中編

「お義母様は大切にしていた手紙は実家から持ってきた手箱に入れていたの。とても綺麗な細工がされていたから、私も向こうに一つ注文しようかな、と思った程。で、開けてみて、色んな友達との手紙が美しい色のリボンで差出人別に括られていたのね。ただ、その箱の厚みに対して少しだけ底が浮いている感じがしたのね。そうしたら」

「そうしたら?」

「二重底になっていたの。鍵がついていたとかそういうものではなかったけど…… で、箱には申し訳ない気がしたけど、ぽん、と裏返して叩いてみたら、中底と一緒に落ちてきたのがこれ」


 黒リボンの束があったのだという。


「で、これが怖くって」

「怖い?」


 彼女は黙ってうなだれた。


「だから貴女の判断も聞いてみたいと思ったの。貴女は昔からとてもそういうところは聡明だったでしょう? この手紙をどうしていいものなのか、あのひとに見せて判断を仰いだほうがいいのか、その辺りも判らなくて……」

「わかったわ。さあ、手紙を私が見ている間、貴女はうちの料理人が腕を振るった焼き菓子を食べていて」

「そうね。……そう言えば、最近あまりこういう甘いものも食べてなかった……」


 それほど気がかりだったのだろう。

 私は黒いリボンを解いてまず外を確かめた。

 差出人…… は一応ある。

 ただ、その住所が気になる。

 投函されたであろう場所の消印と、差出人の住所がまるで違う。

 そもそもその住所――帝都内のものだが、ありえないものなのだ。

 だって私はその住所を知っている。

 夫も勤務している帝室直属の特別高等警察のある場所なのだ。

 消印の順番に積んであったので、順番に開けてみる。

 中には一枚のレターペーパー。

 開いてみる。


「サブリュートは施設に入りました」


 そう一行だけ。

 思わず彼女の方を見る。

 黙って頷く。

 確かにぞっとした。

 サブリュートって誰だ。

 そもそも何で一行だけ。

 ともかく二通目を開けた。

 

「わかりません」


 いや、こっちがわからない。

 そして三通目。


「シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました

 シロースは亡くなりました……」


 紙の上から下まで同じその文が書き綴られている。

 別に血文字とかそういうのでなく、ただの普通のペンとインク。

 手紙は全部で九通あった。

 それぞれ一行ずつ、


「ゴローリンはみえなくなりました」

「ロクシタナをさがしてください」

「どこにいますか」

「どこにいますか」

「どこにいますか」

「行きます」


 全身に冷水をぶっかけられた様な寒気が全身を襲った。


「いやこれ、消印とか色々、ともかく子爵に相談しなさいって!」

「でも」

「でもも何でもないでしょ、ただでさえあの方々、普通だったら転落なんかしないところで事故に遭ってるんだし!」


 そうなのだ。

 子爵家の御者は優秀で、常に事故どころか、無駄に馬車を揺らせる様なこともない様な者だった。

 だから余計にそんな事故が、と皆思ったものだが……

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