第61話 甲斐性と葛藤
イサがショックを受けてると、ラナンが続けた。
「どうも収容した時点で意識不明だったらしくて、そのまま精神体保存を行ったと記録には書かれていた。先輩がサルベージした精神体も確かに彼女の一部ではあったみたいね。それの統合作業も行われたみたいね。」
「・・・・・・」
「蘇生の手続きはすでに取らせてる。いまさら会わないなんて選択肢はないわよね?先輩?」
イサとしては懸案事項が解決してほっとした半面、ラナンのこれからの反応のほうが気になっていた。
確かにナミには会いたい。だがいまさら恋人として会えるかと言われると答えはノーでしかない。
「わたしからいえることはまずは受け入れてあげなさい。そのあとどうするかはあなた次第よ。」
受け入れろといわれて正直苦い顔だ。
「おそらく彼女はあなたに会いたかったはずよ。20万年の眠り姫との再会なのだから・・・・。間違っても拒絶しないように。」
ドスドスと太い釘をうたれたようなものだ。
それから数日後、ラナンを説得の上で同行させて休暇を取って、首都星ミネアリア・テラスの蘇生施設へ向かった。
ミネアリア・テラスの個人契約の港にマイシップをいれてから、ラナンとのあいだに会話はない。
自動運転のヴィークルにのりつつ、いったいどんな顔をして会おうかイサは悩んだ。
悩んだが答えは出なかった。
蘇生施設の個室の待合室でまっていると、部屋のブザーがなって、入室を許可すると、黒い髪の彼女が部屋にはいってきた。そしてイサの顔を見るとイサに体ごとぶつかってきた。
「イサ!!」
戸惑いつつも彼女の体を受け止めた。彼女は感極まった様子でイサの口に口づけをする。
その様子をラナンは肩をすくめてみていた。
「イサ!!会いたかった!!」
「俺もだよ・・・・。何年まったか・・・・。」
イサの両目から涙が流れた。
彼女はいままで思いのたけをイサにぶつけてきた。当初戸惑いが多かったイサも昔の感覚がよみがえりそれに感化されていく。ラナンの事も気になったがいまはナミを受け止めることを優先した。
一通り、話を終えると、イサはラナンを呼び、緊張しながらナミにラナンを内縁の妻だと正直に伝えた。
内縁の妻だと言われたナミは一瞬目を見開いたが、口を開いた。
「そっか・・・・800年もたっていたら・・・・そりゃイサも結婚するか・・」
ナミは寂しそうにそういったが、ラナンが首を振る。
「・・・私たちは内縁関係だけど、籍はいれてないのよ。私があなたのために籍はあけておいたの・・・・・。だから、私はあなたの事を邪魔するつもりは一切ないわ。」
邪魔をしないという事をはっきりとラナンは口に出した。
イサは内心引き裂かれるような思いを感じた。いままで700年の間自分を支えてきてくれたのはラナンであり、その事実はかわらないのにそのことを否定されたような気がした。
ナミはその言葉に目を細めた。
「私のために?」
「先輩と私も腐れ縁だからね。だからといってあなたに未練がのこっているのに入籍する気にはならなかったのよ。もともと事件が起こらなければあと二週間であなたたち二人は結婚する予定だったのでしょ?女性にとってその時間が伸びたとしても自分の男であることには変わりないでしょ?」
ナミは少し考えた様子だった。
「・・・・イサ、悪いんだけど、すこし部屋を出てくれる?ラナンさんと色々話さなきゃいけないことが多いみたいだから。」
イサとしてはそういわれれば頷くしかない。
イサが部屋からでて一時間後、部屋のドアが開いて、中にはいるようにナミに呼ばれて中に入る。
「一カ月、私があなたを独占することになったから。」
ナミがさらっとそんなことを言う。
イサとしては戸惑うしかない。ラナンが身を引いたのかと不安になる。
「・・・先輩にもこまったものね。私が先輩を捨てるとおもってるみたいね。」
ラナンの言葉にナミは苦笑いだ。
「過ごした時間の差はおおきいなぁ。」
「大丈夫よ。あなたとの関係は壊れやしないわ。」
「それならいいのだけど・・・。」
それから三カ月後を目途にイサがナミとラナンとの結婚式をあげることを二人から提案された。
「一夫多妻はこの国ではめずらしくもないでしょ?それに子供たちが私が身を引いたら黙ってないでしょうし・・・・悪者されるのは先輩だけど・・・・。」
