殺し屋だった彼女、教会へ
さて3日後の作戦に向けて、出来ることは全てやっておこう。あの吸血魔族の女も一見した感じ、日中なら殺せそうだとは思うけど、不測の事態はいつでも起こりえる。備えあれば憂いなしって言葉もあるぐらいだしね。
武器のメンテナンス、魔法の鍛錬、あとは、特殊能力についても知っておきたい。ということは、この間後回しにした教会に行ってみる必要があるね。
お、丁度良い所にタンジ少年がいるじゃないか。
「おーい、タンジ少年」
「あ、フウの姉ちゃんじゃん。俺になんか用か?」
なんかこの少年には親近感と言うか、不思議な何かを感じるんだよなぁ。
「実は教会に行きたくてね。案内を頼めるかい?」
「おう任せとけ!教会は街の西側にだから、少し時間かかるぞ」
「…そういえばタンジ少年は随分この街に詳しいけど、どこに住んでるんだい?」
「俺が住んでるのは、これから行く教会の近くだよ。西側の端はスラムになってるんだ…俺の家はそこ」
タンジ少年の声色が少し影を帯びる。
なるほど、スラムに住んでるのか。どおりで……
「奇遇だね、僕もスラムの出身なんだ」
「え、そうなのか?!そっか、フウの姉ちゃんも俺と同じで…なぁ姉ちゃんランク試験でDランクになったんだろ、俺も、スラムに住んでても、頑張れば姉ちゃんくらい強くなれるかな」
別に
「死ぬ気でやればなれるんじゃないかな」
「そっか……」
「ま、結局最後は才能の問題だろうけどね」
「それ言っちゃお終いだよ姉ちゃん!あ、ほら見えて来たぜ。あれが教会だよ」
へぇ、あれが。僕も知ってる地球の某一神教のものと、あまり変わらないんだね。
「助かったよタンジ少年、ほい銅貨3枚だ。またよろしく頼むよ」
「うーん、今日は良いや。代わりにこの教会に寄付してくれよ。教会、よく炊き出しとかしてくれてて俺達にはかけがえない存在なんだ」
タンジ少年はキャッチした銅貨を僕に返そうと、差し出した。
「そっか、でもそれは受け取っておくと良いよ。今僕はちょっとした小金持ちでね、教会にもしっかりと寄付しておくから安心しな」
そう言ってニヤリと笑って見せると、タンジ少年も釣られるように破顔する。
「じゃあ遠慮なく貰っておくぜ、毎度あり!」
タンジ少年は良いね、スラムに住んでるとは思えないくらい生き生きとしている。眩しくて仕方ない。
去っていくタンジ少年の背を見送ってから、振り返り教会の敷地に足を踏み入れる。
じゃあ、神の家にお邪魔しようか。
「こんにちはお譲さん、今日は何の御用でしょうか」
そう言って教会に足を踏み入れた僕を出迎えたのは、修道服を纏った老年の神父だ。
「自分の特殊能力を知りたいんだけど、お願い出来るかい?」
「ほう、主の啓示をお受けになられに来たのですね」
「え、うん、そんなところさ」
主って神様の事だよね。
「では、ご案内致します。ついてきて下さい」
案内された大理石の小さな部屋には、神様を象ったと思われる9つの石像と書見台が置いてあり、更にその上に白紙の紙と黄金のペンが置いてある。
「これは?」
「この場で祈りを捧げるのです。さすればその紙に、主からの啓示が授けられるでしょう。啓示を受けたら紙は持ち帰って頂いて構いません。冒険者ギルドで提示すれば、ギルドカードを追記することも可能ですよ」
あーなるほど。ここで神様に祈ると、あのペンが特殊能力について紙に書いてくれるってことだろうね。
「では失礼いたします。部屋の外で待っていますので、啓示が降りましたらお知らせ下さい」
さて祈るって言ってもな、とりあえずまず形から入ってみようか。
昔何処かで見たことがある、例の一神教の祈りのポーズを思い出し、手を合わせて両膝をつき頭を下げた。
僕の特殊能力が何かを教えて下さい。
体から魔力が抜けていくのを明確に感じた、その時。黄金のペンがフワリと浮くと白紙の紙にスラスラと何かを書き、パタリと倒れる。
へぇ、今のが啓示ってやつかな。ということは紙には…なるほど、これが僕の特殊能力か。面白いね。
その特殊能力に関しての情報が書かれたその紙を仕舞い、部屋を出る。
「啓示は受けられましたか?」
「うん、お陰様でね。自分の特殊能力のことを知れて助かったよ。はいこれ、寄付ね」
そう言って金貨を1枚神父に渡す。神父は一瞬目を見開いて驚くが、すぐに深々と頭を下げた。
「これは、素晴らしいお心遣いをありがとうございます。こちらは清く正しく、教会の運営に使わせて頂くと主に誓いましょう」
「まぁ良い感じに使うと良いよ」
タンジ少年との約束だからね。
さて、じゃあ次はまた図書館に行こうか。闇魔法についても、少しでも理解しておきたい。
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