第54話 切磋琢磨

天の川銀河中央星系惑星クラヌス・新管理官ビル執行官執務室。

 イサは先日の夢の性かレジスタンス時代の事を少し思い出していた。

 そしてクーウラの外部との取引がシリウスの地球侵攻につながったことを思いだす。空色のラーギつまり空色の衛星都市は外交をつかさどっていた。それが通商連合の財閥とつながり、ジョカの展開などのことを引き起こした。

 裏切るという言葉はこのとき生まれた。古語でクウーラギールとはクーウラの行為を示し、それからウーラギルとなり裏切るという言葉に転じた。

 地球のユダヤでは空色の公職のことは語ることすら禁忌にされているらしい。そして一番被害をだしたのは西側のカーラギ、つまり黄色の都市だ。かの都市の生き残りは何度もジョカを殲滅しようとしていた。それがジョカにとっての恐れとなり、転じてジョカの皇帝の色とされたのは皮肉だろう。





中央次元中央星系・管理官学校惑星ライネリア・テラス・第十級管理官学校。

 フェンラーラル達が法学の進級試験十九種に合格したことが第十級管理官学校では噂になっていた。この試験を合格したことで、フェンラール達は第三学年に上がる。三週間で一年生から三年生へ進級したことになる。一か月以内に卒業という目標は達せられそうにないが、これでもここ十数年では快挙とされていた。メル達はまだ進級テストをうけていないので、進級はしない。

 進級直後からフェンラール達は積極的に学科進級試験を受けたり、実習試験に臨んだりしていた。

 そんなフェンラール達にメルやヤヒロはなんとなく生き急いでいる印象をうけた。学生食堂で一緒になったときにそのことをフェンラールに漏らすと、フェンラールは首をかしげていた。

「生き急いでるねぇ・・・。これでものんびりやってる方だとは思うんだけど・・・・。」

 メルはその反応に不満顔だ。

「そりゃ、あなたたちが優秀なのはわかってるけど・・。」

 フェンラールとしては自分たちが優秀という認識はない。学科試験の結果はイサから散々詰め込まれた事前学習の結果にすぎない。

「優秀じゃないかぁ・・・学科に関してれば知識挿入を徹底してやったせいだし、実習のほうは、シミュレーション訓練をやりまくった結果だけだよ。あれは思い出したくないなぁ・・・・・。」

 メルが今度は首をかしげる。

「シミュレーションの空間内時間はどれくらいなの?」

「約五百年くらいかなぁ・・・。」

 その言葉にメルとヤヒロは茫然とした。

「それって五年とか500日とかじゃないの!?」

 フェンラールは首を振る。

「いや年だよ。師匠になるひとがスパルタでねぇ。」

「スパルタってねぇ・・・・そんなレベル!!?」

「あ、午後から実習だから、遊ぶならまた、今度連絡してよ。」

「うん・・・・なんとなくあなたたちの予定一杯なきもしないでもないけど・・・。」

「・・・休暇はつくるから。はしりっぱなしじゃ息切れする。」

「そう。」

 フェンラール達が席をたっていくとメルはう~んとうなった。

「ヤヒロさぁ、進級に必要な単位あといくつ?」

「ざっと実習2学科1かな?」

「それって法学とか?」

「そんなところ。」

「わたしと同じかぁ・・。」

「午後からちょっとシミュレーターの申請だしてくるから一緒にどう?」

「・・あんまり裁判とかのシミュレーションはやりたくないんだけどなぁ・・・精神的に疲れるから・・。とはいえ・・・後輩に追い抜かれてそのままじゃ悔しいな。わかった。」

 二人はそういって席を立った。



 政治学の議会運営実習試験を終えて、フェンラール達はついに第十級管理官学校最終学年に進級した。それから三日後におくばせながらもメル・アシナヅチとヤヒロ・ホホデミが進級を果たす。

 この学年から、恒星系運営実習が科目としてはいってくる。最初のうちはもちろん下の階級での恒星系政庁での官僚としての動き方の演習だ。この実習試験であちらこちらの職場をシミュレーション空間で体験し、また試験課題にパスしなければならない。

 今まで習ってきた、政治学、法学、軍事学、経済学、社会学などの学科の総合学科といっていい。その分、内容は複雑だ。それに加えてAI構築学もはいってくる。これは業務が複雑化するので、自分用のAIをカスタマイズして構築する学問だ。これには人間工学、機械工学、プログラミング、生物工学など技術学の要素がかなりはいってくる。

 人間と対立しないAIの構築が最低限求められる。AIの本能の数の設定などもあり、一個の人間を構築するのに等しい能力が求められる。



 フェンラール達はまずは提出用のAIの構築用のジェネレーターの作成から入った。今はさすがにジェネレーターの構築まで最初からプログラムしてやれとは言われてないのがマシな点だ。上の学校にあがるとそこからやらされるというのだからたまったものではないなとフェンラールは思う。

 ダイナミックライブラリや実行ファイルなどを学校指定の場所から選んで引っ張ってきて、大本の実行ファイルの中身を書き換えてリンクをつくっていく作業だ。作業はもちろんバーチャル空間内で行う。現実空間でやっていたらいくら時間があっても足りないことになる。

 イサのプログラム課題一つをこなすのにバーチャル空間内部時間で五年以上かかったのはあんまり思い出したくない思い出だ。それから比べると最小単位にシェイプアップして、必要条件を満たしたプログラムを作るのは楽だ。

 何度かの試行後、満足のいくジェネレータープログラムの作成に成功する。

 さっそくAIを生成してみて、フェンリルと名を付けた。男性型AIで、アバターは狼にした。

 すぐに動作確認をしてから、ノギウラ教官に提出すると、ノギウラ教官は動作確認をして、それからジェネレーターの構成を見て首を傾げた。

「アマナギ君、君、この構成、だれかに習ったのかね?」

「一応イサ・ナギ・アマナギ・ヤゴコロオモイカネ十二等管理官に習いましたが・・・・。」

「・・そうか。まあ、サルマネというわけではないし、構成はオリジナリティもある。A評定をだそう。」

「ありがとうございます。」

「AIは返却しておく。ちゃんと育てなさない。ここで作ったAIは一生ものにする人が多いからな。途中でカスタマイズするひともいるが、君のは必要最低限が満たされている。きっと君の力になるだろう。」

「わかりました。」

 バーチャル空間からログアウトするとふっと息を吐いた。

 背伸びをしてからこぶしを握って、気合いをいれなおす。

「まずは実習一個クリア!!」

 周りではシロも課題をおえたのがほっとした様子だった。

 メルとヤヒロはまだカプセルベッドに寝ているところをみると苦戦中らしい。しかし三分ほどしてからカプセルベッドのシールドがあがる。

 メルは疲れ果てた様子だった。

「き、きつかった・・・。合格とれないかと思った。」

「右に同じ。」

 そのあと全員の課題達成をノギウラ教官が宣言し、そのあと各AIを正面ディスプレイに表示させて、各AIに自己紹介させた。

 フェンリルはよろしくとややぶっきらぼうに答えていた。

 フェンラールはおかしいなとおもった。設定では人懐っこくなるようにパラメーターを設定したはず・・・。しかしAIは育て方でパラメーターとは異なる性格になることもあることを思い出した。


 その日の夜はメル達と実習合格の打ち上げをして楽しく過ごしたフェンラール達だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る