第60話 移民船協奏曲
第二十七次元ウケヤック宇宙外縁部・サマルト銀河・ウイツク恒星系。
広大な宇宙を一隻の大きな船が航行していた。戦闘移民艦アマノハバキリの外観は流線形で長く扁平な形をしている。
その様子を発見した宇宙船が何隻かいて、巨大な宇宙船が航行していることと、発している味方識別信号がかなり古いものであることを不審がってウイツク恒星系最大の居住コロニー・レイネットの管制に問い合わせの連絡が入っていた。
レイネットの管制は問い合わせの多さに当初は困惑した。この場所は中央次元宇宙から、天の川銀河方面の辺境次元宇宙に出るための航路にあたり、開拓移民船団の通り道だったので、割と大型移民船団や大型移民船の出入りはある場所だ。
そのうえここは辺境開拓の補給基地として整備されており、アマテラス銀河連合中央行政局が直轄で運営している恒星系だ。
別に珍しいことはないのだが、スケジュールにはその移民船の入港は予約されていなかったので管制官のテリック・レイモンドはすぐに該当船籍を調べ、連絡を入れた。
その返答に応じたのは統括人工知能のクシナダで、二十万年ぶりの帰還で、避難船として天の川銀河ソル太陽系からの避難民の精神体を運搬していると連絡を返してきた。
テリックは二十万年ぶりという言葉に首を傾げた。それに問題はソル太陽系だ。そこは現在アマテラス銀河連合の統治下にはない。不審に思い、中央行政局と天の川銀河政庁の双方に連絡をいれた。
中央行政局からは調査するので待ってくれと返答があり、該当船籍を停船させておくよう指示があった。
一方、連絡を受けた天の川銀河政庁のイサ達は唖然としていた。まさか中央次元方面に次元跳躍しているとは考えてなかったからだ。
「しかし、まいったねこれは・・・・・。ソル太陽系の避難民の精神体を保存して運搬とは穏やかではないな・・・。」
「班長、時期的にはあうんですか?」
ラキの質問にイサは頷く。
「ああ・・・アマノハバキリ一世は確かにその時太陽系のナロンギデアに来ていた。ただ、その後行方不明になったと聞いていた。宙賊どもを蹴散らして強硬突破してきてたから、なにかトラブルにあったのだとは思っていたが・・・。」
「おおかたまたセツ・サダ・セレナ・グレンデルトの差し金でしょ。たぶんだけど、当時の天の川銀河政庁の不正の証拠をみつけてたとかじゃないかしらね?」
ラナンの言葉にイサは頷く。
「ありうる話だ。当時の状況で恒星系内で待機命令をだすとかいくらなんでもひどすぎる。」
「どうする?」
「保存している精神体の調査をしたうえで、戸籍管理局に登録してもらうしかないだろ。」
「摩滅してなきゃいいけどね・・・・避難民の精神体が・・・・。」
「そこは無事を祈るしかないね。」
「今の時点で分かった調査内容について向こうに連絡しておく。誤解があると不味いからな。」
戦闘移民艦アマノハバキリ・戦闘司令所。
「いつまでまたされるんだろうね?」
兵吾がため息交じりに言葉を吐き出す。
「これはあらかじめ予想されたことです。予定外に入港したのだから臨検くらいはされそうですけどね。」
レイネット管制。
テリックは天の川銀河政庁からの調査報告書をさらっと読んで頭が痛くなった。
(二十万年もよく耐えたもんだな。)
ただ、今の艦長について身元確認をしてくれないか連絡があった。当時の艦長はすでに死んでいて精神保存されているはずだ。となると別の人間がなんらかの形で艦長になっている。
問題のない相手ならいいのだが、これがジョカ因子保因者だとかだと不味い。
すぐに艦長の身元確認の連絡をいれた。すぐにDNAの鑑定結果や現在の地球の住人である旨などが送られてきた。
「未開惑星の住民だと!!?」
思わずテリックは声を上げた。
「管制長、いかがなされました?」
部下のテネシーが驚いて聞いている。
「・・いやな・・・・戦時特例とはいえ、臨時任官で九佐になってる人物が未開惑星の住民でな・・・・・知識挿入とはやってるんだろうけど・・・強化段階が問題かなと。」
「・・それはまた・・・・あの艦のAIも思い切ったことをしたようですね。」
