第47話 管理官学校での生活

 その日イサ達、天の川銀河政庁はソル太陽系の時空遊離の度合いを高め、ほぼ時間経過が起きないようにすることを決定し、すぐに実行に移した。

 正直、ソル太陽系の事でやらなくてはならない事柄は多いが、そればかりにかまけていられない事情もあった。

 それというのもラクール王国などの旧王権連盟諸国の中で政情不安を煽り立てる組織が出てきたことだ。広域宇宙警察の調査で発覚し、いまはその対処に回っている状態だ。

 すでに惑星のいくつかで摘発が実施され、犯人を検挙していたが、いずれも不法滞在者で、惑星管理システムの導入が遅れていたことが事が起きた要因となっていた。

 アマテラス銀河連合の惑星管理システムが本格的に運用されれば、不法に惑星に降りることができなくなる。力場で弾かれるのだ。アマテラス銀河連合のシャトルなどに乗っていればシャトルが着陸を停止する。不法に建造された降下艇などであればそれ自体をはじく仕組みがある。

 これを重く受け止めた天の川銀河政庁は旧王権同盟諸国の恒星系に惑星管理システムを内包する星系管理システムを大急ぎで構築中だ。これにあわせて統合銀河管理ステムの構築も開始している。

 それもあってここ数日イサ達の監査局からの出向組は睡眠不足だった。

「・・・・セバステンパレスの構築完了・・・。これで寝れる・・。」

「こちらも完了です。先輩・・・。」

 一通りの作業がおわって、執行官執務室の中はデスマーチ後の死屍累々といった状態だった。




 一方そのころ、ライネリア・テラスではフェンラール達が第十一級管理官学校の卒業試験を突破し、第十級管理官学校入学試験を受験していた。

 ちなみにフェンラール達はグループで生活できるグループ寮で生活していた。ピーリン達もグループ寮では、側仕えとして様々な仕事をしてくれていた。当初は当番制にしようとしたフェンラールだったが、ピーリン達に仕える者の誇りを立ててくれと言われてしぶしぶ今まで通りに世話を焼いてもらうことになってしまった。

 そのため、陸上競技部に入っているのはフェンラールとシロとピーリンだけだ。

 受験から数日後、第十級管理官学校に全員合格し、この日は朝からシミュレーション学習だった。その内容は、実際に惑星政庁の中間管理職として働くという内容だった。フェンラールがあたった役は生活保障課の仕事で、そこの課長の仕事だった。

 生活保障課の仕事は、各個人へのエネルギールートの配布の調整や、配給食糧であるレーションや配布用の衣服などの調整、あるいはその更新などのほか、妊娠した女性への支援や出産後の生活支援など多岐にわたる。

 このシミュレーション学習は、過去の事例を再現したものになっており、実際にそこで働くという体験ができる。シミュレーションといっても情報空間内で実際に生活も行い、それにより評価点をえるしくみになっている。

 評価点が足りなければ学習のやり直しだが、何度でも挑戦できる仕組みになっており、学習以外に余計なプレッシャーがかあkらない学習制度に管理官学校はなっていた。

 都合、情報空間内で五十年任務を務めあげて、学習が終了した。

 フェンラールの評価点は100点満点中88点となかなか高得点をはじき出していた。シロのほうは76点と低迷はしていたが、一応70点以上が合格範囲なのでぎりぎり合格になっていた。ちなみにピーリンはしれっと94点という高得点をあげていた。

 シロはふっと息を吐いた。

「なんとか今回も追試を免れた・・・・。」

 フェンラールが慰めていた。

「よかったじゃない?」

「判断がなかなかつかないんだよね・・・・・・・・。」

 シロは判断の速度にマイナス評価がついていた。無理もないというべきだろう。いくら睡眠学習をしたといっても、すぐに判断能力がつくわけでない。むろこういうシミュレーション体験を繰り返すか、実地で経験しなければ判断能力はつかないだろう。

 シミュレーション学習が終わると、昼の時間になっていた。

 フェンラール達は、いつも様に学内食堂の二階の奥の方に席を取り、ウェイターかウェイトレスが来るのを待った。学内食堂と言っても実質レストランに近い。

 ここのウェイターやウェイトレスはAIが動かしているアンドロイドがほとんどだ。ごくたまに人間のウェイターやウェイトレスが混ざることもあるがそれは学生のアルバイトだ。

 管理官学校に修学年限はない。そのため長期間休学するものもままいる。また、在学中の学生は毎日定額のエネルギールートが振り込まれるため、衣食住が完全に保証されているだけでなく金銭的には余裕があるくらいだ。しかし、趣味で宇宙船をつくるクラブなどクラブ活動に高額の費用がかかるものがあり、そういうクラブに入部しているとどうしてもお金が足りないので、アルバイトをしなければいけない場合もある。そういった学生が学内でアルバイトをしていることが多い。

 学内でフェンラール達はいつも固まっていることが多いのもあって顔見知りで軽い会話をするような知人はいるが、友達と言えるような同級生はほぼいない。

 しかし、なかにはそういうフェンラール達に近寄ってくるもの好きもいて、今日もフェンラール達の側の席に三人ほどの同級生が座って話しかけてきた。

「フェンラール達はどうだった?」

「まあまあかな。しれっと高得点とっていった使用人がそこにいるけど。」

「あはは・・・。ピーリンさんね。」

「そういうアマギシさん達はどうだったのよ?」

「三回目でどうにか合格だよ。おかげで俺はへろへろ。」

 そう答えたのは長身のマクライ・アマカワという青年だった。

「マクライは、座学さぼりすぎででしょ。そんなんだから実習小テストでこけるんだよ。」

 マクライを窘めたショートボブカットの女性がサート・アマギシだ。彼女は勝気な性格をしており、顔つきもその雰囲気をよくだしている。

「座学でどうにかなるか?あれを・・・・。」

 横にいた最年少らしき少年がつっこむ。

「座学で判断基準とか覚えてれば、どうにかなる部分が大きいよ。それなしだと余計にきついだけってはなしさ。」

「ライナー、そりゃねぇだろ?」

「自業自得。」

 ライナーとよばれた少年の言葉にマクライをどんぞこに突き落とす。

「・・・試験をなんどおとしてもいいんだから、ここで失敗をなんどかするというのも勉強になるとおもう。」

 フェンラールはそうフォローする。

「かぁ~!いまの聞いたか?フェンラールのこのやさしさ!」

「既婚者に余計な期待をしないほうがいいと思うけど?」

 漫才のような掛け合いがあり、それがフェンラールにとってはこそばゆくまた、楽しい時間だった。

 シリウスでは士官学校にいくまではずっと王宮で家庭教師におそわるばかりで、閉じこもりの生活で、同級生というものを知らなかった。また、それしか許されてなかった。

 士官学校も、第十三王女ということで常にトップを張らなくてはならないプレッシャーで、友人らしい友人もいなかった。

 いまこうして学校で同級生とたわいもない会話をするのがひどくいとおしかった。

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