殺し屋だった彼女、戦いを終えて
戦いが終わってから3週間。時間と共に被害の全容も明らかになり、復興の陣頭指揮に当たっていたクーリさんは顔を青くしたらしい。
何しろ、領主に仕える騎士団に文官、北区貴族街の貴族と使用人は、ほとんど全員が謀殺。西区では死亡者が千を優に超え、Cランク以下の冒険者も約3割が死亡、もしくは再起不可能な傷を負っていたというのだから、そりゃあ顔も青くするだろう。
西区の教会、その庭に建てられたテントの入り口を潜った。
「どうも、お邪魔するよ」
そのテントの一角に、熊のような男性が寝かされている。
「おぅ、フウの嬢ちゃんか」
死の淵を彷徨い続けてたギルドマスターが、何とか一命を取り留めて目を覚ましたって聞いたんだけど、
「随分元気そうじゃないか」
「いやいや、元気なもんか。見ろよ、この体中に巻かれた包帯と治癒札。何よりあんな不意打ちでやられて、一番の危機であるロットドラゴンとの戦いに参戦出来なかったってのが情けないやらなんやらで死んじまいそうだ」
「確かに、一番に脱落してたもんね」
そう言ってケタケタと笑ってやる。あんな厄介事に僕を巻き込んだ報いだ。存分に後悔すると良い。
「勘弁してくれ…最終的にロットドラゴンを倒す決定打は、あの幼いタンジの坊主が命を賭して作ったらしいじゃねぇか。弱き民を守るのが冒険者の務めだと散々後進に説いてきた俺が、情けないもんだ……」
冒険者ギルドに出入りしていたタンジ少年の事は、ギルドマスターも含め冒険者達によく知られていたらしい。
でも、
「その事なら、そう気を揉まなくて良いだろうさ。タンジ少年は、弱く哀れな犠牲者じゃない。強く誇り高い戦士だから」
なんせ彼は自身の手で妹を守ってみせた、
「…そうか、そうだな」
そうさ、間違いない。
「あ、それで仕事の報酬に関してなんだけど」
そうそう、これが本題だ。別に僕は、ギルドマスターを慰めるため、わざわざここに来た訳じゃない。
「相変わらずだな…だがまぁ、それでこそフウの嬢ちゃんか。指名依頼達成の旨は、昨日見舞いに来たクーリに伝えといた。報酬はギルドでクーリに会えば貰えるはずだ」
「さすが、手早い対応で助かるよ。そういえば、ちょっと聞きたいんだけど、ギルドマスターや高ランク冒険者の人達が使ってる、あの魔闘術ってやつ。興味あるんだけど、何処かで学べたりするのかい?」
図書館で探したけど、魔闘術に関しての本は全然見つからなかったんだよなぁ。
「あぁ魔闘術な。ありゃあ別に何処で学ぶなんて小難しい話じゃなくて、冒険者なら冒険者、騎士なら騎士、大抵はその道の先達から教わるもんだ」
「なるほど、口伝の技術って訳ね」
僕のその言葉に、ギルドマスターが苦笑をした。
「そんな大層なもんじゃねぇよ。魔力の扱いにさえ慣れてれば、時間差はあれど大抵の冒険者は習得出来る。教わってもないのに、いつの間にか出来るようになってる奴も少なくない。俺はそうだった。ただ如何せん感覚頼りの技術だから、こう言葉にしようとすると…な」
うーん、筋肉に力を込めることは誰でも当たり前に出来るけど、そのやり方を分かりやすく文字に起こして説明しろって言われると難しい、みたいなことかな。
何か分かるような分からないような、絶妙な感覚だね。
「傷が治ったら俺が教えてやっても良いんだが…そんなに待つつもりは無いんだろう?」
「へぇ、よく分かったね。うん、明後日あたりには街を出ようと思ってるよ」
別に隠すようなことではなかったのだが、僕から話す前に言い当てられたことに、少しだけ驚く。
「何となく、嬢ちゃんならそうだろうなと思っただけだ。本当なら戦力を大量に失った今、この街に居着いてくれるとありがたいんだが……」
「悪いけどその気はないよ」
「そうか、なら仕方ないな」
あっけらかんと断る僕に、ギルドマスターもあっさりと諦める。引き留めても無駄だろうということは、元より予想していていたのだろう。
「次に向かうなら、この国の王都に向かうと良い」
「へー、どうして?」
「王都は周辺に魔物がほとんど生息していない代わりに、
迷宮?RPGゲームみたいなあれの事かな、階層を下って行く的な。
「それを防ぐために、20年ほど前からギルド主催の冒険者育成講座なんてもんが行われている。そこでなら、魔闘術に関しても教えて貰えるはずだ。まぁ嬢ちゃんなら、そのうち勝手に使えるようになってそうなもんだが」
だから脳筋のギルドマスターと一緒にしないで欲しいなぁ。僕は理論派の人間なんだ。
「他の街で、魔闘術を使える冒険者から聞く、って手はないのかい?」
「おすすめはしねぇな。俺達の先達から教わるってのは、大抵パーティーや、その集まりであるクラン内での話だ。嬢ちゃんはそんな風に、何処かに所属するつもりはないんだろう?」
クランなんてものもあるんだね。パーティーが部署、クランが会社、みたいなイメージかな?いやちょっと違うか……
まぁ何にせよ、確かに今のところ何処かに所属するつもりは無いし。魔闘術は明らかに有用そうだから早いとこ身に付けておきたい。ギルドマスターの言うように王都に行くのがベストかな。
「そうだね、うん。王都に向かってみるよ」
「おぅ、そうすると良い」
じゃあ、もう用も済んだし、そろそろおいとましようか。
「じゃあまた、何処かでね」
「またな。今回は助かったぜ、ありがとな嬢ちゃん」
僕はギルドマスターに背を向けてヒラヒラと手を振り、テントを後にした。
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