殺し屋だった彼女と、戦う彼らと・Ⅴ

 やっぱりドッペルゲンガーの男を倒しても、こっちは止まらないか。


 元凶だった男が消え、ロットドラゴンが見境なしに暴れ出しても、冒険者達は防戦に徹し戦いは膠着状態が続いている。

 しかし、それは同時に、防戦が限界であり攻めに転ずることが出来ないということでもある。この膠着状態が続けば、先に体力と魔力が尽きるのが冒険者達だろう。

 故に、ロットドラゴンを仕留める策がいる。


 さて、タンジ少年に大見得切って来たのは良いものの、本当にどうしようかね、このロットドラゴン。一番は魔核を砕くことなんだろうけど。


 僕は、戦いの司令塔となっている、冒険者のおじさん元へ歩を進めた。


「嬢ちゃんか、さっきぶりだな。あっちの黒幕を討伐してくれたんだろう。助かったぜ」


 あのレベルの相手なら、1対1であれば僕じゃなくても討伐は出来たと思うけどね、本体はそんなに強くなかったから。


「不意討ちは得意だからね。それよりもおじさん、ロットドラゴンの魔核が何処にあるか分かるかい?」


「ゾンビ化してるとはいえ、竜種は竜種だ。あるとすれば額の奥、頭蓋骨の裏だろうな」


「眼窩の穴から魔核は見えるかな」


「あぁ、今は腐った肉と眼球が邪魔しているが、それがなければ見えるだろうさ」


 ふむ、それなら…試してみようか。奥の手を見られるのは正直嫌だけど、彼からの仕事を受けると決めた以上、優先すべきはその達成だからね。


「おじさん、10秒間で良い、ロットドラゴンの動きを止められるかい?」


「…タイミングをこっちに任せて貰えるなら、多少無理すれば可能だ。何か策があるのか?」


「あぁ10秒あれば、あれの魔核を破壊出来る、と思う」


 おじさんは一瞬の思考の後に、僕の言葉に乗ることを決めたらしい。


「嬢ちゃん。ジャック、ギルドマスターからの依頼を受けた時、あいつ何か言ってたか?」


 突然何の話だろう?


「確か、直感がどうのとか何とか……」


「そうか。昔からあいつの勘は、必ず良い結果を引き寄せてたからな。嬢ちゃんに任せよう」


 おじさんは、槍を担いで前線に躍り出ると冒険者達に鋭く指示を出した。何としても10秒間ロットドラゴンを止める、と。


 まず魔術師の1人が何かを唱え、ロットドラゴンの正面に盾持ちの重戦士が飛び出す。勢いよく振るわれた爪を全身全霊を持って押し留めると。すかさず後ろから突っ込んだ別の戦士がその骨と腐肉の前足を、大槌で下から掬うように叩き上げた。

 すぐに反対の右前脚でその2人は吹き飛ばされるが、その隙に後ろに回ったおじさんともう1人の槍使いの戦士がそれぞれ、後脚を槍で地面に縫い付ける。

 ロットドラゴンが2人を凪ぎ払おうと尾を叩きつけるが、それを拳闘士が正面から受け止め、2人の魔術師が、魔法で種から成長させた太く頑丈な植物の蔓と氷魔法で、ロットドラゴンの頭と体、そして両前足を地面に縛り付けた。


 凄まじい猛攻だね。この感じ、皆ギルドマスターが使ってた魔闘術とやらを使用してるようだけど、高ランク冒険者にとっては、それが当たり前なのかな?


 ロットドラゴンはなんとか拘束から抜け出そうともがく。拮抗状態はそう長くもたないだろう。しかし僕が指定した10秒という時間は、ギリギリ足りる。


「嬢ちゃん今だ!」


 さて、次は僕が仕事を果たす番だ。


 おじさんの叫びを合図に、ロットドラゴンの腐った眼球に思い切りナイフを投擲する。ナイフには短く切った導火線に火を付けた状態の、お手製ダイナマイトがくくりつけてある。

 ナイフが眼球に突き刺さった瞬間、ダイナマイトが爆発を起こし、腐肉と眼球が飛び散ってその眼窩が露になった。


 あの眼窩の奥に見えるのは間違いない、魔核!


 再生が始まる前に、間髪入れず狙撃銃を片手に駆け出し、その下顎に足をかけて飛び上がる。魔法で作られた蔦を掴む。そして眼窩に銃口を突っ込み、狙撃銃のトリガーに指をかけ……


 さぁ、狙撃銃のゼロ距離射撃、たんと味わうと良いよ。異世界の怪物。


 ズドンという重い発砲音と共に、その魔核が砕け散った。

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