勇者になった彼も街へ向かう
怪我が完治していないカルミアさんに代わって気を失った少女を背負い、俺はこの先のグレイという街へ向かっていた。
「カルミアさん、この女の子はいったい?」
「お嬢様はこの辺りの地域を治めるクレア伯爵の次女、アリシア・クレア様だ」
高貴な人だとは思っていたけど、領主のお姫様だったのか。そう考えたら、背に掛かる重みが増すような気がするな。
「昨日の明け方に突然、王都へ向かうと言って馬車をお出しになって…あまりの様子に私達護衛の騎士もお止め出来ず、少人数で王都に向かうことになったのだ」
「領主の伯爵様には連絡をしたんですか?」
「いや、それがお嬢様が父には絶対に連絡をしないでの一点張りで。あ、あれが街の外壁だマコト殿!」
緩やかにカーブした街道の先に、巨大な壁が見えてきた。
(マコトよ、あの街の北側から邪悪な魔力を感じる。街に入ったからと言ってすぐに何かがあるとは思わぬが、覚えておくのじゃぞ)
(分かった。ありがとうラーヴァ、気を付けるよ)
(うむ、素直でよろしい)
「どうかしたのだ、マコト殿?」
「いや、なんでもないですよ。それよりカルミアさん、街に着いてからなんですが」
「申し訳ないのだが、街に着いたらまずは宿をとっても良いだろうか。お嬢様が目を覚ますのを待ちたいのだ。街の最北にある館までは距離がある」
最北?……
「それにお嬢様が何故、急に街を出るなんてことをしたのか聞いておきたい」
「そうですね、俺もそれが良いと思います」
ラ―ヴァは邪悪な魔力を、街の北から感じていると言っていた。そして、街の最北にある館から突然に飛び出した伯爵家の次女。関係がないとは思えないな。
とにかくこの子が目を覚ましたら話を聞かないと。
(マコト、もう少し先に行ったところに魔物がおるぞ。これは、ゴブリンじゃな)
(ゴブリン?ファンタジーの定番のあの!)
ファンタジーには定番のゴブリンという存在に、少し心が躍る。そんな俺の気持ちが表れていたのだろう。
(何をワクワクしておる、この馬鹿者!ゴブリンといえど油断するものではない。いくら1匹が弱くても徒党を組んだゴブリンに、強者が殺されることもあるんじゃぞ)
そう、ラーヴァに一喝される。
曰く、ゴブリンは魔物としては知能が高く、武器や道具を使って群れで連携して人を襲うらしい。1匹の力は弱くとも決して侮れない存在だと。
(わ、悪かったよ。なんというか定番中の定番だったから)
(大体ゴブリンも進化した上位種となれば、それなりに強いのじゃぞ。それをお主は……)
(ごめんって、反省するよ)
(全く…先を急ぐのじゃろう。儂が追い払っておこう。少し魔力を貰うぞ)
ラーヴァはそう言うと、聖域と呼ばれる結界のようなものを広げた。
とはいえ聖域は魔に属す者のみを対象としているため、あまり強力なものでなければ人にとっては「あれ?なんとなく空気綺麗になった?」くらいの変化しか感じ取れないものらしいが。
カルミアさんもゴブリンには気付いていないようで、念話でラ―ヴァと会話をしている俺を見て、怪訝そうな表情を浮かべていた。
街の入り口の門。カルミアさんが門番の兵士に、領主直属の騎士の証を見せる。
「これは騎士様、任務お疲れ様です。そちらの方々は?」
兵士は俺と、背中のローブで顔を隠したアリシアさんに目を向けた。
「彼は任務の協力者だ。任務中に仲間が負傷してな、急いでいるんだ」
「何と、どうぞお通りください!お仲間さんのご無事を祈っています」
そのボロボロの鎧も相まってカルミアさんの話をすっかり信じ込んだ兵士は、慌てて俺達を通し敬礼をする。
仕方ないとはいえ、人の良さそうな兵士を騙すのは罪悪感が沸いてくるな。にしても随分と警備が甘い気が、いやそれだけカルミアさんが信頼されているのか。
問題なく街には入れた…あとは宿だけど。
「マコト殿、宿には心当たりがある。退役した仲間が営んでいる宿屋が街の西の外れに」
「分かりました。そこに向かいましょう」
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