第56話 地球滅亡への序曲②

天の川銀河中央星系惑星クラヌス・管理官ビル執行官執務室。

 イサは執務室の思考ディスクにつなぎながらシミュレーション演算を繰り返していた。


(惑星統一政体をつくって技術供与を行っても、効率が限界だな。期日に間に合うとは思えない。逆に技術革新が遅れる・・・原因は・・・・ジョカ因子の残留か・・・。)


 問題はそれだけではない。過去の文明によって構築された地中施設に関わっている、外部宇宙の人類やアンドロイドはては人工生命体ホムンクルスの問題まである。


 アマテラス銀河連合では基本的に過酷な条件下で稼働させる義体にホムンクルスを用いることは少ない。生体を使うと、必ず進化や退化の問題が付きまとうからだ。

 緻密な機械工学により生成されたナノマシンにより構成された見た目は人類と変わらないアンドロイド義体を使うことが多い。

 あるいは工作用のロボットを使う。


 ところが地球ではアマテラス銀河連合の統治を離れた後に生体工学を推進していたシリウス王国から、生体義体やそれに関する技術が数多く投入されている。

 酷いのになると人類から脳を取り出してそれを生体機械や機械の頭脳につかうなどという非人道的なことすら行われていた。


 そしてこれらの品物は今をなを地球の地下施設や月、火星、金星の地下施設などで使われている。

 問題なのは人の遺伝子をいじって作られた生体機械などが多く、それらは自我をもっているが、設計段階から、いくつもの命令遺伝子を欠損されており、人類との共存が不可能な命令体系生体になっていることだ。


 アマテラス銀河連合の管理官学校で人工知能構成学が重要視されるのもこのような問題を解決する必要性があるからだ。

 しかしシリウス王国や通商連合では生物の基礎命令の相互作用を理解しておらず、適当に遺伝子を改変して用いている。これがいかに危険か彼らは理解していない。

 もっとも理解していれば人間を改変してつくったジョカという兵器などもつくったりはしてないだろうが・・・。


(ううむ・・・・ジョカの相互ネットワークの巨大化による演算の効率化が・・・ジョカの集団意識の強化につながっている。ジョカの因子の問題はユーラシア東部の人種だけの問題ではなくなってきているな。)

 シミュレーション結果をどう演算しても、日本で革命あるいはクーデターがおこされて、その結果、ジョカの共産主義国家により併合される方向性は変わっていない。

 そこから修正を行うべく施策はなんどなく行っているが、大きいのは日本国内とアメリカ合衆国内のジョカのロビー集団のことだ。

 ジョカが最初から対象国の情報を取り扱う部分を占有することで情報工作を行って、政府批判を行わせたり、ジョカに批判的な人物の排除を行ったりすることはプログラムの解析結果から予測はされていた。

 だから世界的にあらかじめそれを警告する文章を配置したりはしていたが、事がおきるまでなかなかそれを信用してもらえなかった。焼け石に水だがやらないよりまし程度である。

 日本の問題に注目するなら、ジョカの共産主義国家の共産党軍である人民解放軍が、公共放送局に森家の伝手を使って侵入するということが昭和三十年代から既に開始されていた。この時点ではどちらかといえば国際コミュンテルンの流れをくむ人材が多かった。

 それがだんだんジョカの共産主義国家に代わっていく。

 官僚組織への浸透もそうだ。

 だが、それが本格化したのは複製体四号が日本の大学で学生運動を扇動し始めた時期からだ。

 彼女は基本的に日本で革命を起こして、そのトップにたつつもりで行動を起こしている。

 イサの横やりでなんどか失敗して時期が延びて、結局革命を人民解放軍の伝手で起こす段階くらいまでしか肉体寿命は持ちそうにないが・・・。


 日本へのアメリカ合衆国からの理不尽な圧力のバックにはかならず旧浙江財閥系のジョカのグループのロビー活動があった。それにより日本が崩壊するように仕組まれていたといっていい。

 アメリカ合衆国の財界のキング達は、一度満州事変で煮え湯を飲まされたが、よほどのことがない限り日本への干渉は抑えめにしてきた。

 アメリカ合衆国中央情報局がロッキード事件などを主導したのも、日本のジョカへの接近に危機感を抱いたからというのが正しい。

 日米二国の理不尽の裏にはジョカの共産主義国家が存在する以上、それに対して直接つながりを政府が持つというのは認められない。

 しかし、それと同時にロッキード事件のほかにもいくつかの事件があるが、この裏にいたのもジョカの共産主義国家だ。ようは日本が混乱すればそれでそのすきに利権を得られるから、日本と首脳会談を行ったことをアメリカ合衆国の政界にロビー活動で危険を煽り、アメリカ中央情報局をうごかすことで日本の首相を退陣に追いやるわけだ。 

