殺し屋だった彼女と街の危機

 集められていた大量の魔物の討伐を終え、焦りを滲ませた表情で街へ急ぐ冒険者達。彼らに付いて、僕も街へと向かう。

 空気はピンと張り詰め、声を発する者はいない。その原因は、


 まぁ間違いなくさっきのロットドラゴンだろうね。あんな空飛ぶ怪物相手じゃ街壁が意味を成すかも分からないし、街には吸血魔族がもう1人いる。


 僕達が他の魔物をほぼ全て討伐出来たのが不幸中の幸いというか…いや、ロットドラゴンに逃げられたのを幸い中の不幸とでも言うべきか。まぁ足止めに戦ってたところで、僕達が全滅なんて可能性だってあった訳だけど。




 僕達が街へ帰還した頃には、陽が完全に沈み夜も更け始めていた。

 しかし夜であるにも関わらず、街は雲に明るい光をに反射させている。


 あの光の感じは、何処で大規模な火事が起こってるね。原因は街に向かったロットドラゴンか、もう片割れの吸血魔族か。はたまたその両方か。


 僕の仕事はもう終わっているし、わざわざ自分から危険に突っ込むようなことはしたくないんだけど。結果を報告するまで果たしてこそ完璧な仕事だし、報酬もまだ貰ってないんだよなぁ。


 そうだね、どんな様子か覗くだけ覗いてみようか。僕が手出ししなくとも、解決する可能性だって十分にある。確認してみて僕の手には負えなそうなら、逃げれば良い。


 街の門を潜り、一直線に冒険者ギルドへと向かう。


 ギルドでは、職員達が慌ただしく動き回っていた。ギルドマスターはまだ不在のようで、何故かクーリさんが指示を出している。


「サブマスター!秘匿指名依頼を受けていた冒険者21名全員無事帰還した」


 サブマスター?!クーリさんってギルドのナンバー2なの?

 やけにギルドマスターと仲良さげだとは思ったけど、何でサブマスターが受付嬢なんてやってるんだか。


 相当切羽詰まっているのか、冒険者の声でクーリさんは初めてこちらに気付いたようだ。


「全員無事で何よりですっ。緊急依頼が発令されました!内容は街の西区に現れたロットドラゴンの討伐。討伐報酬は白金貨1枚」


 火事の原因は、ロットドラゴンの方かぁ。


「緊急依頼ですので、Bランク以上の冒険者は全員参加が義務付けられています。戻って来たばかりで申し訳ありませんが、Bランク以上の方はどうか参加をお願いします」


「謝る必要はないぜ、サブマスター。俺達高ランク冒険者は、こういう時に命を賭けるから、普段多くの場面で優遇されてるんだ。お前らっ、俺達の街を守りに行くぞ!」


「「「おう!」」」


 へぇ、Bランク以上の冒険者はギルドが緊急依頼を出した時、強制参加になるんだ…下手にランクを上げると、逆に不便になりそうだなぁ。


「Cランク以下の冒険者は、西区住民の避難誘導をお願いします。こちらは強制ではありませんが、どうか協力を!」


 避難誘導ねぇ。まぁどうせ西区には様子見に行くつもりだったし、そのくらい手伝ってあげるか。


「あ、フウさん」


 戻って来た冒険者達と一緒にギルドを後にしようとした時、僕だけが何故かクーリさんに呼び止められた。


 なんか嫌な予感がするんだけど……


「なんだい、クーリさん」


「フウさんはギルドマスターから個別に、北区にある領主の館に来て欲しいとの要請が来ています。現在ギルドマスターはそちらにいますので、至急指名依頼の結果に関して報告を、と」


 本当に嫌な予感しかしないなぁっ!

 館にはもう一方の吸血魔族がいるんだよね?ギルドマスター、僕をろくでもない事に巻き込もうとしてないかい? というかこんな緊急時に、何でトップがギルドに不在なのさ。


 面倒事の予感しかしないから心底行きたくない、行きたくないんだけど、結果の報告まで仕事の一部ではある。


 いざとなったら、報告だけ果たしてギルドマスターを囮に逃げてやる……

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