殺し屋だった彼女と、戦う彼らと・Ⅰ
頭上の瓦礫の隙間、そこに大剣が突っ込まれガラガラと音を立てて崩れる。
「ありがとね、助かったよギルドマスター」
「その礼は、ロットドラゴン討伐への協力って事でどうだ?」
「そもそもギルドマスターがこんなところに僕を呼び出さなければ、こんな目にあうこともなかったんだけど?」
ロットドラゴンは瓦礫に囲まれた僕達には気付いていないようで、先ほどの女の子が張った光の盾を壊そうと、何度も骨の爪を振り下ろしている。
「依頼は報告まで終えてこその達成だろう?」
僕の恨みがましい眼差しに、ギルドマスターはそう答えニヤリと笑った。
思わず、大きなため息を吐く。
「お主ら、ボケっとしとらんで早く助けんか!」
軽口を叩く僕達に、痺れを切らした女の子が叫んだ。その時、光の盾が割れて彼女の姿が引き裂かれ幻のように消えた。
そうして迫る爪を、今度は勇者の少年が光り輝く神剣で必死に受け止める。
あの女の子も突然現れたり消えたり忙しいね。
フッと首をすくめて見せたギルドマスターが、ロットドラゴンに突っ込み大剣を振るう。勇者の少年が受け止めている右前脚と反対の、左前脚に直撃した大剣は腐った肉を切り裂き骨を砕く。
「うぉっ!?」
しかし砕けた骨も肉も一瞬で再生し、ギルドマスターは煩わしそうに払われた爪に吹き飛ばさた。
悪いけど、僕は仕事でもないのにあれと戦うなんて勘弁だ。
意識が逸れてる今なら逃げ…いやあの吸血魔族、じゃなくてドッペルゲンガーの男がガッツリこっちを見てるや。何か恨みでも買ったかな?背を向けた途端に後ろからブレスでも喰らわされたら詰みだし、厳しいか。
本当にギルドマスター、よくもこんなことに呼び出してくれたね。
《何をしておるんじゃ、お主もはよせい!》
うわ?!何か脳に直接声が聞こえてきた!気持ち悪っ。
というか手伝えって言われてもなぁ。あんな怪物相手にナイフが効くとは思えないんだけど。
となれば、僕が狙うべきは、あっちか。
両の手にナイフを握り、いつの間にか黒いのっぺらぼうの様な姿から吸血魔族の姿に戻っていた男へ視線を向ける。そしてその頭に向けてナイフを投げた。
それは血の鞭に弾き落とされるが、意識が逸れたその一瞬で、距離を詰め右胸にナイフを振るう。
「舐めるな、私が何度もそんな不意打ちを食らうかっ」
魔法で作り上げた氷の腕にそのナイフも掴み止められるが、膠着状態にはさせない。
想定済みだよ。
手まで氷で覆われる前にナイフを離し、反対の左手に握っていた3本目のナイフで、その脇腹をぐるりと抉っる。
「クソッ、このガキィッ!」
そして足元に落ちている、最初に弾き落とされたナイフを蹴りあげ右手でキャッチする、ように見せた。血の鞭でナイフを絡め取り氷の槍を背後に浮かべた男が、勝利を確信した瞬間。隠し持っていた4本目のナイフで、その目を切りつける。
「一体何本持ってっ!」
腹はフリー、さっき左胸の心臓と首は試したから、今のところ怪しいのは右胸かな。
そのまま返す刀でナイフを右胸に突き刺した。その時、ナイフの先に何かがコツンとぶつかる感覚を感じる。
表情を歪めた男が、焦ったようにその場から飛び退いた。
この男が魔族じゃなくて魔物なら魔核が存在する。そしてその場所は右胸、心臓と対極の場所だね。
放たれた氷の槍を避けるように体勢を低くして、勢いよく飛び出す。距離を詰め、視界を失った男の太腿を切り裂き組み伏せ、周りから見えないよう背中側から、魔核があるであろう場所に拳銃を突きつける。
そしてトリガーに指をかけた瞬間、右から迫る何かに気付き、僕はその場から飛びのいた。直後、僕のいた場所に腐った肉片が飛んでくる。
「ハァハァ、よくやったロットドラゴン」
「惜しかったんだけどなぁ。ギルドマスター、そっちしっかり抑えといてよ」
そう文句を言った先で、ギルドマスターがロットドラゴンに吹き飛ばされ、僕の隣に着地した。
「無茶言うな嬢ちゃん!Sランクの魔物だぞ、多少なりとも攻勢に出て肉を削ってるだけ、褒めてほしいくらいだ」
あの男がロットドラゴンの近くを離れることは、もう無さそうかな?どうしたもんかね。
戦況が振り出しに戻ったそんな時、
「「カルミア!」さん!」
勇者の少年と少女の嬉しそうなそんな声で、僕とギルドマスターも、戦場に現れたその女騎士に気付く。
「坊主とアリシア嬢の反応を見るに、味方か」
「そのようだね」
女騎士もあの少女と一緒に、勇者の少年に助けられてたし、その関係だろうね。
更にその女騎士の奥、数人の冒険者達がこちらへ向かってくるのも見えた。
あの先頭を走る冒険者は、ギルドマスターとは腐れ縁だって話してたおじさんか。
ふむ、ギルドマスターに加えて、あの数の冒険者達がいれば戦況はこちらに傾きそうだね。
でもそんな中で何で、あの男は余裕そうににやけているんだろう?ロットドラゴンの側にいって安心でもしたのか、まだ何か隠し玉を持っているのか。
視線を戻しながらも、僕の聴覚は後ろから近付いているであろう冒険者達の声をわずかに拾っていた。
「…ク…つは敵だ!」
彼らのその叫びを意味を僕が理解した時には、もう手遅れ。確かに戦況は変わった。致命的な方へと。
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