第50話 艦隊戦シミュレーション実習(下)

第十管理官学校第二学年艦隊戦シミュレーション実習仮想空間内α星系第二惑星軍事衛星要塞β3。


「現在のところ異常ありません。」

 その哨戒報告をうけて二年一組のメル・アシナヅチは安心して息を吐く。

 今回の相手は新進級生ばかりの初心者艦隊だ。こちらの駐留艦隊で正面からやっても勝てる自信はある。だが、守る方の任務ぐらいしか残っていなかったのには正直落胆した。守備任務は時間経過とともに士気が落ちやすい。継続的に任務を果たすにはいろいろ工夫がいる。

「ねぇ、メル、そこまで気を張らなくてもいいんじゃない?」

 そういうのは要塞司令付き参謀を担当しているヤヒロ・ホホデミだ。

「まあ、そうなんだけどね。だけど、新規進級者は時々、思いもよらない方法で攻めてくるからね。」

「それは時々でしょ。たいていは何もせずにおわっちゃう。意思決定が遅いことが多い。まあ、そういうなら哨戒をふやしてみるけど・・・・あんまり期待はしないでね?」

「わかったよ。」

 ヤヒロが司令所の階下にある、通信所に歩いていく。




第十管理官学校第二学年艦隊戦シミュレーション実習仮想空間内α星系第二惑星軍事衛星要塞β3駐留艦隊港・駐留艦隊旗艦β3-1。


「あ~あ、なんでうちのクラスは防衛任務なのさ!相手の初心者をこうぐわっと攻めて、先輩の威厳をしめしたくないか?」

「まあ、そうだけどさ、なんか向こうさん、やたら意思決定が早かったんだよな・・・・・進級者の人数が少なかったのもあるけどさ。おかげで最新鋭艦隊もってかれてるし・・・。」

 ボヤいやラール・ミカハヤヒにカーラル・ミチノナガチハが答える。

「まあ、俺たちは司令のメルが命令するまでここでくだまいているしかないんだがな。」

「か~!船降りて要塞の士官クラブで飲んでたいな!」

「おいおい・・・・飲むなとはいわんが、いまの状況だと成績評価おとすぞ?」

「つってもさぁ・・・・第二種戦闘配備で待機し続けろというほうが無理あるだろ?」

「哨戒艦隊任務の担当の奴ら、必死にいま探してるだろうから、我慢しろ。うちらだけがいいとこどりしたら恨まれるぞ?」

「しゃーねーな。艦隊提督としては忍の一字だな。」



第十管理官学校第二学年艦隊戦シミュレーション実習仮想空間内α星系、第五惑星域小惑星帯・第六哨戒艦隊。


「ネーラさん、こんなところ探しても見つかりませんよ?」

「まあ、そうだけどさ、念のためだよ。ほかの哨戒艦隊は軒並み外側か恒星のほうをさがしにいてるし・・。あいてる宙域がここしかなかったんだよ。」

「だっせ~!」

「いってろ!」



第十管理官学校第二学年艦隊戦シミュレーション実習仮想空間内α星系第二惑星軍事衛星要塞β3。


「恒星系付近に重力振を確認、大質量の物体が多数ワープアウトしてきます!!!ワープアウトまでカウント20、19・・・・」

 AIの動かすオペレーターの報告に一瞬メルは茫然としたが、すぐに矢継ぎ早に命令を下す。

「戦闘配備を第一種へ!駐留艦隊はすぐに出撃!!目標領域はη-583!!それから・・・・・」

「新人ちゃんたち、いっきに中からこちらをせめるきかな?」

「・・どうかな、陽動の可能性もあるしね。」

 レーダーオペレーターが声をはりはげる。

「ワープアウト確認、ワープアウトしたのは多数の小惑星だと思われます!」

 メルは小惑星と聞いて首をかしげる。小惑星くらいなら要塞砲なり艦隊砲ですぐに消滅させれるから、陽動かなと思った。

 そこにさらに報告があがる。

「第二惑星の公転平面の四時方向より重力振を確認!こちらも大質量の物体が多数ワープアウトしてきます!!ワープアウトまでカウント18、17・・・」

 メルはやはり最初の小惑星は陽動かと思った。そこにさらに報告がはいる。

「第二惑星の公転平面の九時方向より重力振を確認!こちらも大質量の物体が多数ワープアウトしてきます!!ワープアウトまでカウント18、17・・・。」

 そしてどちらの方向にも小惑星が多数ワープアウトした。

「・・・これ・・・・小惑星になにか仕込んでいる系?」

「というか質量と数にものを言わせた飽和攻撃系だとみた。」

「小惑星が動き出しました。予測軌道が出ます。」

 正面の大型ディスプレイに三か所の小惑星群の進攻予測がでる。

「いずれも惑星α-2のキャピタル区域が目標となっています!!」

 メルとヤヒロは顔を見合わせる。

「・・・・なんだか嫌な予感がするんだけど?」

「わたしもそんなきがしてきた。」

「天頂方向と六時方向に新たな小惑星群がワープアウト!!」

 メルは首を振る。

「これは惑星を人質に取られたようなものね。」

 ひゅうとヤヒロが口笛を吹く。

「やるじゃん・・・攻略目標を占領じゃなくて破壊とか・・・今回の進級生は面白そうだな。」

「・・まあ楽はさせてくれないみたいね。オペレーター、小惑星の解析結果を!」

「了解しました。」

 ディスプレイに表示された結果によると、小惑星はβ5段階の重力場フィールドをまとっている。要するに簡単にはプラズマビームでも破壊できないし、ミサイル程度の干渉能力ではフィールドを突破できないので衝突すらおきない。

