第52話 直接戦闘訓練
この日、第十級管理官学校二年一組は直接戦闘訓練の日だった。直接戦闘訓練は近接・遠距離をとわず生身で直接戦闘する為の訓練だ。
この日は、素手格闘とナイフ格闘の訓練だった。
フェンラールはこの手の訓練は割と得意だ。軍人だったキャリアが効いているともいえる。
ただ、流派が既存のアマテラス銀河連合の武術とは異なるため、評価については不安があった。
ハヤカワ教官を始めとする教官たちと実際に生身で打ち合いをしている。
「・・・アマナギ、お前のその武術は見たことがないものだな。」
打ち合ってるネガサキ教官が不思議そうに言う。
「・・まあ、この間つぶれたシリウス宙賊王国の武術ってやつです。私のはそのなかで王狼流とかいう代物です。」
「ふむ・・・、急所への容赦ない打撃、妙な武道系ではない、純粋武術だな。わるいが放課後、聞き取り調査をしたい。なに、すぐおわるから・・・。」
「・・・わかりましたよって!」
フェンラールの回し蹴りをネガサキ教官が、同じように足でガードする。
「よし!ここまで!!」
ネガサキ教官が離れ、そこでお互い一礼をした。
審判をやっていたハヤカワ教官も不思議そうだった。
「珍しい技のつなぎ方の武術ですね。私も詳しく知りたいですね。」
後ろの方でメルたちが首をかしげている。
「ネガサキ教官なんで脚で防御したのかな?」
「あそこは腕でもいいんじゃ?」
その言葉を聞きつけたネガサキ教官がため息をつく。
「腕の三倍から五倍、足の攻撃は強い。したがって腕で防御した場合、鍛えている人間の脚の攻撃なら確実に腕が骨折する。だから足の攻撃はよけるか、脚で防ぐかが基本になる。おまえら座学ちゃんときいていたのか?」
メルはしかし、そこで食いつく。
「でも教官、基本的に脚での攻撃も防御もバランスくずしますよね?それは安定戦闘を行う際には避けるべきと学びましたが・・・。」
「それは慣れてない人間の場合と但し書きがつく。慣れている人間の場合、脚での攻撃のほうが攻撃力があるから、上半身の技とあわせて、組み立てればかなり強い攻撃になるし、防御にもなる。」
そしてネガサキ教官は付け加える。
「それはナイフ格闘の場合でもいえる。適宜足技をいれていったほうがバリエーションが増えて隙を減らせる。慣れていなければ大きな隙をつくるがね。そして、奥義では脚と上半身の技を同時に行うものもある。これは足の重心移動に適した角度で行う必要があり、使える場所が限られたりする。」
メルは論破されて肩を落とした。
「次!ヤヒロ・ホホデミ前へ!」
呼び出されたヤヒロがネガサキ教官の前に出た。
放課後、呼び出されたフェンラールは第二学年職員室に向かう。職員室のドアをノックする。ノックした時にドア横のディスプレイにフェンラールの略式プロフィールが表示される。
思考システムによる簡易認証だ。
『入室を許可します。』
AIによる音声が鳴り、ドアのロックが外れる。自動引き戸なので横に開いた。プシュという音が聞こえるあたり、気密扉らしい。
奥の方でネガサキ教官とハヤカワ教官が話をしている。
「二年一組、フェンラール・アマナギ、出頭いたしました。」
そういってフェンラールは敬礼をする。答礼を二人は返してきた。
「放課後にわるいね。」
「あなたの評価をきちんとする為には必要なのよ。」
二人にそういわれる。そしてネガサキ教官が四角いカードをとりだす。カードの中央には虹色のディスクのようなものがある。
「それでこれの中央の虹色の部分を触ってくれるかな?思考システムで認証があるから認証してくれるとありがたい。」
「わかりました。」
フェンラールはそういうとディスク部分を右手で触る。
『フェンラール・アマナギと認識、記憶走査を許可されますか?』
フェンラールは頭の中に響いた声に是と答える。
一瞬立ち眩みのような感触がしたが、前にイサの執務室で思考システムに接続したときよりはかなり軽い。
「・・・ふむ、君はずいぶん小さいころから王狼流武闘術を修めていたんだね。」
ネガサキ教官が首を振る。
「負けることを一切認めない国家の王族というのは相当窮屈でしたでしょうね。」
フェンラールは苦笑した。
「まあ、いまは割と自由にやらせてもらってますから。」
「後見人があのイサ・ナギ・アマナギ・ヤゴコロオモイカネ君とはね。」
感慨深そうにハヤカワ教官が頷く。
「私たち二人は、以前、第八段管理官学校で教鞭をとっていたことがあってね。イサ君はそのときの教え子なんだよ。」
ネガサキ教官が頷きながらいう。
「大方、あの子のことだから事前に思いっきり座学知識挿入とシミュレーション体験をやらされたんでしょ?」
その言葉にフェンラールは遠い目をしかけて、首を縦の振る。
