撃は通っている、着実に体力は削れている手ごたえはガオウもエレノアも感じていた。攻撃が通らず、ガオウ達の猛攻を止める手立てがないと悟った混ざり物のガーディアンは、胸の宝玉に手をかざしてぶつぶつと呪文を唱え始める。
「それはさせない!」『岩よ水よ炎よ風よ!我が魔力を以って敵を襲え!』
アリスはロンを駆りながら、四属性の魔法を隙間なく混ざり物のガーディアンにぶつける、ガーディアンは呪文の詠唱を止め、魔法による障壁を張ってそれを防ぐ、ガオウは自分とエレノアをマントで包み、アリスの魔法を防ぐと、また猛攻に移る。反撃の隙を与えずに絶え間ないコンビネーション攻撃を繰り出す。ガオウが右から斬撃を繰り出せば、エレノアが左から細剣と魔法による連撃で、相手の反撃の目を潰す。
攻撃に耐えかねてガーディアンが距離を取って、遠距離攻撃に移れば、ガオウとエレノアは下がって、ウォルが前に出る。大盾の防御は抜けない、弾き防ぎいなす。攻撃が通らないと呪術に切り替えようとするも、アリスがロンの脚力を生かし、動き回りながら魔法で牽制を続ける、攻め手を失ったガーディアンに止めをさすべく、ガオウとエレノアが前に出る。
『我は命ずるその…』
エレノアが契約魔法による力の解放を試みたその時、混ざり物のガーディアンがぼそりと呟いたのをガオウとエレノアが聞いた。
「エ、エレ、エレノア…?」
その言葉を聞いた途端二人の動きが止まる。そして今度は混ざり物のガーディアンが動く。
「ウオォォォォ!!!」
咆哮を上げ、ガーディアンの周りから衝撃波が放たれる。ガオウが咄嗟にエレノアと自分をマントで包み込み、ウォルがアリスとロンの前に立つ、防御姿勢を取って備えるも、大きく弾き飛ばされて全員壁に打ち付けられた。
ガオウは背を強く打ち付けられたが、エレノアをしっかりと庇う事ができた。ウォルはアリスを庇ったが、大盾を吹き飛ばされてしまった。アリスは咄嗟に魔法障壁を張りウォルとロンを守るが、ダメージは大きく、すぐに動く事が出来なくなった。
「ガハッゴホッ、エレノア大丈夫か?」
背中を打ち付けたガオウが、咳き込みながらエレノアの安否を確認する。
「私は大丈夫です。ガオウさんありがとうございます。だけどウォルさん達は、暫く動けそうにないようです」
ガオウもウォル達を見ると、うずくまって動けない様子の二人を庇うようにロンが唸っている。戦線復帰は難しいだろう、ガオウは一度離脱する事も視野に入れなければと思った。だが、エレノアは違った。
「ガオウさん、動けますか?動けるならまだ戦いましょう」
「エレノア、だけど皆が」
「アリスさんが、奥の手を切っています。ウォルさん専用のお守りを使って障壁を張りました。今回復の最中だと思います」
ガオウはよく目を凝らしてみると、確かに障壁が張られて、中にいるアリスが何とか回復薬を取り出してウォルの元へ這っているのが見えた。
「見てください、ガーディアンの形態が変化してます」
混ざり物のガーディアンの見た目は大きく変化していた。ごちゃまぜのような見た目から、手と足と頭にのみ装甲がついて、白い鱗状の肌で覆われて、胸の宝玉が鈍い光から光沢のある艶やかな黒色に変わっている。全体的に調和がとれたようなスマートな見た目に変わった。
「正直、私も撤退を考えました。だけどガオウさんも聞きましたよね、あのガーディアンが私の名前を呼んだのを」
ガオウはそれを聞いた事を気のせいだと思いたかった。しかし、エレノアの口からそれを告げられてしまったら、気のせいではないと決まってしまった。
「聞いた。気のせいじゃなかったんだな」
「気のせいじゃありません、私もガオウさんも聞いているのなら、やっぱりあのガーディアンは、はっきりと口にしたんです。私の名前を」
