第58話 シミュレーションと未来予知の仕組み

 その日フェンラールから久しぶりにイサに連絡がきた。


 どうやら第十級管理官学校の卒業資格をえることができ、次の第九級管理官学校への進学がきまったそうだ。雑談をしたあとフェンラールから次の学校で習う範囲にある空間シミュレーターについて質問が来た。


「具体的にどうやって、シミュレーションに必要な情報をえているんですかこれ?」

 イサはその言葉に、その級数ではまだ習わない範囲だなと思いだす。

「ああ普通は、使えることだけおしえるんだけどさ、それは・・」

 イサの説明によると、ある任意空間を見た場合、空間には様々な粒子が存在していて、その粒子は大雑把に、次元深度というもので分類できるらしい。

 それで空間情報システムが構成されているが、空間情報システムはその存在している深度では目に見える空間変動から影響を特定の仕組みがないとうけない深度に構築されている。通信途中にマクロな物理現象で影響を受けるとそもそもシステムが成り立たないから当然ではある。

 一方、影響をうける次元深度の粒子の段階も五段階くらいに分類されており、マクロな物理現象の影響をうけるが、それがより深い深度に伝播しつつも減衰して影響を与える。次元第四深度とよんでいる段階ではこれが累積していく傾向があり、そこを解析すれば過去に何があったか知ることができる。

 ただ、あくまで逆の作用を展開する為、視覚的に見る見るためにはそれを行うための仕組みと情報材料が大量にいる。

「地球で、アカシックレコードなんて呼び方をされているのはこの第四深度の累積情報のことを指すんだとは思う。ただそのままではそれは粒子の配列でしかなく、アカシックレコードというか、アマテラス銀河連合では累積粒子情報と呼んでいるが、それをみれるということは、空間情報システム上のシミュレーターを動かす権限を与えられているということを意味する。」

 ただ、地球のそれは旧式だし、運用に大量のエネルギーが必要である。イサは粒子情報だけ抜き出してクラヌスの情報空間で展開して仮想現実化して、それを観察しているわけだ。クラヌスのシステムはすでに最新型にしてあるからエネルギー消費が少ないし、そもそも執行官権限で使えるエネルギー量からするとほんの芥子粒以下ともいえるものだ。

「地球の未来予知の能力者というのは要はこの空間情報システム上のシミュレーションの利用権限があるだけだとは思う。アマテラス銀河連合国民の旧戸籍があるからだとは思うけど・・・。代償としてシステム利用のエネルギーを旧エネルギルートで支払う必要があるはずだ。あと空間情報システム上の個人データーバンクを利用できないと、まともに情報を抜き出せないと思う。ひとの体が展開する情報空間だけでは引き出すべき情報量が多すぎて、まともな映像として記憶に残すのは困難だ。」

「ん~~となるとエスパーとされる能力者も・・・基本は空間情報システム上のサービスを利用しているだけってことですか?」

 フェンラールのことばにイサは頷く。

 テレパスなら単に空間所法システム上の電話のシステムを使っているだけだし、透視ならカメラシステムを使っているにすぎないわけだ。

「ただまあ・・・・地球の旧式システムは不効率でエネルギー消費が激しい上に、そこに管理AIが暴走しているから、目的の効果をえるのに、使うエネルギーより膨大な旧エネルギールートを要求されることのなるとは思う。」

「うわぁ・・・その状況聞いただけでめっちゃ末期ですね。」

 イサは苦笑するしかない。

「話は戻して、基本的に未来予知はシミュレーションの結果でしかない。想定空間が広いほど確定的な予知はできるけど・・・・シミュレーション時間と指定想定空間が広がるほど消費エネルギーは増大するし、専用の視覚情報や聴覚情報抜き出しAIがないとまともに運用できないね。」