「はい・・・・ざっと500年くらいはシミュレーション空間で過ごしてます。」
「それりゃまた詰め込んだもんだね。」
「イサさんよりも・・・その上司のかたからのほうがシミュレーションの時間はながかったです。上司の方については機密で申し上げれませんが・・・。」
機密の部分でネガサキ教官が話を変えてくる。
「本題に戻るとして、君の王狼流武闘術と現代アマテラス流統合武術の技を合わせて最適化させてみた。以前と動きが多少変わるが、これを覚えればおそらく君の武術は完成するだろうね。この最適化した武術をどこまでおぼえれるかで、君への評価とするよ。あと、もと部下の人たちも同じだよね?」
「あ~~部下のほうは氷狼流武闘術ですね。わたしのとまた動きが違います。どちらかというと防御に重点をおきつつ、護衛対象を守る武術ですね。」
「ふむ・・・それは面白そうだ。」
「ピーリン・アルファンブラ君たちにも来てもらうか。」
結局呼び出されたピーリン達だったが、流派が側近が氷狼流で、それ以外が群狼流だったりと違っていた。
「群狼流は多数対多数に重きをおいてるね。これはこれで面白い。王狼流は個人対多数を想定しているのと対照的だね。」
全員のデーターを最適化し、それを修めることを評価とすることになった。
その次の日、シミュレーション格闘実習で、生徒同士の勝ち抜き戦が行われた。
結果はフェンラールが全員を倒してしまい、クラスメイト達がややぶぜんとした顔をしていた。
ネガサキ教官は首をかしげる。
「う~ん、これは予想外に使える武術なのかな?いやしかし・・・・。」
「まあ・・・元軍人相手ですから仕方ありません。ほかの生徒たちはほとんど素人ですからね。」
「微妙に氷狼流と郡狼流に王狼流に対する弱点が設定されてるね。最適化でそれはつぶしたけど・・・まだ、ものにしてないから勝てない感じか。」
何度か勝ち抜き戦をして、ランキングをつけるとフェンラールが一位、ピーリンが二位、シロが十三位といった具合になった。メルは六位、ヤヒロが七位とそれなりに健闘していた。
聞いた話だとフェンラール達がくるまでメルが主席だったそうだ。メルはかなりショックをうけていた様子だ。
座学の小テストではフェンラールと満点で同点だったが、実習ではあきらかにフェンラールに負けている。
ちなみにシミュレーション格闘実習では内部時間で十年以上過ごすことになる。間にちょこちょこ別の授業の座学や知識挿入が挟まれるが、ほぼ毎日格闘訓練に明け暮れることになる。外部時間では一日もかかってないが。
その日の課外後、シロやメルたちにねだられてフェンラールは王狼流武闘術アマテラス型改良版を教えることになった。このことに教官たちは許可をだしてくれた。というより教官たちもそれをものにすべく練習している様子だ。
王狼流武闘術はシリウス王国の王族のみが学ぶことができた武術だった。しかし、フェンラールはそれについてのこだわりはない。どちらかというと慣れているからこれしか使いようがなく、それを修正するくらいならどうにかできるかといった具合だ。
内部時間で一年を過ぎるころ、氷狼流武闘術アマテラス型改良版を全員修得する課題をクラス全員にだされた。理由としては護衛対象を守る武術が必要な場面が管理官の就職先によっては必要だということらしい。
クラスメイト達はようやく改良版王狼流になれてきたところだったので、ずいぶん苦労している様子だった。フェンラールも新しい流派を組み込むのに四苦八苦した。
そして十年がたち、実習テストが行われた。
相手はAIの動かす多数の相手だ。護衛をしつつ、それらの攻撃をいなしながら目的地に向かうという課題だった。
フェンラールはどうにかテストに合格はしたが、きついテストだなというのが正直なところだ。
おまけにテストはまだあり、今度は目的対象を抹殺するというテストだ。被弾を避けつつ、どこまで戦えるかが課題だ。
これら複数のテストでは武器の使用も許可されており、相手もいろいろな武器をつかって襲ってくる。中には浮遊戦車なんてものまで相手に複数いる。
とっさの判断力を問うのが課題のようだ。
二年一組のメンバーは全員どうにか合格をもぎ取れた。試験が終わって現実空間に戻ると皆一同にほっとした様子だった。
終わってみるとクラスの面々といつの間にかフェンラール達は打ち解けて会話をしていた。十年も互いに瀬在琢磨し、協力してきたのだから当たり前かもしれないが・・。そして、この日の課外後にクラスメイト達とフェンラール達は打ち上げの飲み会に出かけるのだった。
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