殺し屋だった彼女、お話をする
この世界で眼を覚ましてから1週間。僕はずっと森を彷徨い、サバイバル生活を続けていた。そう"この世界"である。信じられないことに、というかどちらかと言えば信じたくない事に、ここはどうも地球と言う星では無いようだった。
地球には鳴き声を上げる植物なんていないし、豚面の人型生物なんかもいるはずがない。地球と同じように昼と夜に空で輝いてるあの天体も、僕の知っている太陽と月ではないんだろう。
銃弾を込めていない拳銃と狙撃銃から、何故か銃弾が発砲されるのには助けられた。けどそれも、原理は全く分からない。
本当に、今のところ分からないことだらけだね。
「きゃぁぁぁっ!」
そんな時、人の悲鳴のような声が聞こえてくる。
今の、間違いなく人の声だよね。良かった、森で目を覚ましてからかなり歩いて来たけれど、まだ人骨しか見つけてなかったから、生きた人がいるのか心配だったんだ…人だよね?これでそういう声を出す化け物です、とかだったらショックなんだけど。
僕は声が聞こえた方に進路を変え、歩き出した。
「……よく見りゃ可愛いじゃねぇか、奴隷として高値がつきそうだ」
「こりゃ、ボスも喜ぶぜ」
「俺達に襲われたのが運のつきだったな、ヘヘヘッ」
少し歩いて行った先。森を割るように通っている街道では、1台の馬車が横転し、すぐ脇でボロボロの女騎士がガラの悪い男達と戦っていた。
僕は街道近くの木に上り、枝葉の陰からその様子を観察する。
あ、馬車から女の子が引きずり出された。襲ってる奴らは、見るからに盗賊って様相だね。あの女騎士以外に護衛とかいないのかな?あぁ、あれか。
倒れた馬車から少し離れたところには、多くの騎士達の遺体が転がっていた。
まだ、こちらは気付かれていないようだね。なんか変な黒いもやが蠢いてるし。何だあれ、気持ち悪い。もう少し様子見てみようか。
「貴様ら、アリシア様から手を離せ!」
「うるせぇよ。お前は人の心配をする前に自分の心配をしたらどうだっ」
男達が、女騎士を蹴り上げる。
「ガッ」
「ハッ、こんなに弱くて何が騎士だ。お、こっちの嬢ちゃんも上玉じゃねぇか、眼が覚めたら奴隷にする前に楽しませて貰おうぜ!」
随分と追い詰められてるね。女の子は気を失ってるし女騎士の方はもう瀕死。
とはいえ、別に僕が助けに入る義理もメリットもないか。多分襲ってるやつら盗賊だとは思うんだけど、それも僕の予想でしかないし。それにあの黒いもや、なんか嫌な感じするんだよなぁ。
街道も見つかった訳だし、下手に関わらないのが吉だ。
僕が静かにその場から離れようとした時。
「その子達から離れろ!」
街道を挟んだ反対側の森から、煌びやかな剣を手にした少年が飛び出して来た。
あれ、学生服?なんか持ってる剣はピカピカと光ってるし…この世界にも学生服があるのか、もしくは僕と同じ境遇か。
瞬間、何やらとびきり嫌な予感を感じ、右の木に飛び移る。その直後、少年が振り切った剣から光の斬撃が放たれ、つい先程まで僕がいた隣の木を切り裂いた。
危っないっ!なんだあの少年、危険にもほどがあるよ。
「な、なんだこのガキ!」「剣からなんか飛びやがった、ヤベェぞ」「怯むな!誰だか知らねぇが、この人数差だ。囲んでやっちまえ!」
少年が光る剣を振るたび、周りを取り囲んでいた盗賊達は次々と吹き飛ばされていく。
「い、一度アジトに戻るぞ、こいつはヤバい!」
敵わないと判断した盗賊達が、散り散りに森の中に逃げ出し始めた。
「待て!…いや、あぁ分かってるよ。追いかけるよりこの子達の手当てが先だろ」
盗賊を追い払った少年は、独り言のようにブツブツと何かを喋っている。
誰と喋ってるんだろう。周りには誰もいないけど。なんか変な子だなぁ。さっきも剣を振ってるというより、剣に振り回されてるって感じだったし。
少年の視線がピタリとこちらに向く。一瞬、はっきりと目が合うのが分かった。
「そこにいるのは誰だ!」
バレた?!嘘だろう。
気配を完全に遮断し、一旦木々の枝を伝って森の中へ下がる。
「えっ、気配が消えた?気のせいかもしれない?驚かせないでくれよ」
よく聞こえないが仕方ない、万が一にもあんな訳の分からない少年と敵対するのはごめんだからね。
しばらくすると少年は女騎士と何かを話した後、気絶している少女を背負い、街道を歩いて行った。
あの盗賊っぽい男達まだ数人生きてる。そうだ、もし彼らが盗賊ならアジトを聞き出せば、いろいろと手に入れられるかも…うん、そうしよう。
そして僕は街道から少し外れた森の中で、盗賊と"お話"をしていた。
「がぁぁぁ、もうやめで、ごろじで」
まさか盗賊達がここまで強情だとはね。もっとこう生き汚く、仲間の事なんて簡単に売るかなぁと思ってたんだけど。失礼な考えだったかな。
僕の周りには少し前までは息があったはずの盗賊達が、苦悶の表情で物言わぬ骸となり転がっている。
いや、僕のやり方も悪かったかもしれない。作業気分で淡々と"お話"をしていたから。
一度初心に戻った僕は、とびきりの笑顔で目の前の彼と相対した。交渉の基本は笑顔である。
「うがぁぁぁッ!」
あっ、力加減間違えて骨折っちゃった
「そろそろアジトの場所教えてくれないかな。君以外皆殺しちゃったから、もう君にしか聞けないんだ。頼むよ。ねっ」
血まみれのナイフを持ったまま、両手を合わせ頭を下げる。下手に出るのも交渉の基本だろう。
「分かっだ、教える!教えるがらもう止めでぐれ!」
「おっ、やっとその気になってくれたか!じゃあさっそく教えてくれるかい?」
いやぁ中々口が固かったな。彼の前にお話した人達合わせたら、3時間近く話していたよ。とはいえこれで大量のお宝が手に入る、といいなぁ。
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