第29話 始まりの復讐

 天の川銀河南東領域αセクター・レンネルデント星系小惑星帯・バルンスト宙賊団本部隠れ家。


 バルンスト宙賊団は大規模な宙賊団であり、傘下にいくつものアウトローコロニーを抱えている。ここ本部になっている隠れ家は岩石惑星をくりぬいて中をコロニーしたもので、内部で数多くの人々が生活していた。

 もちろんその多くは宙賊の仕事にをしており、あるいはそういった宙賊の相手をする娼婦だったりする。宙賊団の学校すらここには存在し、子供たちが襲撃の仕方を学んでいるようなところだった。


 この日、バルンスト宙賊団の会議棟では中堅幹部が会議を開いていた。

「それでうちの新鋭船をつかっていたベンゼスの野郎の足取りは?」

「SAコロニーから先で途絶えています。現地の支部によるとベンゼスの野郎は儲け話を見つけたと言っていたそうです。ワンダラーズ商会を部下達に張らせていたという証言を得てます。」

 その言葉にまさかという声があった。

「ワンダラーズ?みうちとはいえないが、アウトロー界隈では有名な山師じゃないか・・・・ベンゼスの野郎・・。」

「掟破りで一儲けを考えたというのが現地の支部の見方です。」

 報告している部下はさらに宇宙警察に護送されるワンダラーズ商会の作業船と貨客船を見たというアウトロー界隈のうわさを報告する。

「するって~と、宇宙警察にワンダラーズ商会は助けを求めたってことか?」

 幹部のその言葉に部下は首を振る。

「どうも信じれない証言なんですが、大型貨客船に撃墜されたという情報もあります。」

「その貨客船の身元は?」

「オープンチャンネルでの宣言の録音があります。」

 録音を聞くと中級幹部たちは何とも言えない顔をした。

「・・・・ミネアリア・テラス船籍ってのは・・・。」

「最悪だな。」

「その船が宇宙警察に通報したのは確実だ。」

「SAコロニーの支部をすぐに撤退させろ!!」

 幹部たちの動きが慌ただしくなった。

「俺はお頭に連絡を入れる!」


 コロニーの中央にある幹部棟のなかでバルンスト宙賊団の団長であるイフェン・バルンストは部下の報告をうけて苦い顔をしていた。このまま推移すれば確実にブロマシー宙域は活動域にできなくなる。

 宇宙警察が動いている以上、そこには近寄れない。

 イフェンは宙域図を表示させて、宇宙警察の活動範囲を推測する。

「こりゃあ・・・αセクターはダメだな。しのぎに使えなくなる。」

 その言葉に側にいた年かさの男性がお頭それはどういうことですか?と聞くと、αセクターでもβセクターに近いところにSAコロニーがあることを説明する。

「となると当面の稼ぎは。ソル星系へのゲーム参加者用の高級客船とか、シリウス残党から委託されているジョカの売却がメインになりますね。そのジョカの販売網も縮小されつつあります。」

 イフェンは頷く。

「かなりつらいところだな。おまけにうるさい連中を抑えてくれた商会幹部は軒並みしんじまったし・・・。」

「・・・ここは士気をあげるためにそのプリウム一世とかいう船を狙ってみてはどうですか?」

「・・貨客船ねぇ・・。もちろん追跡部隊は出すが・・・・・正直気がのらん。おまけにあのオペレーターの声に覚えがある。八割方の確率であれはフェリッサリアの嬢ちゃんとその部下の船だ。」

「フェリッサリアのお嬢というと・・・シリウスの?」

「噂では王族だったとかいういわくつきのあのお嬢さんだ。うちはシリウスの後輩みたいなもんだからな・・・。どうやってアマテラス銀河連合側についたのかはわからんが・・・・・・性格的にそっちのほうがあにお嬢ちゃんならむいてそうだわな。」

