勇者になった彼、ギルドにて

 翌日の朝、俺とリアは冒険者ギルドを訪ねていた。ギルドマスターと会って、味方に付いて貰うためだ。


「すみません、ギルドマスターは今忙しくて個別の対応は出来ないんです」


「急用なんです。そこをなんとか出来ないでしょうか?」


「申し訳ありませんが……」


 リアが気落ちした様子で、ギルドの酒場で待っていた俺のところに戻ってくる。


「ダメそうです、マコト。私の正体が明かせればギルドマスターにもすぐに話が通ると思うのですが」


 ストラストさんはギルドマスターは信頼出来るって言ってたけど、逆にそれ以外に信じれる人は少ないってことだよな。


「それはやめておこう、今はとにかく慎重になった方が良いだろうから」


「そうですね。ですがそうなると、もう取れる手段が……」


「なんとかしてギルドマスターに会えれば良いんだけどね」


 2人の間に沈黙が訪れる。


「とりあえず今日はギルド登録だけ済ませて、宿にもどりましょうか」


 もう一度リアが俺と共に受付を訪れると、受付嬢は何処かショックでも受けたかのような顔をする。しかしそれも一瞬のこと、表情はすぐに取り繕われた。


「すみません。何度来ていただいても、今ギルドマスターは対応出来かねないんです」


「あ、いえそうじゃなくて、私と彼のギルド登録をお願いしたいなと……」


 今度は、え、まだギルドに登録してなかったの?って顔だなこれ。


「…そうでしたか、すみません。新規のギルド登録は1人につき、鉄貨1枚が必要となります」


「はい、こちらでお願いします」


 リアが銀貨1枚を出し、お釣りとして鉄貨8枚を受け取った。


「では名前と年齢の記入をお願いします。代筆は必要ですか?」


「私は代筆は結構です」


 そういや今更だけど、俺なんでこっちの言葉理解出来てるんだろう?


(ラーヴァ、なんで俺がこの世界で何の問題もなくコミュニケーション取れてるのか分かる?)


(迷い人とは皆そういうものなのじゃ、何故かは分からぬがな。ただ文字は書けんと思うぞ。皆そうじゃった)


(そんな適当な……)


(仕方ないじゃろう。お主らが通って来ているであろう神々の領域に何か仕組みがあるのじゃろうが、あそこのことは儂にも分からん)


 まぁ、とにかく俺にはこの世界の文字は書けないってことか。会話は出来るし、読むことも出来るのに、書くことだけ無理ってのも不思議な話だけどな。


「俺は代筆お願いします」


 そう受付嬢に記入用紙を渡そうとした時、隣のリアに止められる。


「いえ、マコトの分も私が書くから大丈夫ですよ。ね」


 耳元でリアが慎重にでしょう?と囁く。確かにそうは言ったけど、このくらいなら大丈夫だと…いやギルド内にもけっこう人いるし、あまり大声で自分の情報さらすこともないか。


「じゃあリアに頼もうかな」


 そんな俺達のやり取りを見ていた受付嬢が露骨に表情を歪めた。


「チッ、見せつけやがって」


 今、凄い不機嫌そうに何か言わなかった?あとギルド中からも厳しい視線をいくつも感じるんだけど。というか、


「あの、舌打ちしました?」


「いや、全く。気のせいでは。そんなことよりお2人はランク試験はお受けになりますか?ランク試験でしたら、ギルドマスターも確実にいらっしゃいますよ」


 いや絶対してたよね舌打ち。完全に話反らしたよね、あと、さりげなく重要なこと言わなかったこの人?


「そのランク試験はいつ行われるので?」


 リアが俺に代わりそう訪ねると、受付嬢は満面の笑みで答える。


「この後すぐです。ギルドマスターはその準備で手が離せないんですよ」


 なるほど、この後すぐか。この後すぐ?!試験なんだよな、準備も勉強も何もしてないのに受けられるものなの、そのランク試験って?


「あの、ランク試験って具体的にはどんなものなんですか?」


 マコトの問いに受付嬢は面倒くさそうに「ハァ」とため息を吐くと、ランク試験の説明を始める。


 露骨にため息吐かれたんだけど…なんかリアと俺で対応全然違くない?


「ランク試験は登録したばかりの新人冒険者が、どの程度戦えるのかを測る試験です。1人1人やってはいられないので毎月1回行っていて、この後今月分のランク試験があります。そこでの結果によっては、EランクやDランクに認定される可能性もあるので、新人の冒険者はこぞって受けるんですよ」


 なるほど。高校に入る時のクラス分けテストみたいなもんか。

 どちらにせよギルドマスターがそこにいるなら、受けざるを得ないよな。


「ランク試験受けます。リアはどうする?」


「私はまだ戦える自信はないので止めておきます」


 リアはそう断りながら、ギルド登録の記入用紙を受付嬢に渡した。


「ではこの水晶に触れて下さい。はい、これで登録はギルドへの登録は完了です。」


 受付嬢が席を立ったところで、リアはマコトに小さな声で話しかけた。


「試験がどの様に行われるか分からない以上、確実にギルドマスターに話す機会があるかは不明です。私はランク試験の会場の入り口で待っています。もしマコトがギルドマスターと接触出来なくても、入り口で張っていれば会えるはずですから」


 ギルドカードを持って受付嬢が戻って来る。


「では、ランク試験の行われる訓練所にご案内します。着いてきて下さい。ハァ」


 また露骨に面倒くさそうな顔してるなこの人……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る