「ちなみにイサさんはどの程度の広さでシミュレーションしているんですか?」

「一応隣の銀河含めた範囲くらいかな・・・。概算シミュレ-トではあるけど・・・演算を繰り返す場合は外部修正値を加えたうえで、範囲を狭めた局地演算というやり方をしている。地球に降りたりしたらせいぜいこの局地演算くらいしかできないだろうけどね。」

「局地演算する必要性は?」

「自分が加える修正をすぐに演算結果として得られることかな。そして重要なのは消費エネルギーが非常に小さくできることだね。一応人間の生命にかかわらない範囲で肉体からのエネルギー供給だけでシミュレーションができる。だから外部からの妨害を受けづらい。監査局にはいるなら必須の技能だね。」

「コンパクトにする必要性か・・・・・。」

「ほかに質問はあるかな?」

「いえ、今のところは。お時間頂いてありがとうございました。」

「あまり無理しないようにね。詰め込みはやったけど・・あれはのんびりする為にやったんだからさ・・・。」

 フェンラールは苦笑した様子だった。

 フェンラールとの通信を切るとイサはふっと息を吐いた。


 イサとしては地球の件は早急に結論をだす必要性がある。

 時間をかければかけるほど後始末のフォローがしにくくなる。いまの段階では銀河標準人類の子孫である日本人が追いやられている方向に向かっている。

 ぶっちゃけアマテラス銀河連合の一部ではジョカはともより、通商連合やシリウス王国により作られた愛玩人種なども宇宙人類として認めない風潮がある。理由は生命の基幹である、基礎命令が基準を満たしていない事だ。

 基準を満たしていないと大抵の場合利己的であり、巨視的な視点を持ちえないので、文明の進化が停滞する傾向が強いためだ。

 環境変化の影響で日本人の出生率の低下を覆すためにアマテラス銀河連合の残留組織に作られたユダヤがかろうじて合格ラインにあるくらいだ。

 イサとしては人としての禁忌に地球というか太陽系は触れすぎていると思う。どうしてそこで人類の改造に手を伸ばすのか・・。技術的にまだ未熟なのにどうしてそうも人類をダメにする遺伝子改造ばかりするのかと言いたくなる。

 今の環境でも三百年は寿命が銀河標準人類ならあるはずなのに、その子孫の日本人やそれをひな型に作られたユダヤ人の寿命がせいぜい百二十歳というのはひどすぎる話だ。

 これでは人口が減少するするのも当たり前だ。

 老化を加速させている原因が多数報告はされているが、それすらもアッケドンの差し金であることは確定的かもしれない。

 アッケドンのゲームの最小時間は地上の人ひとりの人生である。そのため、寿命が長いと、得られる収益が悪くなるので平均寿命を短くする方策をとっているというのはすぐにわかる話だ。

 高級サービスパックで複数の人間にオーバーライドして時分割で運用するなんてものまであることは確認している。それにしたって時分割で人格をのっとってるわけだし、通信回線の限界値があるから数は限られる。

 あとはゲームマスターとして雇われた人間による歴史改竄や政情のコントロールだ。

 どうやっても世界大戦をアッケドン財閥はゲーム事業の興隆の為にやりたいらしい。

 財閥の本体がつぶされているのに太陽系のゲームスポットはいまだに運用されている。

 イサが月をつぶさないのは、半ば人質としてアマテラス銀河連合国民が下層に押し込められていることが大きい。

 もし軍事的に介入するなら全部をいっきにつぶさないとコストが高くなるだけで効果がいまひとつだ。

 だが、全面介入となると、すくなくてもジョカ因子保因者は、言葉を飾らなければ全員虐殺される。それはその後の太陽系運営にマイナスにしかならない。ジョカの危険性を太陽系の人類は理解できる文明レベルにはないのだから仕方がないが・・・、そうなると保護が難しくなる。

 人権を声高に喧伝してアマテラス銀河連合を非難する住民があふれることが予想できる。

 ジョカの共産主義国家の被害が確定的なった時点で投入すべきだと結論はでているが、その間の動きが非常にもどかしい。ほかの地球人類に被害が出るのに故意に防がないのだから。

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