「うわぁお・・・えげつない・・。」

 ヤヒロが呆れている。

「メルさぁ・・これ艦隊戦最初からやる気向こうにはないでしょ?」

「たぶんね・・・。おそらく、小惑星の相手をしてて疲弊したころにドカンとかましてくる可能性が高いかな。」

「予測できても対処できないなぁ・・。」

「なんかすっごく相手にしたくない気がする。」

「同感。」


第十管理官学校第二学年艦隊戦シミュレーション実習仮想空間内α星系外縁部某所・攻撃側∑1艦隊旗艦σ-1指揮所。


シロが

「・・・知っててたとはいえ、実際見るとえげつない作戦ですね。これをシリウス王国の艦隊が実際にソル太陽系の地球に行ったと・・。」

「まあ、もとの作戦のほうは重力場フィールドなしだったけどね・・・それにこっちのほうはメイン標的は最初から要塞だしね。」

「そのかわり駐留艦隊がこっちのほうでは存在してますから。過去のソル太陽系よりは条件は厳しいですね。」

「過去のライブラリでみただけだけど、ソル太陽系のほうの史実にあった作戦のほうは地球と防衛要塞の月の双方を標的にしてたんだよ。駐留艦隊がいない単なる居住星系のソル太陽系への不意打ち攻撃ってやつでさ。それで初代の防衛要塞の月は破壊されちゃたんだよね。防衛要塞といってもメインは宇宙港としての機能を重視してたから・・・・・。」

「当時、ソル太陽系の中心だったアマナギは、今の日本海の中央部分、大和堆のある周辺にひろがっていて、衛星都市のスメラギとかクタラギなど十二の都市に囲まれていた、一大都市圏だったのですが・・・・隕石落下でアマナギは消滅し、サラギやスメラギも消滅してます。北海道の噴火湾や富山湾、東尋坊などの海の深い場所はかつての衛星都市の場所で、隕石が直撃した場所です。」

 ピーリンがつづけて説明する。

「この攻撃は言わずもがなですが通商連合共和国の財閥によるジョカ牧場開設計画とジョカ適正化計画によるものです。シリウスは使い走りと怨恨を引き受ける役目をやらされたに過ぎないわけです。そしてそのあとにさらにナロンギデアの虐殺がお行なわれたわけです。」

 シロはさすがにショックを受けた予数だった。

「・・きついっすね。」

 フェンラールが自嘲的にいう。

「まあ、私のご先祖はロクな奴がいなかったってことさ。」

「それよりも今は実習中です。作戦にもどりましょう。」

「そうだね。」

「わかりました。」



 さすがに隕石の飽和攻撃には先輩方も対応しきれなかった様子で、防衛要塞を破壊することにフェンラール達の進級生グループは成功する。

 そしてそこに満を持して、本隊である艦隊を投入した。

 さすがに先輩方はそれでも粘った。がしかし、多勢に無勢である。防衛要塞が破壊されたのも厳しかった。

 結果的に駐留艦隊を散々に打ちのめし、作戦目標のα-2惑星にはほとんど無傷の強襲降下部隊が展開し、その日の実習は進級生グループの勝利で終わった。


 実習後の仮想空間でのブリーフィングでフェンラール達が先輩方に自己紹介すると、先輩方から拍手をうけるという奇妙な雰囲気だった。

 ハヤカワ教官の進級生への総評は、『画期的ではないが、合理的な判断による作戦は有効だったと判断する。しかし、占領後のコスト増大についてはマイナス評価である。総合してB判定が適当だと考える』とのことだった。

 ちなみに先輩方に対しては、『対処については評価はできるが、事前準備の段階で柔軟性を欠いている。もっと事前に準備をしていれば防衛できた可能性が高い。したがってD評価が適当だと考える。』だった。

 なかなか辛口の評価だ。

 メルとヤヒロはブリーフィングが終わるとフェンラールに改めて自己紹介をして、握手を求めた。

 フェンラールのほうも握手に応じたが、正直打ちのめした相手だけに微妙な気分だった。それにあの作戦は初見殺しであって、一回使えば、二度目は有効性が低い。もちろんそれは防衛要塞を多数準備できる前提だが。準備できなければ質量攻撃としてはこれ以上ないくらいえげつなく普遍的に使える作戦ではある。

「あなたたちが新しく2-1に参加してくれることを誇りに思うわ。」

 メルはそう締めくくっていた。

「ご迷惑をおかけすることも多いでしょうが、よろしくお願いします。」

 フェンラールは無難な挨拶でお茶を濁しておいた。フェンラールとしては第二学年は通過点に過ぎない。できれば一か月以内に第十管理官学校を卒業したいのである。

 もっともメルたちもそんなフェンラールの意図を見抜いていたきらいがあった。

 忙しい日々が始まった。

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