 そこに複製体四号を中心とするニッポン共産主義ネットーワーク国際コミュニティのハニートラップの活動がつながりをもつ。

 西暦2025年までにほぼほとんどの日本の行政システムはこれにより崩壊寸前まで追い込まることが予想されている。


 イサはシミュレーションをいったんきって、コーヒーを淹れた。

「・・この日本がジョカの共産主義国家に侵攻されて、日本のマスコミがこぞってその侵攻を歓迎する放送を行うのもやな話だな。あと、このなんでも元凶をアメリカ合衆国にするのもなぁ。ジョカが元凶だし、人民解放軍が元凶だろうに。」

 日本政府は最後まで抵抗をみせるが、議会の共産党などがクーデターを起こして、勝手に無条件降伏してしまうのも頂けない。

 日本が陥落したあとに第三次世界大戦は本格化する。

「自衛隊内部の反戦主義って意味が分からん。軍事に関わる以上は戦う意思があるのが当然だろうに。

 日本の防衛省は警察庁系の職員が自衛隊の軍事クーデターを防ぐ目的で内部の意識を統制はしているが、それを内部対立にして、煽り立てている共産主義者が内部にいるわけか。」

 シミュレーションではロシア連邦の本物のプーチン大統領は、「狼はどこまでも貪欲に食べる」という遺言を残して抹殺されている。彼はジョカ封じ込めの政策をアメリカ合衆国と連携して行っていたが、国家保安局の裏切りで、秘密裁判で死刑を宣告され殺された。

 遺言の内容は理解していたが、イサが手を打とうとしたときには手遅れだったといっていい。彼の言った狼とはシリウス王国とそれをバックにしているジョカの共産主義国家の事だ。ウクライナに手を出したアメリカ合衆国のことではなかったというわけだ。

 その後五人のプーチン大統領の影武者が本物の様な顔をしてウクライナ戦争を指導しているが、退場する時期が来ている。彼らを動かしているのは月に来ているアッケドン財閥にお金を払ているゲームプレイヤーだ。影武者にオーバライドして、ゲームプレイをしているわけだ。

 日本占領後にロシア連邦の内乱に乗じて、ジョカの共産主義国家は沿海州と、モンゴル、シベリアに軍を進める。

 内乱で旧ソビエト諸国全体が戦場となる。

 そこにヨーロッパも関わり、ある程度戦争が進んだ後に膠着状態になる。

 朝鮮半島でも大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の泥仕合が起こるが、日本陥落でアメリカ合衆国は大韓民国から国際連合軍の撤退を行わざるを得なくなる。

 そしてジョカの共産主義国家の手先として日本国民はアメリカ合衆国との戦場に投入され摺りつぶされることになる。


 イサとしては宇宙標準人類の日本人が壊滅状態になった時点で、軍事介入するつもりではある。それイコール地球の滅亡であるが、正直ジョカ因子のこまごまとした相手をしているほど余裕があるわけではない。宇宙標準人種の子孫が残っているからお目こぼししているというのが実際のところだ。

 いかにかつての故郷とはいえ、地形は変わり住んでいる人種すらも変わっている。

 地下施設の事がなければまだ、直接介入してジョカの問題を・・・・ジョカ因子の保持者を虐殺してでも解決するという方法もあった。だが、因子が惑星に広範に広がり、そのうえ、人類の寿命とかにまで小細工までされている現状に、冷静に考えれば太陽系ごと焼却処分してしまうのがあとくされなくていい。



 第三次世界大戦自体、通商連合のアッケドン財閥の地球をゲーム場とした、戦争アミューズメントとしてだいぶん前から用意されていた事柄でもあるから、なおさら救いがない。

 プレイヤーとして天の川銀河の各地から参加している連中が、アバター代わりに地球人にオーバーライドして事態を動かして戦争に興じるというのがその事業の実態だ。

 ジョカとほかの地球人類との最終戦争もアッケドンにより用意されたゲームシナリオの一つですらある。

 下請けのシリウス王国の連中も地球人より立場が上とはいえ、ゲームの駒にすぎない。通商連合とは財力で立場が決まるそういう国家だからだ。

(通商連合本体をつぶしても、原生生物みたいにしぶといからなぁ。駆除は徹底的に行なうべきなんだが・・・・・)

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