イサは正直いいのかなと思った。いま二人のどちらかをえらべと言われたらラナンをえらぶ自信はある。ただ、そうなると生き返ったばかりのナミがどうなるかも考えざるを得ない。それにあのころの甘酸っぱい思いも思い出してしまっている。
二人の提案は男に都合がよすぎた。よすぎて正直いいのか判断がつかなかった。
「また、なんだか余計なこと考えてぐるぐるしているみたいね。」
「わぁ・・・・そのへん昔と変わってないなぁ。」
ずいぶんないわれようだと思った。
「夜の間の時間は二人平等にとることも条件になるわよ。まあそれはいいとして、まずはナミの衣服とか住む場所の手配ね。一週間ほどなら休暇とれなくもないから首都の街を散策するというのもわるくないけど?」
「二人の愛の巣におじゃましちゃっていいの?」
「家族になるんだから構わないわよ。それと・・・先輩よびはやめてあげるわ。」
二人でどんどん話が決められていく。イサが口を出す間はないなと思った。
ナミの身元引受にかんして手続きが面倒だという理由もあり、さきにラナンとのあいだをふくめて入籍手続きを取った。それからミネアリア・テラスにある自宅の一室をあけてナミの部屋にした。またラナンの部屋も別に作った。いままでの夫婦部屋はイサひとりでつかうことになった。
これはトラブルを減らすための工夫だとラナンは言っていた。
女性二人で話をきめられた事柄はまず子供をナミとイサの間で作り、その育児をしながらクラヌスで生活するということだった。
育児を終えた後、将来的にはナミも管理官資格をとるつもりらしい。
一週間のあいだナミとイサはミネアリア・テラスの観光地をまわり、ラナンは一人ですることがあるからと、出かけていた。どうも子供たちのところに入籍した報告にいってくれてるのと今回のナミとの入籍についてもあらかじめ説明と説得をしてくれてるらしかった。
三人でクラヌスに帰ると、ラナンの手配で新しい官舎が用意されており、そこで一カ月だけナミと二人霧で過ごすことになっていた。一カ月を過ぎれば、家族用官舎にうつりラナンを加えて三人ですごすことになるそうだ。
結婚式披露宴自体は天の川銀河の惑星クラヌスで行うそうだ。これは仕事の調整が難しいことも関係している。
式場の予約や披露宴会場の確保などはラナンとナミがきめてすすめており、イサが口を出す隙は無かった。招待状についてもすでに関係者に送ったそうだ。ただ、辺境宇宙なのであまり参加者は多くないかもしれない。家族も全員これるわけではないらしいことをイサの妹のカラが零していた。
「ナミが生きてたのはよかったけどさ・・・・なにもよりにもよって天の川銀河で式を開かなくてもと思うんだよね。ミネアリアテラスなら集まりやすかったのにさ。」
イサとしては仕事の都合上あまり天の川銀河をあけるわけにはいかない事情がある。
「ねぇさんは祝電と祝い金で済ますと連絡がきてたよ。」
「あらら・・・・。」
「正直、天の川銀河には戻りたくないそうよ。」
ナロンギデアの大虐殺などの苦い思い出は出身者に深いトラウマをいまだに残している。天の川銀河ときいただけで拒否反応を示す出身者はいまだに多い。姉のハルウェもその一人というわけだ。
そして迎えた結婚式当日、ライニール夫妻やラナンとの子供やその配偶者、孫などが参加してくれた。ラナンの両親も参加してくれた。
管理官の同期の面々も忙しい中、参加してくれた様子だ。
アマテラス銀河連合で結婚式は宗教行事ではなく、国の戸籍管理局の公証官に契約を示す形で結婚式が行われる。
地球と同じで指輪の交換や財産の共有化の宣言なども行われる。
親がすでに死んだ上に精神体も残っていないナミのエスコートをラナンの父親がかってでてくれた。ラナンのほうは母親が男装してエスコートした。
式がおわると今度は披露宴だが、お色直しなども行われ、特に問題らしい問題も起こらず式ならびに披露宴は終わった。
問題だったのは初夜の相手だ。こういう複数との結婚において、初夜は同時に相手にするという暗黙の了解がアマテラス銀河連合の一般にはある。そのため精力剤をのんでまでイサは初夜にそなえるはめになったのだった。
個人行事が終わったころ、ソル太陽系で動きが出てきた。
一部のゲームプレイヤーが月から太陽系を脱出しようとして宇宙警察に拿捕されたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます