殺し屋だった彼女の自由気儘な異世界譚
belu
序章
殺し屋の彼、異世界にてTSする
涼しげな風が吹き抜ける。見渡せば周りは一面、鬱蒼とした新緑。僕はスーツ姿で、見たこともない森の中に立ち尽くしていた。
おかしいな。僕は1つ目の仕事を終えて、拠点のベッドで仮眠についたはずだ。間違えない。そして仮眠から起きたら見知らぬ森に横たわっていた、と。
更に、昨日まで10年以上を共に過ごしてきた股のブツが消えて、見慣れない脂肪の塊が胸に2つ。身長も縮んでる気がする…いったい何だっていうのさ。
「全くもって、訳が分からない。そもそも、ここは何処なんだろう?」
キョロキョロとあたりを見回すが、目に入るのは木々のみ。これと言って現在地が分かるようなものは存在しない。
ふと、近くの地面に、普段から愛用している仕事道具が散らばっていることに気付いた。それを拾いながら、僕は事態を把握するため必死に頭を働かせる。
復讐?恨まれる覚えは…たくさんあるけれど。性転換させて森に放置する復讐って、何だそれという話だ。どんな特殊嗜好をしてたら、そんな事になるというのか。
そもそも、寝てる間に部屋に誰かが侵入したら、さすがに気づいて起きるはず。そうでなければ、僕はとっくの昔に死んでいる。
となると何かの実験に巻き込まれたとか…それはさすがに妄想が過ぎるかな?
あとは夢って可能性もあるけど、産まれてこのかた夢なんて見たことないし…痛覚もある。
落ちていた仕事道具はこれで全部のようだ。役に立ちそうな物は、サバイバルナイフが6本にライター1個、
仮眠の時、すぐ近くに置いておいた物だけが、ここにあるって事かな…何で?
うん、分からない事をこれ以上考えたって無駄だ。一旦切り替えよう。これから何をするにしろ、まずは水の確保をが必要だね。
動物が通ったであろう獣道を辿って、森の中を1時間ほど真っ直ぐ歩いて行く。その先で小さな川に突き当たった。
湖や池などの溜まった水と違い、流水は毒や寄生虫、ウイルスなどの危険性が低い。水も透き通っており綺麗に見える。
ふと川のほとりの小さなたまりをのぞき込むと、水面に映っていたのは少女の顔だった。黒に近い紺色のショートカットに少し切れ長な三白眼、容姿はかなり整っている方だろう。
これが今の僕ねぇ。この姿もしかして…まぁ、良いか。
次は寝床の確保だ。気温や生えてる木の種類を見る限り、ここは亜熱帯の森っぽいね。毒蛇に気を付ければ木の上が一番安全かな。
近くの大木の中ほどに、蔓と枝でハンモックを作り上げる。即席にしては、我ながらよくできた方だろう。そしてハンモックの上に乗って強度を確認していた時、ふと何かが近付いてくる気配を感じた。
木の上にいるのは好都合だね。何がいてもここからなら一方的に狙い打ち出来る。
狙撃銃を構えスコープを覗くと、木と木の間に動く茶色い巨体が見えた。トリガーに掛けた指をグッと引いた瞬間、ズドンッと重い発砲音が森に響く。銃弾は寸分違わず飛んでいき、巨体の頭と思わしき場所を貫いた。
よし、仕留めた。猪かな?いや随分と大きかったし、熊かもしれないね。
木から降りて、獲物の元へ向かう。
「?…何だこれ。こんな化け物、見たことも聞いたこともないよ」
その先に倒れていたのは、2メートル近くある巨大なカエルだった。
突然変異にしては、さすがに無理があるよね。
もしかしたら、ここは地球じゃない星とか…いや、そんな訳はないか。人間を生物が過ごせるような別天体に連れて行くなんてのは、それこそSF小説の話だ。
となると未開の地?
「あれ?もしかして僕、けっこうヤバくないかい」
もしここが未開の地なら、人はいるだろうか。いたとして言葉は通じる?様々な可能性と、最悪の展開が頭をよぎる。
…いや、先のことを考えるのは後にしよう。とりあえずは日が暮れる前に、このカエルっぽいのを解体しようか。食べれるときに食べておかないと、次いつ獲物を確保できるか分からないし。確か、カエルの可食部分は後ろ脚だったかな?
乾いた木や葉を集めてライターで火を付け、ナイフで切り離したカエルの足を焼く。
しっかりと火を通したカエルの肉は、鶏の胸肉に近い味だった。そうして食べ終えた頃、森に夜の帳が降り始める。僕は火を消し痕跡を片付け、即席のハンモックへと戻って横になった。
当面の目標は人がいるかの確認、いるならコミュニケーションを取ることだね。
というか僕、まだ仕事残ってたんだけど、不達成になるのかなこれ。死神の名折れだよ全く。
地球では死神と呼ばれ恐れられた殺し屋
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