殺し屋だった彼女と、戦う彼らと・Ⅳ
女騎士と共にロットドラゴンに吹き飛ばされた直後、僕は瓦礫の中でほんの一瞬飛んだ意識を取り戻す。
痛ったい!上手い事女騎士を盾にして直撃は避けれたけど、それでもこれ、肋骨は何本かいってるね。
さて後は、全員の視線が外れた時を狙って……
誰の視線もこちらを向いてない隙をついて、瓦礫の影を縫いその場を脱する。
悪いけど、僕はここで棄権だ。受けた仕事は全部終えたし。報酬が貰えてないのはかなり痛手だけど、命には代えられない。この街も出た方が良いね。
そんな事を考えながら、人っ子一人いない貴族街を走っていた時の事。
「フウの姉ちゃん!」
僕を呼び止める声に振り替えると、通り過ぎた建物の陰にタンジ少年が立っていた。
「タンジ少年、何でここに?」
「フウの姉ちゃぁん。う、う、うわぁぁぁん」
な、何だい突然?!
突然泣きながらしがみ付いてきたタンジ少年に、思わずオロオロとする。
「タ、タンジ少年、泣いているだけだと分からないんだけど、どうしたんだい?」
僕がそう促すと、タンジ少年はしゃくりあげながらポツポツと話し出した。
「…ロットドラゴン、が、西区であばれて、皆、やられちゃった…壁もこわされて、魔物が入ってきて…今は教会にこもってるけど。ヨギも、ヨギも調子が悪いんだ!」
え、ヨギ?誰?というか街の壁が壊されて、魔物が入ってきてるとは、また……
「そのヨギっていうのは?」
「ヨギ、は、妹なんだ…体がよわくて……」
そう言ってタンジ少年はまた、グスッグスッと泣き出した。
妹、妹かぁ。
「それでタンジ少年は何がしたくて、何のために、北区へ?」
「…助けて、欲しいんだ。西区にいた冒険者の人達は、たくさんやられちゃったから。手が回らなくて。本当は、俺が戦えたら一番なんだけど、俺は
タンジ少年は自分の弱さをしっかりと理解していた。確かに彼1人ではゴブリン1匹に勝つことも難しいだろう。
だから、領主の館にギルドマスターと高ランク冒険者達が集まっていると聞いて、助けを求めに魔物が闊歩する街の中を、その震える足で走って来たのか。でも、
「今、あそこに行っても手が空いてる冒険者はいないよ。西区から移動したロットドラゴンが暴れてるから、そっちで手一杯だ」
「そんな…お願いだフウの姉ちゃん、助けてくれ!このままじゃ、皆が、ヨギが!」
「タンジ少年、西区にいる魔物の数は分かる?」
「冒険者の人は大体100体くらいだって…でも軒並みCランクを超えてて、Bランクの魔物も少なくないって……」
殺し切るだけなら、時間さえあれば僕1人でもどうにでもなるかもしれないけど、住民を守るってなると厳しいね。というか結局ロットドラゴンが放たれたら、どうせ街ごと終わりだしなぁ。
「そうだ、この街から逃げないかい?君1人なら僕が抱えて連れて行ってあげるよ」
「嫌だっ。ヨギを見捨てて逃げるくらいなら、最後まで守るために戦って、一緒に死んだ方がマシだ!」
僕の問いに、タンジ少年は泣きはらした眼を見開いて、叫ぶようにそう答えた。
何だか僕達の昔を思い出す、そう思わないかい?そうだね、僕達の時は助けてくれる人なんていなかったけど。
うん、これは仕方ない。そうだろう?
「僕1人が西に向かっても状況は対して変わらない。それにあっちのロットドラゴンとの戦いも、押され気味でね。止めている冒険者達が倒されたら、この街自体終わりだろう」
「じゃ、じゃあどうすれば」
僕はタンジ少年に向けて、ニヤリと笑いかける。
「タンジ少年、僕は実は殺し屋なんだ」
「えっ?!」
「内緒だよ。前にいた街では報酬さえ払えば誰でも殺してみせる最強の殺し屋、なんて呼ばれててね」
実際は全ての仕事を受けてた訳じゃないけど。
「高ランク冒険者達が西区に向かえないのは、今領主の館にこの騒ぎの元凶の魔物とロットドラゴンがいるからなんだけど」
「じゃあ、依頼する。俺が払えるものなら何でも払うから、その魔物とロットドラゴンを殺してくれ!フウの姉ちゃんっ」
僕はタンジの少年の乱暴に撫でてから、
「うん。その仕事"死神"が承ったよ」
館に向けて踵を返した。
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