殺し屋だった彼女のアジト訪問

「ここから北へ真っ直ぐ歩いていくと、突き当りに崖がある!その崖下にある洞窟が俺達のアジトだ」


「なるほどね。いやぁ助かったよ」


 最初からそうやって教えてくれれば、他の人達もあんなに痛い思いをしながら死なずに済んだのになぁ。


「ほ、ほら、正直に話したんだから、もう良いだろう!」


「ん、あぁ。そうだね」


 確かに彼には、アジトを教えてくれたお礼をしないといけない。


 僕は目の前の盗賊の心臓を、ナイフで一突きした。


「すぐに楽にしてあげるよ」


「助けっ?!何で、話がち…が……」


「え?君、さっき"もう殺してくれ"って言ってたよね?その願いを叶えてあげようと思ったんだけど。って、もう聞こえてないか」


 さて、じゃあさっそく盗賊達のアジト訪問と行こう。




 月が昇り夜の帳が降りた頃。僕は盗賊のアジトだという洞窟のすぐ側、木の枝葉の陰に潜んで様子を伺っていた。

 洞窟の入り口は狭く、到底奥に広がっているようには見えない。


 見張りは…木の幹の影に1人。銃を使ったら音でバレるよなぁ。仕方ない、ナイフで済ませるとしようか。


 拳銃に触れていた手を離し、代わりにナイフを持つ。そして見張りに立つ男の死角を縫い、音を立てないように木の上を移動。男の背後に飛び降り、


「なっ誰っ、カハッ」


 こちらを振り向いた首を、掻き切った。首を切ってしまえば、叫ぶことも出来ないだろうから。


 外から見る限り、洞窟の中に灯りがあるようには見えない。少しでも中に入れば真っ暗だろう。だが、僕にとってそれは何の支障にもならない。


 暗闇での隠密行動は、僕のお家芸だ。


 洞窟は地下に向かって広がっている。入り口は狭く、一見すれば奥へと続いているとは思えない。確かにここなら、アジトにはうってつけだろう。


 背を屈め洞窟に足を踏み入れる。目を凝らし、気配を消して、外から僅かに差し込む月明かりだけを頼りに進んで行くと、奥の曲がり角から光が漏れているのが見えた。


「…こないだ捕まえてきた女めっちゃ綺麗だったよな」


「確かに、プライドも高そうな女だったな。屈服させて無理やりやりてぇくらいだぜ」


「ギャハハハそれは良い、牢に捕まえてある女を連れてこいよ。奴隷商に売る前に味見しておこうじゃねぇか。気絶するまでブチ犯してやる。俺はケツを貰うぜ」


「お前ら、商品の価値を下げたらお頭にぶちギレられるぞ」


「バレなきゃ良いんだよ、どうせお頭は明日まで帰って来ねぇんだ。お前らが言わなきゃバレないだろ、一緒に楽しもうぜ」


「そうだ、それにあんだけ綺麗なんだ、一度や二度遊んだくらいじゃ価値も大して変わらねぇよ」


「まぁ確かにそれもそうか。よしちょっと待ってろ今連れてくる」


 そんな話が聞こえてきてすぐ、盗賊の1人がランタンを手に、僕が隠れ息を潜める岩陰の前を通り過ぎた。


 少し後をつけてみようか。


 その盗賊の視界に入らないギリギリの距離を開け、足音を頼りに付いて行く。そうしてしばらく後をつけていると、洞窟の最深部らしき場所にたどり着いた。そこには大きな南京錠のかかった扉が1つあり、盗賊がその錠の鍵を開けて中に入る。


 部屋を覗くと、中には牢が並んでおり、首輪を付けられた女性達が閉じ込められている。彼女らが盗賊達の商品、奴隷なのだろう。


 しかしそんな事よりも僕の目を引いたのは、薄明りに照らされた部屋の奥だ。そこには何かが詰まった袋、積み上げられた箱、服や布、宝箱など様々な強奪物が置いてあった。


 少しでも洞窟の内部を把握したいと思って後を付けて来たんだけど、もしかしていきなり大本命かな?


「ほらっ、来いって言ってんだよ!」


「っ痛い、何するのよ」


 盗賊の男が、首輪と腕輪を付けられた女性の髪を引っ張ってこちらへと歩いて来る。このままであれば真正面からバッタリと遭遇することになるだろう。


 あの盗賊、邪魔だなぁ。このままやり過ごしたら、部屋の扉に鍵かけ直されちゃうだろうし…よし、殺そう。さすがにあの奴隷の女性を殺すのは悪い気がするから、上手く気絶させられると良いんだけど。


 僕は素早く、開いた扉の裏に隠れる。そして盗賊が出て来た瞬間、その口を塞ぎ喉をナイフで一突きした。


「ッ……」


「えっ?!……」


 そしてそのままナイフから手を放し、盗賊の手から離れたランタンをキャッチ。同時に女性に手刀を入れ、気絶させる。

 少し危うさはあったものの、大方理想通りの結果にはなっただろう。


 やっぱりまだ、この体には慣れないなぁ。


 気を取り直し、僕はすぐに盗賊達が溜め込んでいた強奪物の物色を始めた。手前にある袋の山には、金銀鉄銅、様々な硬貨が詰まっている。


 この世界の貨幣価値は分からないけど、損は無いだろうし後で邪魔にならない量を持っていこう。


 そのすぐ後ろに積み上げられた箱の中身は、全て酒のようだ。


 お酒は嫌いじゃないけど、現状持てる物が限られてる中で、持っていく必要はないかな。いや、消毒用に1本だけ貰っておくか。


 そして僕が一番期待していた宝箱は、残念ながら鍵がかけてあった。


 まぁ、普通そうだよねぇ。


 殺した盗賊の持ち物を漁ってみるも、宝箱の鍵らしきものは持っていない。


 針金でもあれば開けられないことはないんだけど。仕方ない、これは諦めよう。


 最後に確認したのは服と布の山だ。まず、見つけた動きやすそうな革鎧レザーアーマーに着替える。

 この世界に来てからずっと着ているスーツ。水源を見つけては洗っていたとはいえ、殺した魔物等の返り血は水洗いでは取れずしみ込んでしまっていた。


 そろそろ変えないと、と思ってたから丁度良いや。


 そして、置いてあった空き袋にスーツを仕舞い、高級そうな服もいくつか放り込む。更に少し小さめの口を縛れる袋に、金貨と銀貨を中心に邪魔にならない量の硬貨を入れて、その部屋は後にする事にした。


 皮鎧、胸がきつい。女になってたことすっかり忘れてたんだけど…不便だなぁ。

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