殺し屋だった彼女、結局全滅させる

 もう欲しい物は手に入れたし、このアジトに用はない。洞窟の入り口へ戻るため、僕は来た道を引き返していた。しかし、さっきまでと違い、洞窟内はそこら中に盗賊がいて、僕は思うように進めずにいる。


 妙に騒がしいし、何かあったのかな?


「…い、大変だっ。見張りをしてたバリブの奴が殺されたらしい!」


「は?誰にだよ」


「そんな事俺が知るか!とにかく誰かにこのアジトが見つかった可能性があるっ」


 あ…そういや見張りの男の死体、そのままにしてたね。仕事で暗殺した時は基本殺して終わり、で良かったから…いや、それは言い訳かな。こんな凡ミスをするなんて、どうも勘が鈍ってる。


 へこむなぁと、思わずため息を吐いた。


 仕方ない。とりあえず、こちらに向かって来てる、目の前の2人をどうにかしないとね。


「どうするんだよ!お頭もまだ帰ってき、カハッ」


 人の目を欺くのに暗がりは便利だ。素早く男達の死角に回って、まず1人首を切る。


「な、お前誰っムグッ…ガッ」


 そして、もう1人の口を塞いで、頚椎を捻り折った。


 うーん、やっぱり動きにも違和感ある。身長や重心が変わったからだろうけど。少しずつ慣らしてかないと……


 岩陰に身を隠しながら、更に洞窟の入り口に向けて来た道を戻る。

 目の前で盗賊が1人キョロキョロと周りを見て何かを探していた。そして後ろからも複数人の足音が近付いているのを、僕の聴覚は捉えている。


 これは、もうバレる云々言ってちまちまと、避けられなさそうな敵だけを狩ってる場合じゃないかな。もし洞窟の入り口に盗賊達が集まっていたら、挟まれて面倒なことになる。先手必勝で会った奴らから全員殺していこう。


 皆殺し。一度そう決めてしまえば、出し惜しみをする必要はもうない。拳銃を手に、まず目の前の盗賊に狙いを定める。


「やぁ、こんにちは」


「?お前誰っ…」


 突然目の前に現れ呑気に声を掛けてきた僕に、その男は思考が一瞬止まったのだろう。タァンッと洞窟に響く発砲音と共に、顎から脳天を撃ち抜かれた盗賊は口から血を吹いて崩れ落ちる。

 そしてすぐ、洞窟の中にバタバタと慌ただしい足音が響き出した。


 さっそく集まってきたね。手っ取り早く終わらせよう。


 すぐに踵を返し暗がりから飛び出して、盗賊の首をすれ違いざまにナイフで掻き切る。返す刀でその斜め後ろにいた仲間の心臓を一突き。そこで、やっと僕を敵と認識したのか、ダンビラを振りかぶって踏み込んで来た男の頭を、拳銃で撃ち抜く。


「気付くのが遅いよ」




 それから数十分後。洞窟の地面や壁は真っ赤に染まり、盗賊達の死体から流れ出した血がまるで小さな川のように洞窟の奥へ伸びていた。


 やっぱり、銃弾装填しなくても弾が発砲されるなぁ、この銃。まぁ今のところデメリットも無い、というかメリットしか無いから良いんだけど。ナイフだけだったら、こう簡単にはいかなかっただろうし。


 そんな事を考えて銃を眺めていると、思わず頬が緩む。傍から見たら、血まみれで銃を見ながら笑う僕は、控えめに言ってホラーだろう。


 まぁ、見てる人なんていないし、気にする必要も無いよね。

 それにしても、何だかドッと疲れたなぁ。大して苦労したわけでも無いのに何でだろう。


 1度大きく深呼吸をする。鉄の錆びたような匂いが鼻をついた。


 そんな時、洞窟の入り口から誰かが駆け入ってくる足音が聞こえる。そしてすぐ、洞窟内に怒号のような声が響いた。


「おいっ、てめぇらヤベェぞ、アジトの場所がバレてやがった!討伐隊がすぐそこまで来てやがる。急いでずらかる準備をっ?!お、おい、こりゃあどうなってやがる。まさか、先行隊でもいたってのかっ!」


 大柄なその男は倒れ伏す盗賊達の骸を見て目を剥き、更にこちらを見て困惑の表情を浮かべた。

 

 あぁ、盗賊のリーダーとやらか。そういや盗賊達が今はお頭がいない、って話してたね。そんなことより軍が来てるだって?何か面倒な気がするなぁ。


 大量の返り血、手にした拳銃とナイフ、そこで初めて男は、目の前の僕がこの惨状を引き起こした可能性に行きついたのだろう。


「女?まさかテメェが俺の部下共を!おいっ、殺されたくなきゃ何があったか答えッ」


 どうしてこう、この盗賊達は皆、頭の回転が遅いんだろうか。


「今はちょっと疲れてるんだ。あまり大きな声で騒がないでくれるかい」


 銃の発砲音が洞窟に響き、僕に掴みかかろうとしていた盗賊のお頭は、何が起きたのか分からぬまま物言わぬ屍となる。痛みも苦しみも感じずに逝けたのだから、幸せだろう。


 討伐隊とやらと鉢合わせしないために、少し遠回りをして街道まで戻るべきかなぁ……

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