ガオウは変身して隠れた顔がギュッと潰れるほど目を閉じた。実はこの戦いの前にアリスから二人に聞かされていた事があったからだ。
「今回のガーディアン、可能性の一つとして君たちに伝えたい事がある」
アリスは作戦会議が終わった後、ガオウとエレノアを呼び止めて話しかけてきた。
「正直薄い可能性の一つ、僕もこんな事があってはならないと思っている。伝えるのも憚られるが、思いついてしまったのなら伝えなければならない、今回のガーディアン、エレノア君のお父さんの可能性があるかもしれない」
アリスから伝えられた言葉に、二人の顔から驚愕の色が隠せない、どもりながらガオウが先に口を開く。
「そ、それは、なんだってそんな事思いついたんだ?」
「僕もあまりに突飛な事を言っていると思っているよ、だけど、エレノア君のお父さんも改造手術を受けた。そして同じように変身能力を身につけた。もし、何かの原因で、他の被験者達と同じような事が起こったとしたら?例えばお母さんの死で契約魔法が切れて、それが引き金となったとしたら?可能性はあると僕は思う」
アリスも言葉を口にする度に顔を暗くしていく、こんなことを伝えるのは、心苦しいとアリスも思っていた。それでも思いついたのであれば伝えるのが筋であると、アリスなりの決意を持って話した。
「で、でもさ、俺は何ともなかっただろ?力のコントロールはできなかったけど、モンスター化はしなかった。迷宮で活動してたけど、そんな事は一度も」
「ガオウ君は、とても特殊な例だ。君は手に入れた研究データのどれにも当てはまらない、被験者二世と言おうか、しかしガーディアンとなったのは皆被験者一世、つまり改造手術を受けた人たちだ。エレノア君のお父さんは自らにその手術を施した。可能性としてはある」
ガオウの反論は虚しく消えた。
「ありがとうございますアリスさん。実は私もその可能性は考えていました」
エレノアから出た言葉に二人は驚く。
「私の場合は、アリスさんと違って考えてだした結論じゃありません。ただ、何となく予感がしたんです。私に関わる大切な何かがあるんじゃないかって、そんな予感がしたんです」
「エレノア…」
ガオウはエレノアの顔を心配そうに見る、それに気が付いたエレノアはガオウに笑顔を向けた。
「心配ありませんガオウさん、もしガーディアンが私の父だったとしても、倒すべき敵に変わりはありません。私は両親の遺志を継ぎに迷宮へやってきたんです」
ガオウはその言葉を聞いて、エレノアに言った。
「分かったよエレノア、その時は俺も一緒だ。一緒にやろう」
二人は顔を見合わせて笑った。その様子を見て、アリスもほっとした顔で安堵した。
ガオウは覚悟を決めてエレノアに言う。
「やろう、ここで奴を倒すんだ」
エレノアはその言葉を聞いて嬉しそうに頷いた。細剣を構えなおし、ガオウも立ち上がって剣を構える。きっとウォルもアリスも復帰して戻ってくる、二人はそう確信していた。ロンがそんな二人に合わせるように隣に来て相手を威嚇する。
「ロンさん、頼りにしてます。父を眠らせてあげましょう」
ロンが一鳴きしてエレノアに応える。ガーディアンはその間も立ち尽くしたまま、ただこちらに体を向けている。
ロンがまず飛び出した。そしてエレノアがガオウを大翼形態に変化させる。ロンが爪や牙で攻撃する隙を作るために援護射撃を行う、溜めはあまりせずにとにかく数を撃ちこむ、ガーディアンはそれを片手で振り払うだけですべて落とした。ロンが爪でひっかき、噛みついて攻撃を試みるが、堅い鱗の表皮にはあまり効かなかった。
「下がれロン!」
ガオウはロンを下がらせる、そしてエレノアにロンに乗るように言うと、自分は駿狼形態に変えるよう指示した。
