勇者になった彼の旅立ち
戦いが終わってから10日。冒険者ギルドを通して、王都からリアの元に1枚の手紙が届いた。
「クレア伯爵家は取り潰しのうえ、領地没収?!皆あんな命がけで戦ったのに!」
「ありがとうございます、マコト。でも、それは当たり前なのです。私達貴族とその騎士が、領地とそこに住む者達のために命を賭けるのは大前提です。そのうえで民達を守ることこそが、義務。しかし私達はそれを果たせなかった。この街の住民に、多くの犠牲者を出してしまった。ですからこれは当然の沙汰です」
リアにそう説明されても、俺は納得出来ずにいた。
だがそれはきっと、貴族制の無い日本という国で育った俺の価値観が、この世界においては異物だってことなんだろう。
そう自分に言い聞かせ「でも」という言葉をぐっと飲み込む。
「マコト、私はこれから学園都市国家タラティへ行こうと思います。
「…その学園に通ったら、俺も強くなれるかな?」
「はい。マコトならきっと、いえ絶対に強くなれます」
本当に変われるだろうか…いや、それは俺次第か。学園という場所に少しでもその可能性があるなら、行くべきだ。
「あぁ、俺も一緒に行かせてくれ」
俺の返答に、リアは嬉しそうに笑う。
「タラティまでは距離があり1年近く掛かります。ストラストは……」
一緒に来てくれないか、そんな意味の込められたリアの言葉に、ストラストさんは申し訳なさそうに首を横に振る。
「すみませんアリシア様。俺はこの街に残ります。戦力が足りないから復帰しろと冒険者ギルドのサブマスターからせっつかれてまして。こんな足でも、まだ出来ることはあるかもしれませんから」
そう言う彼の顔には、若干の後悔が滲んでいた。それは街の危機に何も出来なかったという自責だろう。
「そう、ですか。分かりました。この街をよろしくお願いしますね、ストラスト。とはいえ、マコトと私の2人ではやはり少し不安が残りますね」
確かに、今回の事でよく分かった。俺は無力だ。今までの戦いは、ラーヴァがごまかしてくれていただけの砂上の楼閣。リアも多少魔法は使えても、実戦で戦えるかは怪しいらしいし、少なくとも、もう1人くらいは仲間が欲しい。
「じゃあ冒険者ギルドで、一緒に学園まで旅をしてくれる仲間を探すのは?」
「それが良いかもしれませんね」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
それからまた、1ヶ月ほど時が過ぎた。
知り合いやお世話になった人達に挨拶を終えて、俺とアリシアの2人はグレイの街を後にする。
「結局ダメだったなぁ」
「見つかりませんでしたね。仲間」
「皆、街の復興を中心に忙しそうだったからね。あのフウさんって女の子はパーティーを組んでなかったし、俺と同じ頃にギルドに登録したみたいだから、もしかしたらと思ったんだけど」
それにしても、あの女の子がカルミア達と一緒にロットドラゴンを倒したのか。俺と同じくらいの歳に見えるのに、凄いよな……
「即答で断られましたね。とはいえ、あれ以上グレイに留まっていては、学園の入学試験に間に合わなくなる可能性もありましたから、仕方ありません。仲間は旅の途中の街で探しましょう」
街道を歩く俺達の会話に、明らかに不満なのを表情に浮かべたラーヴァが姿を見せる。
「仲間なんておらんでも、儂がおれば十分じゃろう」
「勿論ラ―ヴァ様は頼りにしいますよ。何せ聖なる神剣様ですから」
リアの言葉にラーヴァは一転上機嫌になり、ドヤ顔でそうだろう、そうだろうと頷く。
「チョロいなー、ラーヴァは」
「なっ?!チョロいとはなんじゃマコト、チョロいとはっ」
「でもやっぱり、もう1人くらいはさぁ、仲間がいた方が」
「お主は儂への感謝が足りておらぬな。大体お主がさっさと強くなれば……」
そんなやり取りを聞いて、リアがクスクスと笑う。
俺達は街道を進んで行く。顔を上げて先を見据え、しっかりとした足取りで。
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