第49話 艦隊戦シミュレーション実習(上)
フェンラールが何気なく過ごしていいるうちに、軍事教練の課程がある第十管理官学校第二学年に進級した。
そして初日からいきなり艦隊戦シミュレーション実習が開始された。
この日フェンラール達は進級生だけでまとめられて、一個艦隊を指揮することになっている。艦隊提督は話し合いで決めるように言われたが、進級生がいずれもフェンラールの関係者しかいなかった。そのせいか、満場一致でフェンラールが艦隊提督をすることになった。
ハヤカワ教官に各自の割り当てを申告すると、意外と決めるのが早かったわねと言われた。毎回この話し合いが長期化することがざらにあるそうだ。そのために時間経過が加速されているバーチャル空間で決定をおこなわせているらしい。
「早めに選ぶことによる得点はそれなりにあるのよね。」
そういってハヤカワ教官に示されたいくつかの艦隊から、扱いやすいそうな艦隊をフェンラールはさらっとみてすぐに選んだ。最新鋭の標準艦隊で、他の艦隊より機動力が高く、ほかも可もなく不可もなくといった艦隊だ。
「選択肢が広いのにずいぶん渋めの選択をするわね?」
「あまり目立つのを選ぶといろいろ面倒ですからね。」
そういってフェンラールが目をやった中央艦隊が表示からグレーアウトした。
「目立つのを嫌うってわけね。ふむ。まあいいわ。とりあえず規定時間内に編成を終えなさい。」
「わかりました。」
そういって進級生のいるバーチャル空間に戻ると、フェンラールの選んだ標準艦隊内での艦長や艦隊参謀などの割り当てをする。
シロとピーリンには艦隊幕僚を選んでもらった。シロは目を離すと突拍子もないことをするというのがここ半年の生活で否応なくわかっている。夫とはいえ、そのへんは姉のような視点だが。
ピーリンは言わずもがなの役割だ。副長を選んでもらった。副官ではなく副長であるところもポイントだ。艦長が指揮をとれないときに副長は代行をする権限をもつ。助言、補助役の副官とはわけがちがうわけだ。副長を置くかどうかはアマテラス銀河連合の艦隊の提督により個別に設定できるため、置いてない艦隊もけっこうあるそうだ。そのへんは提督の好みによるところだ。
ほかの面々は分艦隊の司令とか補給部隊の司令とか重要な部分はフェンラールの部下に割り当てた。サートやマクライ、ライナーといった新しい友人たちを信頼しないわけではないが、ここは勝手がわかる部下をおきたかった。
役職を決定し、ハヤカワ教官に報告すると、ハヤカワ教官は頷いた様子だった。
「役割分担もはやかったわね。じゃあ、任務を選んでみて頂戴。本来なら上からの命令で一方的に命令されるのが任務だけど、今日のは練習だから、サービスよ。」
フェンラールはさらっと任務一覧をみてから、面倒が少なそうな星系攻略任務を選んだ。防衛任務はいろいろと面倒くさいことを経験でわかっているからだ。
「あら・・意外ね。目立つのが嫌いだから防衛任務にするものとばかりおもってたのだけど?」
「防衛任務は人間関係の維持が面倒ですから。それに延々と待つのは慣れてないとストレスが溜まりますからね。」
「あなたは・・・ああ、他の国での経験があるのか。それでか。」
「こちらの流儀はわかりませんけどね。」
「まあ、どこも軍は大して変わらないわよ。うちの軍は死人が出ても平気だから、微妙に、強引なやり方をする人間が多い気がするけどね。」
「転生システムの有無は戦略上重要ですよね。」
「とはいえ、艦船は建造するのにそれなりに日数がかかるわ。無駄に消耗されるのは戦略上よろしくないのは変わりない。そのうえで必要な犠牲を支払い、被害を最小限度に収めることが求められる。さて、準備が終わったら、各自、所定のバーチャル空間の艦船で待機しなさい。」
「了解しました。」
広い指令所でフェンラールは命令が来るのを待っていた。提督席の後ろのテーブルの参謀席にはシロとピーリンが待機している。AIの参謀たちも数人いるが、特に会話はしていない。
『状況を開始します。』
ハヤカワ教官の宣言で実習が開始される。
今回のフェンラール達の攻略目標はα-1恒星系で、特に居住惑星である第二惑星の攻略が重要視されている。
拠点宇宙港をフェンラールは出航を命じた。
艦隊が時空空間移動を行っている間、ピーリンがどのような作戦でいくか尋ねてくる。
「この艦隊は一応最新鋭の艦船で構成されている・・・・・・・・・が、かたおちとはいえ、相手艦船の攻撃をうけてただで済むわけでもない。だから力押しは論外。」
そうして参謀テーブル上に目標恒星系を表示させる。
「相手の最大防御施設はこの第二惑星の軍事衛星要塞β3。攻略後の事を考えるなら、占領が適当だけど・・・それだと長引くし、被害が大きい。だから・・・。」
フェンラールの言葉を聞いたピーリンとシロは呆れた様子だった。
「よくそんなこと思いつきますね?」
「さすがフェルといいたいところだけど・・・。その機材の確保は?」
「すでに制作にはいてもらってる。これはシリウスのお馬鹿さんがソル太陽系につかった作戦の練り直しってところね。」
「お嬢様はその作戦のこと大嫌いでしたのに?」
「先輩方が相手だからね・・・格上相手にやるならとおもったわけよ。」
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