殺し屋だった彼女と、戦う彼らと・Ⅵ
無理な体勢で狙撃銃を撃った反動で、僕はロットドラゴンの頭から転げ落ちる。
もし魔核があの位置になかったら、もし射撃が外れたら、もし狙撃銃の威力で魔核を破壊しきれなかったら、次の策はなかった。危険な賭けではあったけど成功したようで何よりだよ。
「あー、体中が痛い」
肋骨は何本もいってるし、肩も絶対内出血とかしてるよ。腐肉に触れたせいで掌も爛れてるし…本当にもうこんなこと、二度とやりたくないね。
こないだの女吸血魔族の暗殺の時も、似たようなこと考えた気がするけど……
「嬢ちゃん、よくやった!」
魔核を破壊されたロットドラゴンは拘束への抵抗が弱っていき、そして止まる。もう動き出す様子はなさそうだ。
「ゾンビは魔核を破壊されたら崩れ出すのが相場だが、ロットドラゴンとなると流石に丈夫だな」
その様子を見て安心したのか、ふと誰かがそんな事を呟いた。
そう、本来死した者であるアンデットが動くのは、変質した魔核があるからだという。それが破壊されれば、その体を保つ事は不可能。ロットドラゴンのようなゾンビ系アンデットの場合、ただの腐った死体に戻る。それが僕も本で読んだ、冒険者の常識だった。
その時、全員が完全に油断をしていた。
「まだじゃ!」
いつの間にかまた姿を現した例の女の子がそう叫んだ、その時にはもう動き出していたロットドラゴンに、僕を含めて冒険者達全員の反応が遅れる。そして、その一瞬遅れが致命的だった。
魔術師の1人が「えっ?」という間の抜けた声と共に、上半身をドラゴンにかみ砕かれる。そして近くに立っていた槍使いの戦士も、爪で体を貫かれ瓦礫に叩きつけられた。
「ディラ、ダン!くそっ、何でまた動き出しやがった?!」
おじさんがロットドラゴンの骨の爪を何とかギリギリで避け、槍を構える。
「話が違うよ!アンデットは魔核を壊せば討伐出来るんじゃないのかいっ?」
「今が壊したのは、そやつ本来の竜の魔核が変質したものじゃ!そやつの体には、後から埋め込まれたであろう、どす黒い魔力を放つ魔核がもう1つある」
冒険者達全員の気持ちの代弁であろう僕の疑問に、女の子はそう答えた。
…そんなイレギュラー聞いてないよ、全く。女吸血鬼かあのドッペルゲンガーか、どっちの仕込みかは分からないけどこれはやられたね。
さっきロットドラゴンを拘束た時に吹き飛ばされた2人は、死んではいないけど復帰は難しそう。今やられた2人は……
魔術師は完全に上半身を食いちぎられ、戦士は体の真ん中に大きな穴が空いた状態で、地面に転がっていた。
まぁ即死だろうね。となると戦えるのは僕含めて6人。それも皆かなり消耗してる。西区への救援も考えたら、これ以上数を減らす訳にはいかないんだけど。
「一度失った魔核はしばらく再生はせん!胸の魔核を破壊すれば今度こそ、そやつは倒れるぞ。儂はもう、魔力が……」
それだけを言って女の子の姿がかき消える。
現れたり消えたり、本当に忙しい女の子だ。
その言葉を受けた冒険者達は、困惑や怒り、色々な感情を押し殺して、皆ロットドラゴンに向けて武器を構えていた。
ジュクジュクとした痛む掌に顔をしかめながら、僕ももう一度狙撃銃を手に取る。
そんな時、ロットドラゴンがまた、天に向けて口を大きく開く。
「ブレスが来るっ!」
冒険者達が近くの瓦礫や魔術師の作った氷の壁に身を隠そうと動き出した瞬間、ロットドラゴンの胸の辺りから発生した真っ黒なもやが蛇のように辺りを這いずり出した。
「何だこれ!」「足が重い?!」「くそ、間に合わないっ」
黒いもやは触れた冒険者に纏わり付き、その歩を邪魔しているらしい。
今にもブレスを放たれようという中、未だ身を守れる状況に無いのは5人。
もやに捕まった3人の冒険者、気絶している勇者の少年、そして父の遺体の横で嗚咽している少女だ。
まずい!只でさえギリギリの戦力なのに、冒険者が3人も落ちたら、さすがにもうどうにもならなくなる。
そして、ブレスが放たれる、その直前。僕の横を人影が通り過ぎ、ロットドラゴンに向けて駆けていった。
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