第51話 悪夢

 その日イサは夢を見ていた。はっきりそれが夢だとわかるのは、今はないナロンギデアの星都アマナギ、宇宙の平和を意味する都市の中をあるているからだ。

 アマナギは巨大な都市といっていい。衛星都市をもふくめると現在の日本海すべてを覆うような都市だ。

 アマナギの衛星都市スメラギとのいくつかある連絡橋のたもとにイサは青年期に住んでいた。どこにでもいるような家族で、上と下に姉妹がいた。

 姉妹の友人の女性と腐れ縁の延長線上で付き合うことになり、当時十八歳のイサは、人生の中で一番充実していたかもしれない。

 当時すでに天の川銀河政庁ではセツ・サダ・セレナ・グレンデルトによるクーデターが徐々に浸透していたが、当時一般人のイサには知りえない事柄だった。

 彼女だったナミ・アマノウズメとは将来設計についていろいろ話をしていた。それというのもすでに婚約状態だったのもある。

 彼女の勧めでいろいろな資格をとることにイサは楽しみを感じていた。

 あの運命の日、イサは宇宙船操船免許を取るために、宇宙船操船免許発行所のあるクタラギ、アマナギの北部に出かけていた。

 そして、庁舎内にいるときにで突然の空襲警報が鳴り響き、非難命令が出て、地下のシェルターに急ぐことになった。

 シェルターには庁舎職員や受験生が数多く避難してきていた。

 数度の地震の後、外部との連絡が取れないとのことで一週間留め置かれたが、さすがに状況がわからず、外出許可を無理やりとって外に出ると、アマナギの都市部がなくなり、そこには巨大な湖ができていた。連絡橋もいくつもが途中で寸断されていたが、反重力プレーンを確保して、急いで自宅のあったアマナギ南部へ向かった。

 途中見た、アマナギの状況は凄惨を極めていた。あちらこちらで助けを呼ぶ声がしたが、それを振り切り、倒壊した自宅にたどり着いた。

 倒壊した自宅からすでに両親の遺体は運び出されいた。葬儀も略式だがやったあとだと姉のヒロと妹のヤチが言っていた。

 そこにナミの姿がないことに二人を問い詰めると、二人とも首を振った。

「ナミは、医師国家試験の受験のために、中央にいってたことをあなたはしってたでしょ・・・・・。」

「兄ちゃん、ナミねぇちゃんは・・・もう・・。」

 イサは当時、ナミの死を受け入れられなかった。

「・・・そうだ、転生局なら・・。」

 しかし二人ともその言葉に首を振る。

「システムが壊されてもう転生はできないってニュースで・・。」

 そして数日イサはアマナギの隕石落下地点周辺をくまなくエアプレーンで探し回った。当然のごとくそれは徒労に終わり、そうこうしているうちにシリウス王国を名乗る勢力の地上への降下だ。アマナギから危険を避けるためにイサ達家族三人は離れ、対シリウスレジスタンスが運営する施設で過ごすことになる。

 イサも復讐にかられてレジスタンスで活動し、それなりの地位まで上り詰めることになったが、そんなものは余禄でしかなかった。

 食物プラントの破壊をシリウス王国が実行し、それで民衆の怒りに火がついて、レジスタンスはそれを煽り、一度は惑星上からシリウス王国軍を追い払うまでになった。

 次は宇宙の奪還だと作戦を立ててるうちに、今度はシリウス王国軍が衛星軌道上から地表の都市部へ、硬X線ビーム砲を射撃してきて、地表のほとんどが焼き討ちされた。これがナロンギデアの虐殺と後に呼ばれる。

 レズスタンス内部でも徹底抗戦を唱える一派と脱出を唱える一派に分かれることになった。

 イサは幹部としては中立だったが、正直これ以上の抵抗運動は無理だと判断していた。姉と妹に説得されて結局最後は脱出することになった。

 長い放浪生活の後に天の川銀河を離れ、首都ミネアリア・テラスにたどり着く。難民の多くがそのとき首都星系を目指していた。

 難民保護プログラムにより、一度ミネアリア星系の居住コロニーに住居を得て、そこで一度おちつくことになる。

 難民たちの幾人かはソル星系の奪還をもとめてデモ行進をしたりしていたが、政府からの通達ではすでにシリウス王国からの奪還が行われているとのことだった。それ以外に通達はなく、天の川銀河への渡航も禁止されてるという不可解な状況だった。

 イサが管理官学校を目指し始めたのがこの不可解な状況が基点だった。ナミと両親の仇をとりたいという思いもあった。


 イサが目を覚ますとそこはいつものクラヌスの官舎だった。

 隣のベッドではラナンが寝ていた。

 すでにあれから宇宙標準時間で800年以上、地球時間では13万年以上たっている。吹っ切ったつもりだったが、夢にみるとなるとラナンに言われた通りどこかに吹っ切れてない部分があるのだろう。

 しかし、いまさらナミをよみがえらせたところでナミが喜ぶかと言われると微妙な気がする。分割された彼女の精神体をかき集めたたところで、分割された人格が各々に経験したことを失わせることになる。

 砂粒を一個一個吟味して集めるのごとく精神体を集めるというこの行為も正直やめるべきだとは思う。だがラナンがそれで納得するかというと別問題だ。ラナンと事実婚を長いこと過ごしてきた経験上それははっきりしている。ここで拗れることは確実だ。それで別れ話をされるとイサにとっては絶望だし、ままならないものだと思う。

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