「となるとこちらの手のうちは読まれていると・・。」

「読まれてるだろうな。しかし、そうなるとまずいな。」

 イフェンはこのコロニーの場所がむこうに漏れている可能性に気が付く。すぐに事にはならないと考えたいところだが、絶対とはいいきれない。せっかく何代にもわたって築いてきたこの拠点は惜しい。しかし、宙賊の棟梁としての勘がにげろとささやいている。

 そんな感傷に浸っているところだったが、そこで突然振動が走る。

「・・・ナーラン。被害と相手がなにか報告をするように各部にだせ!それと外部カメラの映像を出せ。」

「はい!」

 ナーランがいくつかの操作をしていると画面が映る。

 そこには隠れ家の岩石惑星を取り囲む艦隊の姿が映っていた。

「・・・こいつは・・・。しかもあの船の形に見覚えはない。となると・・・。」

「宇宙警察の船とも違いますね。」

 そこにオープンチャンネルの通信が飛んでくる。

『こちらはアマテラス銀河連合天の川銀河南東域鎮圧艦隊である。これより非道の宙賊の殲滅を行う!一兵も逃す気はない!この通告は覚悟をきめさせるためのせめてもの慈悲である!!』

 その言葉にイフェンは椅子にどっかりと座った。

「すぐに逃げれる連中は逃げるように指示しろ!」

「お頭・・・・・それでは・・」

「たぶん逃がしてくれなさそうだがな・・・。」


 アマテラス銀河連合天の川銀河南東域鎮圧艦隊旗艦トールイール。艦隊提督のニギは面倒な仕事をイサに言われたものだと思った。

 仕事内容は宙賊拠点129カ所の同時殲滅である。一兵も逃すなとのオーダーだ。つまり、女子供関係なく宙賊関係者は始末しろとのことだ。

「提督?」

「わかってる。この艦の主砲をα9深度で核融合射撃用意。周りの艦艇はすぐに封鎖フィールドの展開強度をβ8に上昇。」

 アイアイサーと返事と復唱がきてから、各部の状態を確認してニギは命令を下す。

「主砲斉射!」

 トールイールの主砲からプラズマビームが照射され、岩石惑星の中心まで貫通の後に、その中心から一気に閃光が走った。中心座標で完全核融合爆発が起こり、まわりにそれが連鎖して核融合爆発がおきていく。

 そして閃光がおさまったときにはその場には岩石の一つすら残っていなかった。

 通常の核融合では残る中性子すらエネルギーに変えるこのビーム射撃は今のところアマテラス銀河連合しか持ちえない技術である。そして爆発で発生する放射線などの粒子を完全に封じ込めるのもアマテラス銀河連合独自の技術である。これがあるため核融合爆発をおこさせても周りに影響を与えずにすむわけだ。




 クラヌスではフェンラールが若干の感傷に浸っていた。

「いまごろあの連中も死んだころか・・・・・。イフェンには悪いが・・・あそこの宙賊団には面倒な奴しかいなかったしな。」

 ピーリンが新管理官ビルの休憩所でひとり呟くフェンラールに肩をすくめていた。

「・・以前もこっちが狙われたことがありましたしね。イフェンはまあ悪い人ではなかったですが、宙族の棟梁としての考え方しかしないひとですからこちらに引き込むのはむりでしたでしょう。割り切れとはいいませんが、復讐とはこういうものですよ。」

「そうだね。ま、あいつらは無辜の人間の不幸の上に生きていたんだから自業自得だね。」

「それより問題はアッケドン財閥の件です。」

「あの財閥は面倒だね。アマテラス銀河連合があえてソル星系をおよがせているのも惑星ゲームテラ利用者やテラ放送受信者を特定し、徹底的につぶすためだろうね。正直わたしも胸糞悪い。」

 ピーリンも頷く。

 このまま放置するには大きすぎる悪だ。通商連合共和国の残党がまだこの銀河内には相当数いるが、それ以外にもテネル銀河で似たような事業を起こそうとしていたという情報がある。

 惑星殲滅兵器ジョカの不拡散を図るためにもここでつぶせるだけはつぶしたいところである。

 絶対正義は存在しないが、悪と絶対悪は存在する。それが現実だとフェンラールは思った。

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