殺し屋だった彼女による調査・Ⅰ

 吸血魔族とやらの情報は頭に叩き込んだし、毒魔法も何とか最低限毒の生成は出来るようになった。量は大したことないけど、僕は毒そのものを操って戦うつもりなんてないから十分か。


 街を出て、ギルドマスターから渡された地図に描いてある異変が報告されたというポイントから調査を始める。


 この付近は、街から近く魔物もほとんど確認された事が無いにも関わらず、Cランクの魔物であるオークが確認された、と。

 ただ痕跡らしきものは見当たらないなぁ。ここは外れか、次のポイントに行こう。


 次はここか、また随分と街から近いところだね。ここら一帯はスライムやバイレルースターといった弱い魔物達の生息地で初心者冒険者などの訓練場所にもなっていた?そこにゴブリンの群れが現れてEランク冒険者3人が死亡、他多数の負傷者が出たのか。それもつい先日の話なんだね。


 しかし、やはり痕跡は残っていない。


 仕方ない、次のスポットに向かおう。


 そんな風に考えた時だった。


「うおぉぉぉっ」


 森の奥から、そんな叫び声が聞こえてくる。


 女性の声?行ってみようか。


 僕は声のした森の方へと歩を向けた。


 確かここら辺から声がしたような、あそこか。

 声の主はあの女騎士ようだね。周りには、うわ、すごい数の魔物の死体だな。ん?何か彼女、見覚えがあるような……


「こんにちは」


 ナイフを忍ばせながら、その女騎士に声を掛ける。


「ん?君は…冒険者か?」


 彼女は、僕が声を掛けて、初めてこちらに気付いたようだ。しかし驚く様子や、警戒する様子はない。


「そうだよ、僕はフウ。お察しの通り冒険者さ」


「そうか、私はカルミアという。フウ殿はここで何を?」


「うん、依頼で少し調べ物をしていてね。最近ここの近くでゴブリンの群れに新人冒険者を襲われたんだ。本来この辺りにはゴブリンは出ないはずなんだけどね」


 さて、もし彼女が大氾濫の予兆と関りあるならば、少なからず何らかの反応があるはずだけど。

 

「なるほど、そんなことがあったのか。ここは弱い魔物しか出ないと聞いたから、リハビリにはもってこいだと思ったのだがな」


 瞳孔、表情筋、心拍数、呼吸どれにも変化なしか。外れだね。


「はぐれならまだしも、ゴブリンの群れとなると今の私では少々危険か…ご忠告感謝するフウ殿、ではまた何処かで」


 別に忠告したつもりはなかったんだけどなぁ。あ!そうか彼女、例の少年が盗賊から助けた2人の内の1人か。道理で見覚えがあった訳だ。

 妙な偶然だね。


 不思議な気持ちで、去っていく女騎士の後ろ姿を見送って、僕は次のポイントへ移動した。




 ギルドマスターから渡された地図に記されたポイントを全て確認して回ったものの、目ぼしい成果は得られない。


 ただいくつか、違和感がある場所はあった。これは、元々痕跡が残ってなかったり自然に消えたわけじゃなくて、意図的に消されたっぽいね。だとすれば、大氾濫が人為的なものだという話も真実味を帯びてくる。

 というかこれ、ギルドに報告された情報から作られた地図な訳だから、ギルド内に黒幕かそれと通じている者がいる、って可能性もないかい。


 とりあえず、今日は一旦帰ってギルドマスターに報告しようか…いや、そういえば地図には書いてないけど、もう一カ所あったね、大氾濫の予兆らしきものを確認した場所。




 街へ帰る前に最後に訪れたのは、親切なおじさんに荷馬車に乗せてもらいグレイに向かっていた途中、ゴブリンと遭遇したあの場所だ。


 おじさんは、この街道に魔物が出るなんてこと今までなかった、と言ってた。あれも大氾濫の予兆だとすれば辻褄は合う。ゴブリンの死体は森の中に投げ捨てておいたし、知っているのは僕とおじさんだけだ。おじさんが誰かに詳しく報告して、それが黒幕に伝わってたらダメかもしれないけど、何かが残っている可能性はあるはず。 


 確かこの辺りの森の中に…ヒットだ。


 草を掻き分けたそこでは、ゴブリンの死骸に蠅が集っていた。

 鳥にでも肉でも食い漁られたのだろうか、ところどころ肉が抉られたように損傷している。


 つまりこの近くに…やっぱりあった。


 近くの地面には何かを引きずり、えぐれたような跡が街道まで続いていた。


 あの時、ゴブリンは棍棒を持っていた。身の丈に合わない大きさの棍棒だ、必ず引きずった跡は残る。

 つまりこの後を辿っていけば、あのゴブリンが何処から来たのかが分かるはず。


 その跡を辿って、僕は森の奥へ奥へと足を踏み入れた。

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