殺し屋だった彼女と領主の館・Ⅱ
放たれた数多の氷の礫全てを、僕は全て避ける事を選択した。1つ1つの氷塊は大きくても、飛んでくるスピードは大したことがない。
礫が止んだ瞬間、大剣を盾に身を守っていたギルドマスターが、すぐに全力踏み込んで距離を詰める。
「何っ?!」
その動きに意表を突かれた吸血魔族(仮)は、手に持つ血で形成された槍で大剣をガードしたが、そのまま壁を突き破り吹き飛ばされた。
凄まじい力だね。並みの人間が相手だったら、今の一撃で終わりだね。僕もあんなの食らったら只じゃ済まないだろう。
というか、今まで魔闘術は使ってなかった感じ?
「調子に、乗るなぁぁぁっ!」
激昂した吸血魔族(仮)が、怒りのままギルドマスターに向けて突っ込んで行く。
傲慢で短気、頭に血が昇ると周りが見えない。魔族って皆そうなのかな?まぁ、こっちとしてはやり易くて良いけど。
気配を消して死角から飛び出し、こちらに気付いていない吸血魔族(仮)の心臓をナイフで貫いた。
「ガッ、このガキっ!」
左から迫る血の槍を避け、続けざまにその首をナイフで切り裂く。
この血の槍は吸血魔族の黒血魔法とやらだと思うけど、あの女吸血魔族とは違って、全然脅威には感じないかな。
というか再生力だけは厄介だけど、この程度ならギルドマスター1人でもどうにかなるでしょ。
後ろに飛び退いて一旦距離を取る。それと同時に、入れ替わるように前に出たギルドマスターが、大剣でその槍ごと胴を叩き斬った。
吸血魔族(仮)が床に崩れ落ちる。
拍子抜けというか、随分と…本当に、ただ弱いだけの吸血魔族だったのかな?
あまりにも呆気ない幕引きに、思わず首を捻る。
「終わりか?これじゃあBランクの魔物と同程度だぞ」
おっとギルドマスター、それフラグってやつじゃないかな?
その言葉に反応するように、吸血魔族(仮)の体から、ドロリと溶けるように色が抜け落ちた。
「壗人族ごときがっ!」
あーあ、やっぱりフラグだったよ。まぁ流石に今ので終わる訳ないか。にしてもなんだか真っ黒な人型のマネキンみたいで、滑稽だね。
ギルドマスターがそれを見て、納得がいったように口角を上げる。
「やはり吸血魔族じゃなかったか。それどころか魔族ですらないとはな」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ、私は魔族だ!誇り高き魔族だぞ!」
真っ黒で表情も何も分からないのに怒り心頭なのが手にとるように分かるね。
「ギルドマスター、あれは魔族じゃないのかい?」
「あぁこいつはドッペルゲンガー、魔物だ。ドッペルゲンガーは人族や魔族を含めた、他の種族に
なるほど。さっきの血の槍は、擬態したことで吸血魔族の魔法を使えるようになってた訳か。
魔族でなく魔物なら、どんなに優れた再生力があろうとも魔核を壊せば終わりだ。
「クソッ、クソッ、クソッ」
体の再生が追い付かず床に倒れたままの、ドッペルゲンガーの男に向けて歩を進める。
その時、ドシンッと館が大きく揺れた。
「ハッ、ハハッ、ハハハハハッ!これで私の勝ちだ」
そして何かに気付いたように、男が突然笑い出す。
一体何が…っ?!
危険を感じ僕がその場から飛び退いた瞬間、天井が崩れ骨の爪が壁を叩き崩した。
崩れた天井と壁から腐肉を纏った骨の竜が姿を現す。
「ロットドラゴン……」
「おいおい、マジかよ。西区にいたんじゃねぇのか?」
ギルドマスターがそれを見て思わず表情を引き攣つらせる。その額には冷や汗が浮かんでいた。
きっと僕の表情も同じように、引き攣っている事だろう。
これはマズッたね、引き際を見誤ったかな…この男自身が弱くとも、ロットドラゴンを操れるのなら話は別だ。油断してたのは僕の方か……
「ロットドラゴンッ?!」
崩れた壁の向こう、館の庭の方から悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
庭では、中年の男性を背負った見覚えのある少年少女がロットドラゴンを前に固まっている。
あれは…勇者の少年と仲間の少女?何でここにいるんだろう。
その時、ロットドラゴンが天を仰いで大きく口を開ける。
「神剣っ、坊主とアリシア嬢を守れ!」
ギルドマスターが、鬼気迫る表情で少年達に向けてそう叫んだ。
「言われなくとも分かっとるわい」
その言葉に反応するように、初めて見る女の子が空中にふわりとその姿を現し、光の大盾のようなものを展開した。
っと、僕も呑気に見てる場合じゃないや!
急いで近くの瓦礫に身を隠した直後、ロットドラゴンが放ったブレスが周囲一帯を凪ぎ払い、館が轟音を響かせ崩れ落ちた。
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