「ロンと一緒なら駿狼について来れるはずだ、行くぞ!」
ガオウとロンに乗ったエレノアが飛び出す。ガーディアンが片手を前に差し出すと、青白い炎の壁が襲い掛かってくる。
『障壁よ我らを守れ!』
エレノアは細剣を用いて魔法の障壁を張る、威力が高くエレノアでは防ぎきれないが、構うことなく前進する。ガオウがガーディアンに肉薄すると、エレノアがすかさず契約魔法による補助をかける。
『我は命ずる!その身に宿る狼の魂を解放せよ!』
ガオウは沸き上がる力に身を任せてガーディアンに爪で切りかかる、目にも止まらぬ連撃をガーディアンも捌く。
「オォォォ!!」
ガオウは咆哮を上げながら連撃を繰り出すが、堅い守りと巧みな捌きでそれを退ける、それでも尚手を止めることなく繰り出す連撃をサポートするために、エレノアが一手打つ。
『風よ敵の腕を縛れ』
それはただの一瞬だけの拘束、高い魔力耐性を持つ竜の体には、あっという間にかき消される。しかしその一瞬の隙で十分だった。駿狼形態の剛爪がガーディアンの脇腹を抉る。
「あぁぁあぁ、エレ、エレノア…」
傷を受けたガーディアンはまたもエレノアの名を口にする。それを聞いて一瞬ガオウは怯んでしまう、その隙にガオウはガーディアンに殴り飛ばされた。
「ガオウさん!」
エレノアはロンに命令してガオウの元へすぐに向かう、ガオウは駿狼形態を解いて鬼形態に戻る。
「大丈夫、怪我はない、それより悪かった。あいつの言葉に一瞬怯んじまった」
「いえ、相手に与えたダメージは大きいです。一度引けてよかったと思います」
何故と聞こうとしたガオウの肩を、ウォルがポンと叩いた。
「拙者達が復帰したからですよ」
「ウォル!アリス!」
ウォルとアリスが怪我を治して戻ってきた。その事実だけでガオウは心強さを感じた。
「見た目が変わっているようだが、何があった?」
「アリスさん、戦いの前の嫌な予想が当たってしまいました。恐らくあのガーディアンは私の父です」
アリスの顔が曇る、アリスにとっても嫌な予想だったのが、当たってしまった事がショックだった。
「そうか、ではあの形態は何か秘密があるんだな」
「恐らくそうです。父がどんな力を使っているのか分かりますか?」
「分からない、ただ、さっきの混ざり物のような見た目と雰囲気からはかけ離れていて、調和のとれた状態のようだ」
「話してるとこ悪いけど、相手が回復してる、畳みかけないと」
ガオウが指さす先で、ガーディアンが先ほどの傷跡に手を当てて回復魔法を使っている。
「じゃあ話は後だ、仕切りなおそうか!」
アリスがロンに乗りこんで杖を構える。ウォルも大盾を構えなおし、ガオウとエレノアも剣を相手に向けた。
アリスの魔法が相手を襲う、ウォルはサーペントを展開してそれに追従する。ガオウはマントでエレノアを包みながら、ガーディアンへと向かっていく。ガーディアンは両手をかざしてさらに火力の高い炎でガオウ達を襲う。
「ところが通りません!」
その前にウォルが飛び出す。そのウォルにアリスが障壁の魔法をかけて、大盾で炎をかき消す。防いだ攻撃の横から二人は飛び出す。そのまま突っ込んでいき、エレノアは契約魔法の最大補助をガオウにかける。
『我は命ずる!その身に宿る鬼の力を最大限にまで解放せよ!』
補助魔法の勢いに乗せて大剣を振りかぶる、そのまま全身全霊の力を込めて大剣を振り抜いた。
混ざり物のガーディアンは胴を両断され、その場に崩れ落ちた。
「エ、エレ、エレノア、ああ、エレノア」
エレノアは戦闘不能に陥ったガーディアンにすかさず駆け寄り、その手を両手でしっかりと握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます