勇者になった彼とテンプレ

「マコトよ、これから名乗る時は名字は省いた方が良いぞ。この世界で名字を持っているのは貴族だけじゃ。変に勘違いされて、余計な問題に巻き込まれる可能性もあるからのう」


「そうなのか。気を付けるよ」


「さて、儂はそろそろ剣の中に戻る。なにせ人に化けるのにもかなりの魔力を消費するのでな、500年前の残り香のような魔力ではもう限界じゃ。これからは頭の中に直接話かけるが、儂の声はお主以外の者には聞こえない。反応する時は念話の方が良いじゃろうな」


 そう言って、ラーヴァは煙のように姿を消した。


「…それで、念話ってどうやるんだ?」


(そうか、お主は魔法が使えないんじゃったな。なに難しいことは何もない。儂に伝わるように念じながら、心の中で話しかければ良い。それで魔法が発動するように、儂がサポートしよう)


(こんな感じか?)


(合格じゃ、聞こえておるぞ)


「でもやっぱり慣れてないから、少し疲れるな。誰もいない時は普通に話すよ。それにしても魔法なんて初めて使った方けど、以外と簡単なものなんだな」


(魔法に必要なのは魔力と想像力、そしてそれぞれの魔法への適正じゃ。儂の使い手になったお主は、基本とされる5つの魔法への適正が最高レベルまで高められておるの)


「へぇ、じゃあこの念話は何属性の魔法なんだ?」


(これは無属性魔法と言われておって誰にでも「キャァァァ……」


 そんな時、風に運ばれるようにして、遠くの方から悲鳴のような声が聞こえて来る。


「何だ?」


(どうやら誰かが襲われてるようじゃな)


「なっ、じゃあ早く助けないと!」


(ふむ、早速儂の出番かの)


 ラーヴァを手に遺跡から飛び出し、悲鳴が聞こえた方に走り出す。すると、さっきまでよりも明らかに体が軽い事に気付いた。


 これもラーヴァの?いや、今はそんな事より襲われている人を早く助けないと。


(悲鳴がしたのは先の街道、かなり距離があるのう、少しお主の魔力を使うぞ)


 ラ―ヴァがそう言ったのと共に、まるで重力や抵抗の一切が無くなったように、更に体が軽くなる。


(さてマコトよ、この先で起きている事態によっては、敵が容赦なくお主の命を狙ってくるじゃろう。人を殺す覚悟は出来ておるか?)


「人を殺す覚悟なんて…そんなものない。でも今危機に晒されてる人がいるっていうなら、助けなきゃいけないだろ!」


 勢いのまま街道に飛び出すと、倒れた馬車の周りを盗賊らしき男達が囲んでいた。

 馬車の隣では盗賊の1人が下卑た笑みを浮かべ、地面に倒れた女騎士を蹴り上げている。馬車からは女の子が引きずり出され、気を失っていた。


(酷いものじゃのう。生きておるのはあの2人だけのようじゃ)


 少し離れたところでは数人の騎士達が倒れ、血が地面にしみ込んでいる。


 クソッ、他の人達は間に合わなかったのかっ。あの2人だけでも、何としても助けないと!


「その子達から離れろ!」


(良いか、お主は儂の刃を奴らに向け振るだけで良い。盗賊に当てる必要はない)


(あぁ、分かった)


 言われたとおりに、盗賊達に向けラーヴァを振るう。その瞬間、光の斬撃が放たれ盗賊が数人纏めて吹き飛ばされた。


 これがラ―ヴァの力か。


(威力はかなり抑えておるからの、死ぬ者は少ないじゃろう)


(…ありがとうラーヴァ)


(こやつらは間違えなく悪人じゃろうて。あまり気負うでないぞ)


 盗賊達が突然現れた俺に驚いて声を上げる。


「な、なんだこのガキ!」「剣からなんか飛びやがった、ヤベェぞ」「ひるむな!誰だか知らねぇが、この人数差だ。囲んでやっちまえ!」


 しかしすぐ、人数差で押し切ってしまえば良いと判断したようだ。


(マコトっ左じゃ!)


 左から飛びかかってきた盗賊に、咄嗟にラーヴァを振るった時、手に嫌な感触が伝わって来た。距離が近かったため、直接斬ってしまったのだろう。

 盗賊が目の前で腹から真っ二つになって倒れる。


 ウッ、今はダメだ、我慢しないと!


 思わず食道を上ってくる吐き気を押さえつけ、ラーヴァを構え直す。


「い、一度アジトに戻るぞ、あいつはヤバい!」


 次々と仲間を薙ぎ払われて行くのに恐れをなした盗賊達が、我先にと森の中へ逃げ出し始めた。


「待て!」


(マコト、深追いはするな。そんなことより)


「いや、あぁ分かってるよ。追いかけるよりこの子達の手当てが先だろ」


 少女も騎士の女性も気を失っているみたいだな。まずは騎士の女性の傷をどうにかしないと。

 

(まだ何者かおるな、左の森の中じゃ)


(なっ、本当かラーヴァ)


(あぁ、かなり薄いが気配を感じる。気を付けよ、狙われておるのかもしれぬ)


「そこにいるのは誰だ!」


 盗賊の仲間か?弓とかを持っていたらまずい、先制してラ―ヴァの光の斬撃を放つべきか……


(気配が消えたのう)


「えっ、気配が消えた?」


(ただの獣だったのかもしれんな)


 ラ―ヴァのその言葉に、俺はホッと胸を撫でおろした。


「驚かせないでくれよ」


(すまんすまん。儂も少し神経質になっておったのじゃ。それより女騎士が目を覚ましたようじゃぞ)


「…盗賊達が倒れている…君がやったのか?」


 ボロボロになった女騎士は、剣を杖にフラフラと立ち上がった。


「はい、盗賊は追い払いました」


「お嬢様は無事か?」


「女の子なら無事です。今は気を失っていますが、怪我はありません」


 俺がそう答えると、彼女は心底安心したような表情を浮かべる。


「ありがとう。本当にありがとう……」


(マコト、この女騎士に治癒の魔法を掛けようと思うのじゃが、お主の魔力を使っても良いか?)


(あぁよろしく頼む)


 その直後、彼女の体を淡い光が包んだ。


(止血と体の内側の傷だけを癒しておいた。外傷はそのままじゃが、深い傷はないから大丈夫じゃろう)


「動けますか?」


「あぁ、不思議と痛みもかなり引いている。君が何かしてくれたのか?」


 ラ―ヴァの事は、むやみやたらに話さない方が良いかな……


「いえ、俺は特に何もしてませんよ」


「そう…か」


「はい俺は何もしてません」


 実際に治したのはラーヴァだから嘘はついてない。治癒の魔法のことなんて良く分からないし。


「俺はマコトって言います」


「私はカルミアという。マコト殿、助けて貰ったうえこんなことを頼むのは申し分ないのだが…どうか街まで同行して貰えないだろうか!」


「良いですよ」


「あぁ分かっている。マコト殿にも予定はあるだろう。助けて貰った身でありながら…えっ?良いですよ?」


「はい、良いですよ。助けるだけ助けておいて、そのまま放っておいたりしません」


(良いだろう?ラーヴァ)


(まったくお主、お人好しじゃのう。まぁ、情報を手に入れる良い機会じゃしな)


「重ね重ね申し分ない。だがあの盗賊達を一蹴したマコト殿が同行してくれるなら安心だ!街に着いたらこのお礼は必ず!」


 勢いで助けて街まで同行することになったけど、良く考えたらこれまんまテンプレだよなぁ。


 こうして俺は、気絶した少女を背負い女騎士と共に街に向かうことになった。

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