「艦長が死んで、苦肉の策だったようだがな。」
中央行政局と戸籍管理局、それに連合宇宙軍統合司令部に天の川銀河の報告と合わせて連絡する。こういう事柄は重複してもいいから連絡するのが規則となっているからだ。
軍のほうも寝耳に水だったらしい。調査するから結果がでるまで待たせておけと連絡が来る。
統合司令部に補給はどうするのかと問い合わせると、事実確認ができ次第補給は認めると返答が来た。
結局、関係各所の調整が整い、補給が認められたのは三日後だった。それと同時に戸籍管理局から精神体移送専門艦が三隻送られてきて、この宙域で精神体を移し替えることになった。
その後に補修を行った上で、移民艦を中央宇宙に運び込み、戦時任官の九佐を表彰するとどうじに、管理官学校へ入学してもらうこととなった。
それというのも軍で佐官になるには管理官資格が必須だからだ。
兵吾は目まぐるしくかわる自分の状況に眩暈がする思いだった。地球で拉致られ、実験動物にされ、木星に投棄され、アマノハバキリに救助されて治療されと、一体なんなんだというかんじだ。
兵吾は地球に帰ることを当然のごとく希望したが、担当になった移民局係官のリーナ・セブンテスにやんわりと説得された。
「・・いまの地球の状況ではおそらく帰ることはすぐにはかなわないでしょう。すくなくても向こうの世代が変わるくらいは時間がかかります。無理に帰っても殺されるだけですよ。」
そして兵吾も戸籍管理官の勧めで、精神体の戸籍登録を行った。戸籍の本籍地は首都ミネアリアテラスとなっていた。これで犯罪を起こしたりしない限りは兵吾も不滅の存在となったわけだ。
その後、再び首都恒星系ミネアリアテラスの外縁部でアマノハバキリに乗艦し、凱旋航行をを首都星ま行うことになった。もっとも兵吾は素人なのですべてAI達に任せきりだったが。
兵吾の指揮する様子をテレビ局や新聞社が取材しており、一種の英雄として喧伝されることとなった。
ミネアリアテラスに到着すると、大統領府に報告にあがることになり、そこで記者会見を行い、例のごとくしゃべる内容はカンペを用意してもらっていたが、質問については自分で答える羽目になった。
それから一週間後、太陽勲章を大統領府で賞与され、また木星内脱出作戦の従軍記章なども賞与された。それと同じに特例任官として八佐に叙された。
もちろんこれは兵吾が管理官学校に入学し、卒業するのを前提している。そのうえ管理官学校の一段以上を卒業後はアマテラス銀河連合軍士官学校に入学し、参謀課程と司令官課程まで卒業することも決まってしまっていた。
特例とはいえ、本来の資格条件をあとで得ることを求められたわけだ。
兵吾の人生を変えたアマノハバキリのほうは、改修補修後、記念艦として保存されることが決まっていた。これに伴い、統括人工知能のクシナダなどもお役御免となったが、いつのまにか兵吾の案内役として付けられることとなっていた。
「まあ兵吾にはいろいろ足りないところがあるから仕方ないわね。」
「そうですね。」
兵吾としては色々言いたいことは山のようにあったが、この二人に言い返しても倍になって帰ってくることを経験上わかっていたので言葉を飲み込んだ。
現在兵吾は軍の官舎のひとつを割り当てられ、そこからほど近い軍の養成所付属の記憶挿入所兼シミュレーター訓練施設で訓練を受けていた。
兵吾してはいつか地球に帰るというのを目標に奮起していた。
その日、イサが一仕事終えて官舎に戻る途中、後ろからラナンが追いかけてきた。
「先輩~、これみてください。」
タブレットを押し付けてくる。
「ラナン、なんだ?やぶからぼうに?このあいだの船からサルベージされた人の名簿?」
「ここです。」
そこには『ナロンギデア・アマナギ685番地>リメル・ナミ・アマノウズメ』と書かれていた。標準宇宙時間で八百年前、地球時間で20万年前に失ったはずのイサの恋人の名前だった。
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