勇者になった彼と神剣

 勇者として異世界に転生したはずの俺は森の中、遺跡の前で目を覚ました。


 ここは何処だ?何でこんな森の中に…いや、理由は分かっている。神と名乗るあいつがミスをしたと最後に呟いていた。


「あの自称神、いつか絶対に殴る」


 俺がそんな風に強く決意を固めていたそんな時、誰かの声が頭の中に響く。


(ここに人が来るとは、珍しいこともあるものじゃのう)


「えっ、誰!?」


 キョロキョロと周りを見回すが、何処にも人影は見当たらない。


(周りを見たって儂はおらんぞ、念話を使っておるからの。儂がいるのはそこの遺跡の中じゃ。入ってみれば分かるじゃろう)


 遺跡の中と言われても、今にも崩れそうだし何がいるかも分からないよな。というかこの声が何者なのかも分からないし、入らないという選択も……


(ほら何をしとるんじゃ、はよ入れ)


「その前にまず教えてくれ。あんたは誰なんだ?」


(そんなもん見れば分かることじゃ。大体お主この世界の者ではないと見える、今はとにかく情報が必要じゃろう?)


 確かにその通りだ。この声の主が俺に危害を加えるつもりなら、わざわざ俺が意識を取り戻すまで待っている意味はないか。俺がこの世界の人間じゃないってことを知っているのも気になるし……


 俺は恐る恐る遺跡に足を踏み入れた。


 遺跡の中、その一番奥にある台座には、崩れかけの遺跡には似合わない、きらびやかで美しい剣が1本刺さっている。崩れた天井から光が差し込み、薄暗い遺跡の中でその一角だけが神秘的な雰囲気を漂わせていた。


「ほう、お主が迷い人か。異世界の人間というのも、この世界の人間と何もかわりはしないのじゃな」


「うわっ?!」


 剣に見惚れていた俺は、すぐ隣から突然聞こえてきた声に驚く。そこにはいつの間にか、白いワンピースのような服を着た少女が立っていた。


 少女はまだ幼いという表現が当てはまるような容姿でありながら、どこか妖艶な美しさを纏っている。


「さっき俺に話しかけてきたのは君か?」


「そうじゃ。急に大きな魔力反応があったと思ったら、急にお主が現れての。あれほどの魔力を必要とする魔法はただの転移魔法ではない。そしてお主のその独特な服を儂は昔見たことがあっての。異世界の者だと思ったのじゃが、合っとるかの?」


「あぁその通りだよ。俺は神を名乗るやつにこの世界に送り込まれた、勇者らしい」


 俺の言葉に、少女は楽しそうな嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ほう、ただの迷い人ではなく勇者か!これはまた僥倖」


「その迷い人っていうのは異世界人の名称かなんかなのか?一応俺には、本納ほんのうまことって名前があるんだけど……」


「ふむそうか、お主ホンノーという名なのか」


「いや、名前はマコトのほうだけど」


「なんじゃ分かりにくいのう、どっちだって良いじゃろうそんなもの。それでマコトよ。お主、儂の使い手となるつもりはないかの?」


「使い手?何言ってるんだ?というか俺はまだ君が誰なのかも聞いてないんだけど……」


「あぁ、自己紹介がまだじゃったの。儂の名は神剣ラーヴァテイン、そこに刺さっている剣そのものじゃよ」


 あぁ確かにあるよな。勇者が使う武器とかに意思があってそれが女性って話。でもなんでよりによって、幼い少女なんだよ。なんかもう少しこう、大人な美女とか、そういう……


「お主、何か儂を見て失礼なことを考えてはいまいか?」


「い、いやいやまさか」


 その少女、神剣ラーヴァテインがジトっとした目でこちらを睨んだ。


 この子、剣だという癖に察しが良いな。

 というか神剣の使い手って、それこそ、もう勇者の責務から逃げられなくなる気がする。まだ、あの自称神の話に納得した訳じゃないんだが。


「儂の使い手となれば、それだけである程度戦うことが出来る。魔物が溢れるこの世界で生き残るためにも、悪い選択肢ではないと思うぞ」


「えっ、やっぱり魔物とかいるの?」


「そりゃあ魔物くらいいるに決まっておろう。まぁこの森にはそんな強力な奴は出ないが、見たところお主には武器と呼べる武器もなさそうじゃしなぁ。迷い人なら魔法も使えんのではないか?そんなんじゃすぐに魔物のエサじゃろうな」


 …あの自称神絶対殴る。何があっても殴る。


「是非ラーヴァテインさんの使い手にならせて下さい」


 俺はすぐに掌を返し、素早くラーヴァテインに頭を下げた。


 せっかく異世界に転生したのに、あんな自称神の失敗で、すぐに死ぬなんて溜まったもんじゃない。


「素直でよろしい。呼び方はラーヴァで良いぞ。さて早速儂を台座から引き抜くのじゃ」


「それって資格がないと抜けないとかじゃないのか?」


「儂が認めれば抜けるようになっておるぞ。いやぁもう五百年ほどずっとここにいてのう、暇で仕方なかったのじゃよ。もう、ここから動けるのであれば使い手なんぞ誰でも良いわ」


「さいですか……」


 ラーヴァに言われるまま、台座の剣の柄を持ち引っ張る。剣は何の抵抗もなく台座からするりと抜けた。


「あれ、軽い?」


 剣ってこんなに軽いものなのか?いや、神剣って言うくらいだしラーヴァが特別とか……


「そりゃそうじゃ。儂がお主を使い手と認めたのじゃからな」


「そういうものなのか。これからよろしくな、ラーヴァ」


「よろしく頼むぞ、我が新たな使い手マコトよ」

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