殺し屋だった彼女、再び図書館へ

 ランク試験から2日後、僕は朝一で王立図書館を訪れていた。


 魔法の中でも僕が扱えるという、毒魔法、創造魔法、闇魔法の3つについて。そして、特殊能力と言うのが一体何なのか。この2つを調べるのが今日の目標だ。


 一昨日のように、本を探しては読んでの繰り返しだと時間のロスが多い。今日は効率良く行こうか。


 調べたい内容に関係がありそうな本を、自身の隣に積み上げておき、片っ端から読みふける。そうして、積み上げた本の内容の確認を終えたのは、7時間程経ってからの事だった。

 効率よく必要な部分だけを読んでいったのが功を制したのか、その7時間で目標にしていた事は大体調べられている。


 毒魔法は自分がを生成し、操る事が出来る魔法だそうだ。毒の量や生成難易度によって消費魔力が変わり、レベルが上がると必要とされる魔力量が減ったり最大生成量が増えるらしい。


 普通なら強力な毒は術者が接種すれば死んじゃうから、弱い毒を大量に生成して戦うような魔法らしいけど…地球でいろんな毒物を試した事がある僕にとっては、正に渡りに船な魔法だね。毒耐性のスキルもあるし、これはかなり使い勝手が良さそうだ。


 対して創造魔法は文字通り魔力を使って物質を造り出す魔法。この魔法は造り出す物の大きさや、複雑さによって消費魔法が変わるのに加えて、造り出す物の構造をしっかりと頭に思い描かないといけないとのこと。


 この魔法だけレベルが少し上がっていることは、拳銃や狙撃銃の銃弾は無意識にこの魔法を使って作っていたんだろうな。戦闘の後やけに疲れた感じがあったのも、もしかしたら体に慣れてなかっただけじゃなくて、魔法を使ったからだったのかもね。


 毒魔法と創造魔法については詳しく調べられたものの、闇魔法に関してのみよく分からなかった。本に書いてある説明がアバウトであり、特に下手に地球での知識を持っている僕にとって、闇という概念自体酷く曖昧なものであったためだ。


 まぁ闇魔法に関しては、追々って感じかな。


 そして最も僕の興味を惹いたのは、特殊能力についてだ。特殊能力は魔法やスキルと違ってこの世界の理から外れた能力のことであるという。


 僕のギルドカードの特殊能力の欄が表示されないのは、それが今まで確認されたことがない能力なためらしい。

 ギルドカードの作成に使われている水晶は、積み上げられた過去の情報からカード保有者に当てはまる能力を検索・刻印する魔道具なため、前例のないものは刻印出来ないそうだ。

 そして前例が無いそれらを知りたい場合は、教会で神様からの掲示を貰う必要がある、と。


 一気に胡散臭くなったなぁ。でも、いるのかもしれないね神様。地球にいた頃だったら絶対に信じなかっただろうけど、他ならぬ僕の身にこんな訳の分からないことが起きているんだから、神様くらいいても不思議じゃない。


 今日はこの辺にしておこう。一昨日のランク試験の結果が出るらしいから、ギルドに行かないとね。




 ギルドに着いてすぐ。


「あ、フウさん。ランク試験の結果についてですか?」


 僕のギルド登録を担当し、ランク試験の会場にも案内をしてくれた例の受付嬢に声を掛けられる。


「うん、今日の昼頃に結果が出ると言ってたからね」


「はい、出ていますよ。フウさんはなんと、Dランクからスタートです。久々の有力新人ですね。やはり私の目に狂いはなかった!」


「そっかー、ありがとね」


「何か、リアクションが薄いですね。Dランクからスタート出来る新人冒険者はけっこう少ないんですよ」


 ふと、戦闘狂のギルドマスターを思い出す。


 あれで試験に落とされてたら溜まったもんじゃないよ……


「ほら、試験官とそこそこ戦えたから」


「まぁ良いです。それではギルドカードの更新をするので、お貸し頂けますか?」


「そういえば、あの光る剣を持ってた少年はどうなったんだい?」


 更新のためにギルドカード渡しながら、なんとなしにそう聞いた瞬間、受付嬢の機嫌が急降下するのが目に見えて分かった。


 え、もしかして僕なんか地雷踏んだ?あの少年と何かあったの?


「フウさんも、あんな鈍感純朴そうなイケメンが好きなんですか?気になるんですか?」


 あ、これ答えによっては凄い面倒なことになりそうな予感が……


「いや、ただあの光る剣、神剣だかなんだかとか言ってたのが気になっただけなんだけど」


 その言葉を聞いて、受付嬢の機嫌は一瞬で元に戻る。


「ですよね、信じてました!そうそう、フウさんも冒険者ですもんね。武器のことは気になりますよね」


 何が「ですよね」なのかは分からないけど地雷は回避出来たみたいだね。良かった。


「そんなフウさんに、この私が神剣についてお教えしましょう!神剣とは、はるか昔大いなる敵に対抗するため戦の女神がその身を犠牲にし、鍛治の神が造り上げた武具の1つです。神具は自我を宿しているなんて伝説もあるんですよ」


 武器が自我をねぇ。もしその伝説とやらが本当だとすれば、あの少年の不自然な動きは……


「あ、ギルドカードの更新終わりましたよ。これでフウさんも本格的に冒険者として活動スタートですね!これからも何かあったら気がねなく、本当に気がねなく、私クーリにご相談下さい」


 あ、この人クーリさんって名前なんだ。そういや聞いてなかったな。


「では良い冒険者ライフを!と言いたいところなのですが、ギルドマスターがお話があるそうなのでお時間頂けますか?」


 クーリさんが申し訳なさそうに、そう尋ねてくる。


 これから教会とやらに行ってみようかと思ってたんだけど…まぁ別に急ぐ訳でもないし良いか。


「うん、良いよ」


「では、2階の応対室にご案内します」

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