第4話

 サイコロが転がる音だけが響く。

 僕の駒は、6マス目に移動していた。そのマスもイベントマスではなかった。偶然だろうが、イベントマスにはまだ止まっていない。彼女も少し悔しそうに、「何もないです」と伝えてくれる。

 彼女の番になり、5マス目に止まる。どうやら、イベントマスらしい。別紙によると、手を10秒間合わせるというものだった。お互いの手を重ねる。うーん、当たっただけでもかなりの緊張が走る。だって、女子の手だし、好きな人の手なのだ。うむ、なんらおかしくない。時間がきてはなす。

 ・・・・・小さいし、やわらかいし、あったかい。女子の手だった。気恥ずかしい。彼女はどう思ったのだろうか?


 サイコロを振り、出た目に沿って移動させる。

 僕がイベントマスに止まることなくゲームが進む。彼女の4回目のターンで11マス目に止まる。そこはイベントマスだった。彼女はさっきから、僕がマスに止まらなくて少し不満そうにしてた。次の内容は何なのか、それを考えていたら。突然、彼女は僕の隣に移動してきた。

(!!!!!???????)

 混乱である。本当に混乱である。

 彼女は、頬を少し膨らませながらも、僕のほっぺたをつついてきた。内容は、駒の人が相手の頬をつつくというものだった。

 何それ!本当に何それ!

 ・・・近い!そして、膨れてる顔ももかわいい。というか、恥ずかしい!!照れる!何このゲーム⁉


 ゲームが終盤に差し掛かり、下校時間も迫る。僕はここまでイベントマスに止まらずにゴールが狙えるところにきていた。彼女のサイコロが転がり、駒を動かす。19に止まる。彼女は黙って紙を見た後、カバンからポッキーを取り出す。そして、1本取り出して口にくわえてこちらを見る。まさか・・・・。首を振るが、相手も首を振って否定してくる。諦めてくれない!!覚悟を決めて、口にする。

 だが、すぐに折る。これでいいかと思い、彼女を見るが、彼女はポッキーに視線を落とした後、くわえてるものをサクサクと食べてもう一本出してきた。

 「ん!」

 目をつぶり、両手を上げるが諦めない。無言の圧力である。抵抗しようとするが、彼女は何も言わずに、ただただポッキーの先を突き付けてくる。

 ・・・負けた。僕はもう一度口にくわえた。

 どんどん顔の距離が近づく。顔が近い!!彼女は目をつむっていて、どんどん近づいてくる。え、どうしよう!ほんとにもうすぐ当たるってーー。目をつむり、もうなるようになれと自棄になり始めたころ、ポキッと折れた音がした。彼女は少し顔を離し、残りを食べ終わると、目を片方開け、「ふふん」とでも言うように楽しそうに顎を上にむけ、”してやったり”とでもいうような顔をしていた。


 もう何なのだろう。ドキドキしすぎて疲れる。今もサイコロを転がさないといけないのに、ドキドキが止まってない。顔に出さないようにと思っても、赤くなっているのがわかる。彼女の方を伺うが、顔を伏せて目が合わない。彼女も恥ずかしがったのだろう。ほんのりと頬が赤いのがわかる。・・・・・。うん。ひとまず考えるのやめにしてすごろくを見る。今僕は18マス目に駒がある。ここで、3以上を出せばゴール。だが、ここで1を出せばさっきと同じ展開になってしまうのが予想できる。2を出したらと思うが、それは、まだわからない。紙には書いてあるのだろうが、見えないので今知ることはできない。・・・意を決して、サイコロを転がす。出た目は・・・・!!!


 転がったサイコロを見る。目は4だった。これで、ゴールに着き僕はあがりになった。結局、ぼくは一回もイベントマスに乗ることなく終了した。寂しような、ほっとしたような。・・・心臓のドキドキも少しは落ち着いてくる。もしかして、残りのでていないイベントもこんな感じなのだろうか。。・・・・ほっとするような、残念のような。複雑な気持ちになりながらも、相手の様子を伺う。

 彼女の表情は、下を向いていてはっきりとはわからない。

 「・・・・おめでとう、ゴールです」

 と彼女はしぼり出すように言った。


 ゲームも終わり、下校時間を告げるチャイムが鳴る。彼女は、「じゃあ・・・・」と言い、急いで片づけに取り掛かる。自分も少し手伝いながらも彼女は、テキパキと片づけたのだった。そして、「じゃあ、解散!」と勢い良く言って、嵐のように去っていた。彼女の顔は少し赤らんでいるように見え、それが夕日のせいなのか、気持ち的になのかはわからなかった。

 そして、僕は彼女からもらった手紙と共に教室に残されたのだった。

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